冷めたチキンを温めますか?③【レムマツ】「……ってなわけで、最高級のケーキとチキンとシャンパンをなる早で頼むよ〜」
「断る」
「えっ!?断るのはっや!!」
暴食の国の国王・ハランはそう言って、珍しい来客……怠惰の国の国王・レムに向かってシッシッと手で払う。
「貴様が珍しくこの国に顔を出して珍しいと思ったら、そんなくだらない理由で」
「暗井夜音たんと過ごすクリスマスはくだらなくなんてなーいっ!!」
「過ごす?貴様と?ただの生配信だろう。ただでさえこの時期は繁忙期だというのにくだらん理由で吾輩の時間を割きおって」
「頼むよ〜!一生のお願い!推しと過ごす特別なクリスマスならご馳走は最高級のものにしたいんだってばぁ!そうすれば夜音たんは喜んでくれるし、婚約者としての矜持が保たれるっていうかぁ!」
「婚約者?……まさかとは思うが、その暗井夜音とやらにとっては自分こそが特別だと思っているのか?哀れなやつめ」
フッとハランが見下すような目で笑うと、レムもまた見下し切った目……とはいえアイマスク越しで見えないが……でハランを見つめ返す。
「哀れなのはそっちの方でしょ?最近パパ活男にすっかり入れ込んでるみたいじゃん?宝石やらバッグやら貢いでさぁ……このボクが知らないとでも?」
「ああ、何を言い出すかと思えば……あと、パパ活男ではなくスノウだ。本人がこの場にいないとはいえ、吾輩の花に向かって失礼な呼び方はやめてもらおう」
「フッwwwwww花ですとwwwwwwフヒwwwwww噂以上の入れ込み具合ですなぁwwwwwこれが廃課金兵wwwwwww」
そう言って、レムは腹を揺らして笑う。ハランは、ただただ不愉快そうな表情でレムを見据える。
「さっきの言葉を丸ごと返させてもらうけど……キミ、まさか自分がそのスノウとやらにとっての特別だと思ってんの?wwwwwいやいやwwwwwwどんだけ課金しようがさぁ、そのスノウとやらにとってはキミは金を出してくれるキモいおじさんのひとりに過ぎないでしょwwwwww」
「フンッ、なぜそう言い切れる?吾輩とスノウの間にある愛は紛れもない本物……紛い物の愛に溺れている貴様とは格が違う」
「うわー、勘違いおじさんキッッッツ。一体何食べて育ったらこんな自己肯定感バリ高になるんだか……」
やれやれと肩をすくめてそう言うレムに、ハランは白けた目を向ける。
「貢いでるだのなんだの言ってるが、貴様も似たようなものではないか?聞けば貴様は配信のたびに複数のアカウントを使ってまで高額のスパチャを投げているとか……」
「は???なにさ、人の推し活に口を出して……仕方ないじゃん、夜音たんは人気者なんだから。どんなに熱心にコメントしようが大量のコメントに埋もれて読んでもらえないし、常連でさえ名前で呼んでもらえることは稀だし。だったら、いつまでも夜音たんに覚えてもらえるように、そして他のファンにボクが夜音たんの一番のファンだって認知してもらえるように、常時赤スパ連投するのは婚約者の義務じゃん?」
「金を投げなければ覚えてもらえないとか、もはや婚約者の関係でもなんでもないですぞ。それに金を使えばいいってものでもないし、それとパパ活の何が違うと……」
「あーうっさいうっさい!今回だけキミに頼ってやろうと思ったけど大間違いだったね!もういいよ!シャンパンとチキンは通販で良いの買うとして、ケーキは……マツリにでも作らせるよ!」
「それじゃ!!!!」とレムは苛立たしげにドアを開け、バンッと乱暴に閉める。レムが自室から出ていくのを見送ったハランはふぅっ……とため息を吐く。
「まったく……あやつは結局はマツリに頼るのですな。無自覚なのが厄介というか……マツリはこの先も苦労しそうですな。いや、それこそがご褒美なのか?」
しばらくして、コンッコンッとノックされる。ハランが入るように促すと、部屋に入ってきたのは赤い肌のゾンビ……ウーロンだ。
『あ、あの……ハラン様。24日か25日に、どうにか休みを取りたいのですが……その……やはり、難しいでしょうか……?』
もじもじとした様子のウーロン。彼が休みを取りたい理由……それは、火を見るより明らかだ。だからこそ、ハランは首を振った。
「無理ですな。24日と25日は一番忙しい日……暴食城で大規模なクリスマスパーティーを開く予定故に、ゾンビ総動員でかかってもらわなければ困る」
『や、やっぱりそうですよね……す、すいません……無茶なことは承知でしたが……』
シュンッと落ち込んだ様子のウーロンだが、ハランは言葉を続ける。
「それに、貴様にはクリスマスパーティーで来賓のエスコートをしてもらわなければならない」
『来賓?それは、どなたで』
「ミンミンだ」
『!?』
驚きのあまり口をパクパクさせているウーロンに、ハランはさっきと打って変わってフッと穏やかな笑みを浮かべる。
「彼女は吾輩の弟子のようなものだ、クリスマスパーティーに招かないわけがないだろう?それに、同郷の方が彼女も安心してエスコートを任せられると思いましてな」
『えっ……?えっ………?で、でもおれにはパーティーに着ていける服が……』
「タキシードならこちらで用意しますぞ?特別にヘアメイクもつける故に……来賓の前で、無様な姿は見せられませんからな」
『えっ、あっ……あの……ありがとうございます!!』
ウーロンは感極まった様子で、深々と頭を下げる。ハランは、「認めたわけではありませんが、まあ日頃の行いが良いのでお膳立てぐらいはしてやろう」と思いながら、窓の外に降り積もる雪をただ眺めていた。
ースノウも、クリスマスパーティーに招いたら喜んでくれるだろうか?
つづく