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    miyunosanagi

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    ぶるぽんさんと妖精さん

    秋の贈り物身体の節々に存在感のある重みと温もり感じて、ぶるぽんは目を覚ました。目を覚ますといっても、見た目の上では常に目は開きっぱなしなのだが。
    「ア! ブルポン、オキタ」
    「オハヨー」
    腹の上やら頭に乗っていたり、腕にしがみついていた小さい生き物がわいわいと喋り始めた。人間の手のひら程の大きさのぶるぽんよりさらに小さい、親指ほどもない彼らは妖精さんというらしい。
    南陽殿の小神官の姿を模したぬいぐるみであるぶるぽんや、玄真の小神官、それぞれの将軍たちに、彼らはよく似ていた。
    たまにどこからともなく現れる彼らを、ぶるぽんは小さな友人として可愛がっている。
    「オハヨ……」
    ぶるぽんは身体を小刻みに震わせながら、よっこいしょと起き上がった。ぶるぽんの動きに合わせて、妖精たちがぽてぽてと床に着地していく。
    床に降りた彼らはぶるぽんのまわりでぴょんぴょんと飛び跳ねながら纏わりついてくる。
    「ブルポン、キョウ ヒマ?」
    「ヨウジ、ナイ? デート トカ」
    「デート……イイナァ。ナイヨ」
    暇だよ、と小さく呟くと、妖精たちは嬉しそうに歓声をあげた。
    「ドングリ ヒロイニ イコ!」
    小さい扶揺が、ぶるぽんの袖を引っ張った。
    「ドングリ?」
    「ドングリ! オソトニ イッパイ オチテル」
    「ドングリ、オヨウフクト コウカンデキル」
    「ヘェ……イイヨ」
    なんだかわからないが、彼らはどんぐりを拾いたいらしい。特に予定もないぶるぽんはそれに付き合うことにした。


    外に出ると木々は見事に紅葉し、まさに秋の風景だった。足元には落ち葉が散って、ぶるぽんと妖精たちが歩くたびにパリパリと小気味のいい音を立てた。
    空を見上げると、高い青空を覆うように大きなどんぐりの木が枝を広げていた。
    「ドングリ イッパイ!」
    「キレイナノ サガス」
    妖精たちが喜び勇んで駆けていくのを、ぶるぽんはのんびりと眺めていた。
    彼らは艶のある綺麗などんぐりを拾っては、いろいろな角度から見つめたり、振って音を確かめたりしているようだった。
    試しにぶるぽんも足元のどんぐりを拾い上げてみる。するとどこからともなく虫が飛び出してきて、ぶるぽんは驚きひっくり返った。
    「ウウ……ビックリシタ……」
    落ち葉に埋もれてブルブル震えていると、自分に似た妖精が近寄ってきて、腹に這い上がってきた。
    「ブルポンモ 、ドングリ サガス?」
    「ドングリハ、ヤメトク……」
    「ソッカァ。アッチニ オハナモアルヨ」
    「ウン、オハナ」
    てくてくと駆け出す小さい南風の後をぶるぽんも追いかける。そしてどんぐりの木から少し離れた開けた場所で、妖精は足を止めた。
    「オハナ、アキニ サクヤツ」
    そう言って彼が指差した先には、一面のコスモス畑が広がっていた。秋らしいくすみがかった桃色や橙色が風に揺れて、幻想的な光景だ。
    妖精は一層艶やかな桃色に近寄ると、精一杯力を込めて、その一本を手折った。
    コスモスの花は彼にはとても大きかったが、力強く抱えて戻ってくる。
    「ヨウセイサンハ、フヤオガ スキダカラ、フヤオニ アゲル。ブルポンハ、デカイ フォンシンニ アゲタラ?」
    「……ソウダネ、ソウスル」
    ぶるぽんは辺りを見渡して、瑞々しく花弁を揺らす橙色に手を伸ばした。そして今度こそ虫が隠れていないことを確認すると、ぱきりとその茎を摘み取った。
    背丈より大きいその一輪を日にかざすと、光を透かしてきらきらと輝いて見えた。
    「ヨロコンデ クレルカナァ……」
    「ダイジョブ。デモ、ソノマエニ プチプチ キレイニシテ カエロウネェ」
    「プチプチ……?」
    ぶるぽんが妖精の視線を追って自分の身体に目を向けると、どこでつけたのか大量の植物の種子が全身に絡まっていた。
    「ヨウセイサンガ ムシッテアゲルカラ ダイジョブ」
    小さい南風がそういうと、いつの間にかどんぐり拾いを終えていた残りの妖精たちもわらわらと集まってくる。
    せっせと種子を取り除いてくれる彼らに時折ぬいぐるみ生地も一緒に毟られながら、ぶるぽんはよろよろと自分のうちに帰っていった。


    「昨日洗ったはずなのに、なんかまた薄汚れてるな……。……ん? コスモス?なんでこんなところに」
    風信は、くったりと項垂れたぬいぐるみの横に落ちていたコスモスを手に取った。大きくて立派で、色鮮やかなそれを見つめて風信はふっと微笑む。
    「……確か、空き瓶があったな」

    ぶるぽんが目を覚ますと、妖精たちはいなくなっていた。どうやら豊作のどんぐりに満足して帰っていったのだろう。
    ふと、身体がふかふかと綺麗になっていることに気が付いた。いつの間にか洗ってくれたようだ。申し訳ないな、と思いつつ辺りを見渡すと、窓辺に美しい橙色のコスモスが生けられて、秋風に揺れているのが目に映った。
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