いつか 誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。アイドルになりたての頃はよく思っていた気がする。祖父母や蛍に会いたかった。でも、その願いを叶えられるようになってからは、そんな風に思うこともなくなった。
そんな俺の頭の中を占めているのはユニットメンバーのピエールで、なぜならあいつの身元が明るみに出てしまったからだ。ある日、芸能雑誌にすっぱ抜かれて、それからは関係ない仕事でも針の筵だった。インタビューでも「国でできることがあるんじゃないでしょうか!?」なんて質問が飛んで、ピエールの顔色も真っ青だった。俺とみのりさんとプロデューサーはフォローすることしかできなくて、でもきっと、一人で抱え込んでいたことを指摘され続けたのは堪えたのだろう、ピエールはどんどん追い詰められていった。
ある日、ピエールの父親が亡くなった、とニュースで知った。その日、ピエールに会うと、赤くなった目元を隠さず、「ボク、国に帰る」と言った。
「でも、王位継承権の争い中なんだろ?帰ったら余計にまずいことにならないか?」
ピエールはにこ、と微笑む。それが今まで見た中で一番元気のない笑顔だったから、胸が痛んだ。ここまで、傷つけてしまった、周りが。
「ボク、何もなかったようにここにいる、逃げだと、思う」
大きく息を吸って続けた。
「ボク、ファンのみんな、笑顔にしたい!でも……もっと、ボクの国のみんな、笑顔にしたい……!」
もっと守ることができたら、ピエールはそんな決断をしなかったかもしれない。でも、ピエールがずっと悩んで出した答えなことも伝わってきて、俺たちにそれを止めるなんて無理だった。
そうして、ピエールは帰って行った。
たまに連絡をする。LINKは海外でも顔を見て話せて便利だ。でも、なんとなく当たり障りのない会話だけしか今はできない。ピエールの覚悟を知ってるから。
いつかきっと、話すんだ。日本に帰ってきて、アイドルをやらないか、って。ピエールが、国民を笑顔にして、胸を張ることができるようになったら。俺が、「何からも守るから」と言えるようになったら。
条件が多すぎて途方に暮れる。それでも、また必ず会えると知っているから。