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    涼之介

    らくがきとか短いのとか整えてないのとか支部に投げるようなのじゃない文章とか投げる。

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    涼之介

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    前言ってた酒飲んでお隣さんに泣きつくみきみきの殴り書きねたうち。このあと神ミキになる。酒飲みネタ擦りすぎ問題。殴り書きなのですごーく荒い

    「……好きな人、できたんだ」
    「あー…………頑張れ?」
    「えっなぜに疑問形」
    「…………俺、は、シンジくんのこと、めちゃ優良物件だと思ってるから。お前の恋は実ると思うぜ」
    「……そうかな」
    「もし振られたら慰めてやるミキよ〜」

    数日前に居酒屋でした会話が頭から離れない。思い出したくもないのに、何度も何度も勝手にその部分だけ再生する。
    報われなくていいんだ。ただただ今は、消えたいだけで。
    記憶を全部ぐちゃぐちゃに塗りつぶして、誰も彼もの頭から自分の存在を消してフェードアウトしたいだけで。
    わかってただろ。こういう日が来るって。決めてただろ。潔く身を引いて応援するって。
    二十をこえて三十を超えて、結局ずっとそんな素振りのなかったあいつに勝手に安心して。そして勝手に裏切られた気分になって。
    主人公じゃない。スポットライトは当たらない。
    涙を拭う手なんてあるはずもなく、後日談なんてもってのほかだ。
    たかがモブの分際で、こんなこと考えているのも烏滸がましいのに。

    ぐるぐる同じところを回る頭。何本目かわからない缶を飲み干して、机に置いた。こつんと軽い音がして、やけに悲しい響きだったから机に突っ伏した。空っぽでかなしい。もっと欲しい。
    「み、三木さん……さすがに飲みすぎじゃないかな?」
    「…………五本だけですよ」
    はー頭ぶっ壊れたらいいのに。酒豪の気分を味わいたい。何本目かわからないとか言ってみたかった。わかるんだよな。わかるし、酔えないし、気持ち悪いだけだし、お隣さんにもそのまたお隣さんにも心配かけるだけだし。
    「普段ノ三木サン、飲ンデモ二本デス。強クナイ言イマシタ。……何ガアリマシタカ?」
    ほらクラさんにも突っ込まれた。何があったかって……。いや、いい歳こいたおっさんが、失恋しました〜なんて酒飲んで泣きついてるのは絵面がやばすぎるし……失恋? えっ失恋したのか俺。
    「はぁ〜〜〜〜…………」
    「クソデカタメ息十三回目デス」
    「これは深刻だね……」
    吉田さんが慰めるようにぽんぽんと背中を叩く。やさしい。というかすでにもうめちゃくちゃ迷惑かけて絵面はやばい。ハハ。
    「僕らにも話せないこと? 僕、そういうのも話せる友達だと思ってたんだけど」
    「う……」
    友達。友達なんだよな。俺だってそう思ってた。そうできるって思ってた。
    「三木サン、神ハスベテ赦シテクレマス。正直ニ話シテクダサイ」
    「告解室?」
    クラさんの纏う空気が変わる。まじで今ならなんでも赦されそう。いやわかってる、二人は何言ったってバカにしたり茶化したりなんて絶対したいどころか親身に話を聞いてくれるわけで――。
    「……俺、ずっと前から、好きだったやつがいるんです」
    「神父さんオーラ効いちゃったよ」
    「気付いたら好きだったから、いつからかはわかんないです」
    「うんうん」
    「ずっと付かず離れずで、友達やってきたんです。たぶん、一番仲のいいともだち。だから俺、あいつに好きな人が出来たら、応援しようって思ってたんです」
    「うん」
    「それなのに、ちゃんと応援してやるって言えなかった。あいつの口から好きな人が出来たって言われた時、頭真っ白になって、墓まで持ってこうとした言葉を言いそうになったんです」
    「あ〜」
    友達失格だ。つらい。こんなに辛かったことなど今まで一度もない。酒をもっと飲まなきゃならない。
    「あいつの頭から俺だけ消えたらいいのに。そんで俺の頭からも消したい」
    「それは悲しすぎるんじゃないかな。いい思い出いっぱいあるでしょう? 報われない片想いの記憶かもしれないけどさ。ほら、まだまだ人生続くし、僕らと知り合ったみたいに出会いもあるだろうし」
    「ソウデス。記憶消スハヨクナイ。死ヌト同ジデス」
    訳の分からない告白を二人は真面目に受け止めてくれる。なんて優しい隣人たちなんだ。
    「トコロデ三木サン、サッキカラ、ズットスマホ鳴ッテマス」
    「んえ」
    なんとか腕を伸ばしてスマホの上に手が乗った。小刻みに震える機械は、それがメッセージではなく電話であることを示している。
    急な仕事だったらまずい。さすがに酒が入りすぎてるから断らざるを得ない。
    ぼやけた視界で画面を見ると、今一番見たくない名前だった。
    「……三木サン?」
    画面を睨んで手が止まる俺に、クラさんが声をかけてくる。
    「あー……まさか」
    「……しばらく鳴ったら止むと思うんで」
    「三木さん、出た方がいいですって。こういうパターンは後で後悔しちゃったりするんですから」
    「………………」
    吉田さんの言葉もかかってきた電話も無視する。出たくない。出られない。きっと何も話せなくなる。そして何もかも話してしまう。
    ふつり。十数秒経って静かになったスマホのロックを解除する。
    着信でバイブも起動しないように設定した。これで安心だ。
    「三木サン、本当ニ良イノデスカ」
    「いいんです。これでいい。あいつには俺以外にも頼れる奴なんていくらでもいるんです。……俺だってあいつのおかげで浮いた話ひとつ無かったんだから、恋愛相談なんて乗れるわけないだろばーーか……」
    ぐらりと視界が揺れた。眠気が酷い。何とかして自分の部屋に戻らないといけない。けど、一人になると余計なことばかり考えそうで、出来ればここにいたいと思っている自分がいて、ぐちゃぐちゃの考えがそのまんま絡まり続けていく。
    ひそひそとクラさんと吉田さんが話している。スマホの画面は明るくなって、一部分がちかちか点滅している。
    「三木さん、やっぱりちゃんと話した方がいいと思いますよ」
    「ツナガリ、大切デス。モシクハキッパリハッキリ言ウベキデス」
    きっぱりはっきり……? お前が好きなのでお前の恋愛相談には乗れません、なんて言うのか? 友達ですらいられなくなるのに――いやもういいか、こうなってる時点で終わりだし。
    「……三木さん、ほら、手貸して」
    「ふぁい…………」
    吉田さんに促されるまま手を出す。むにむにと手のひらと指を触られて、なにかひんやりした硬いものに触れた。ああそうだ、お酒、おかわりが欲しくて。
    「ミキサン、一度水ヲ取リニ台所行キマショウ、手、貸シテクダサイ」
    「はぁい」
    クラさんに促されるままよろよろ立ち上がる。クラさんの手はひんやりしていて気持ちいい。
    「……すみません吉田です、静かにそのままでお願いします」
    「……よしださん?」
    「ああ、大丈夫です、独り言ですよ」
    「ミキサン、オ水」
    「ちゃんと飲みます、飲むから……お酒のストックまだありましたよね?」
    クラさんが困ったように吉田さんを見た。「あるけどないです」なんて不思議な返答が聞こえた。二つのグラスに注がれた透明な液体と薄茶色の液体を少しずつ飲み終わったら、おかわりをくれるらしい。
    さっきまで自分が座っていたところには、吉田さん宅の猫が座っていて、仕方が無いのでその横に座った。
    「ええと、それで三木さんは、誰のことが好きなんでしたっけ?」
    「えっ、むしかえすんですか」
    「三木さんにちゃんと覚悟決めてもらうためにも大事なところだから」
    「覚悟って……身を引く覚悟、ですか。それは、そうですね。結局覚悟が足りなくて……」
    「それはあとでにしましょ?誰が好きで、どうして悲しかったのか、教えてください」
    吉田さんは優しくこちらの言葉を引き出そうとする。声色があんまり優しくて、逆らう方が馬鹿らしく思えてくる。
    「……高校の時の同級生、です」
    「オ名前ハ?」
    えっ、名前まで言うのか。いざ口にしようとするとやけに気恥しい。
    「ぅ…………シンジ。神在月シンジってやつで」
    「神在月サン」
    「リピートしないでください……」
    アルコールで熱かった頬が更に熱くなる。
    「三木さんは、神在月さんのことが好きだったんだね」
    「いや、好きというか、その、友達、友達としてが大前提で、だからちゃんと応援したくて」
    「でも、辛かったんでしょう?」
    「つらい……そう、ですね。つらいです。気持ちを伝えられないことも、俺のこの感情をあいつが受け入れるはずがないってことも……俺じゃない、好きなやつがいるってことも…………」
    あの報告をしてきた時、シンジはどんな顔してたっけ。恥ずかしそうにしてて、こっちの反応見るようにじっと視線を向けてて……ちゃんと応援してくれるって思ってたんだろう。曖昧で雑な受け答えをしてしまった。言われた直後からほとんど記憶がなくて、ほんと、自分でもバカみたいだって思うほど食らってて……。喉奥から何かがせり上ってきそうで、グラスの薄茶色の液体をあおった。ああ、麦茶が美味い。美味くて涙出てきた。情けない。みっともない。
    「……ごめん、ごめんしんじ、無理だ、応援なんてしてられねえよ……。お前のこと、ずっと好きだったから……っ、いまさら、いまさらどうやって……」
    目の前が急速に滲んでいって、吉田さんの顔もクラさんの顔もよく見えない。ただ、背をさすったり頭を撫でたりしてくれた。こんな酔っ払いに付き合ってくれて、どこまで懐が深いのだろう。
    「…………吉田サン」
    「……うん、十分でしょう。……あの〜、聞こえてましたよね? そういうことなので……」
    吉田さんが話しかける方向には、小さな板――スマホだな、スマホがあって、そのスマホは見間違いじゃなきゃおそらく俺ので…………映ってる画面は、通話中?
    「ッ!? なん、なんで」
    「ほんとにごめんなさい三木さん、でもさっき見えちゃった通知とか、普段のやり取りとか的に、こうするのが一番いいと思いまして」
    どこから、どこから聞かれてたんだ。やばい、だって何喋った? ぐだぐだと酔いに任せてあることないこと……いや全部あることだった。なら、逃げなくては。二度と姿を見せないように、せめて恋路の邪魔にならないように。
    ともあれここに居続けるわけにはいかないと立ち上がろうとしたが、手をクラさんに引かれる。スマホからは何か声が聞こえてきている。
    「……ンン、ミキサン、呼バレテマスヨ」
    「や、やです」
    「ええと、はい、大丈夫です捕まえておくんで」
    「吉田さん……?」
    「これからこっちくるそうなので……というかもう家出てたみたいで」
    困り眉で微笑んでいる吉田さんが何を考えているのかさっぱり分からない。クラさんの「オ赤飯デスカ?」の発言の意味もわからない。
    「三木さん、ちゃんと、お話してください」
    「やです……おれ、これ以上シンジにひどいこといいたくない」
    「その辺の答え合わせもですね」
    手足に力はもう入らなかった。指先が冷たくて、心臓だけがばくばくと元気で、悪酔いしたって言い訳を並べ立てる作戦を考えるのに必死だった。


    吉田さん宅の呼び鈴がなるまであと十数分。
    引きずられるように移った隣の自部屋で、酔った末の幻覚を見るまであと三十分程度。
    思い知らされるまであと一晩。

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