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    まぎー

    アリーナ 
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    まぎー

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    ハロウィンその2
    生存if後

    作中の映画は架空のものです

    Hauntedハロウィン当日の夜。夕方から夜にかけて子供達を迎え続け、通りに子供たちの姿がほぼ見えなくなった頃。ホラー映画でも観るかというユダの提案に、ジーザスは案外乗り気そうな反応を見せた。

    プラスチック製のジャック・オー・ランタンの入れ物から菓子をテーブルに空け終え、椅子に座ったユダを見てにこりとする。

    「いいね。残ったお菓子を食べながら観ようか」

    着替えてくるね、とジーザスは黒に赤い裏地のマントをはためかせながら自室へと向かった。安っぽい仮装用のそのマントと、その下に着たいつもの白シャツは脱いでしまうのだろう。ユダはいつものTシャツにジーンズなので、特に着替える必要はなかった。ユダは頭に着けた赤い角のカチューシャを外し、散らばった色とりどりの菓子の傍に置いた。テーブルの上を眺めながら、彼があのマントを脱いでしまうのは少し残念に思えた。

    今年のハロウィンは子供たちを迎えたいとの提案に同意すると、ジーザスは物持ちの良い使徒の一人からマントとカチューシャを預かってきたのだ。マントを着用したジーザスを見た時のユダは、少々感慨深い気持ちになってしまった。数年前のハロウィンの日、彼に胸をときめかせたことを思い出した。ジーザスも、どこか照れたように上目遣いで悪魔の角を付けたユダを見つめた。懐かしいね、としみじみと呟く彼と軽くキスをした。目を閉じながら、こんな日が来るなんて夢みたいだ、とその時のユダは思った。ジーザスも、同じことを考えている気がした。

    まあそんなわけで、もしかしたら菓子を配り終わった後に衣装を着たまま戯れる展開になるかもしれないと、ユダは少し期待してしまっていたらしい。だが冷静に考えれば、十代のガキじゃあるまいし、そんなことを考える方が馬鹿らしいだろう。ユダは気持ちを切り替えて椅子から立ち上がり、大きめの皿を取り出してそこに菓子を移し始めた。

    皿をTVの前のコーヒーテーブルの上に置いてソファーに座ったユダは、何の映画にしようかなと考えた。昔はスプラッタ系が割と好きだったが、例の出来事以来は流石にしばらく観れなくなっていた。ジーザスも無理だろうし、そもそも血が多く流れるようなものは元から苦手だろう。ホラーで流血表現が無いらしいものを検索して、それが配信しているかを調べる。大体目星がついた頃、長袖のTシャツに着替え終わったジーザスもソファにやってきたのだった。


    暗くした部屋の中オープニングが流れ始めると、ユダはちらりと横のジーザスを観た。菓子を一粒口の中に放り込みながら、興味深げにTV画面を見つめている。彼はどんなリアクションをするかな、とユダは思わず少し楽しみになった。映画は外でも家でもそれなりに一緒に観てきたが、考えてみればホラーは初めてだった。繊細なジーザスのことだから、怖がるのではないかと予想する。身体を寄せられることを予想したユダは、さりげなくジーザスの背後の背もたれに腕を回しておいた。

    映画は、所謂"呪いの家"物の話だった。小さな子供連れの若い夫婦が、古い家を買おうと検討している。何か嫌な感じを覚えた妻は少し渋るが、旦那の方が押し切る。やがてそこで暮らし始めると、物音やら人の気配やら、不可解なことが起こり始める。そして幼い娘が、家にもう一人子供が居ると言い出す…と、まあどこかで聞いたことのあるような、よくある筋だった。話の流れも、何となく見当がついてしまうような感じがする。それでもユダは、怪しげな雰囲気が漂っているのが何となく楽しい。そんなユダの隣でジーザスは、喧嘩が増えていく夫婦の描写に顔を顰めたり、広い家のあちこちで一人きりで遊ぶ娘を心配したりしていた。

    やがて主人公である妻が、一人で洗面所に立つシーンになった。昼の設定なのに妙に薄暗く、ひどく静かだ。主人公を背後から誰かが見ているような、どこか不安を煽るようなカメラワークが続く。来るな、とユダは思った。ソファの上に座り直すと、画面を半分見つつ、横目でさりげなくジーザスの横顔も視界に入れた。

    主人公が手を洗い始める。その妙に大きな水音が、洗面所に響く。主人公が蛇口に手を伸ばし、きゅっと音を立てて締めると、突然また静かになる。そして彼女が顔を上げて鏡を見た瞬間、つんざくような効果音と共に、背後を小さな黒い影がさっと通り過ぎたのだった。

    ほぼ予想通りの展開だった。突然の画面の動きに合わせて大きく不快な効果音を流す、所謂ジャンプスケアの常套手段だ。少し反則では無いのかとすら思うくらいだが、来ると分かってさえいればなんてことはない。実際、今回もユダはほとんど気に障らなかった。

    だが予想外だったのは、ジーザスの反応だった。ユダは横目で、ジーザスの顔を思わず凝視した。ジャンプスケアのその瞬間、彼は少しも表情を変えなかったのだ。相変わらず映画の筋に興味を惹かれたような様子で、全く平然として画面を見つめ続けている。ユダは、内心驚いてしまった。確かに、まだ大して怖いようなシーンでもない。だがユダには、ジーザスは大きな物音は苦手だろうというイメージが漠然とあった。多少身体を引き攣らせるくらいのことはあると思っていた。それが、全く平気そうなのはどういうことだろう。

    その後も、ユダはジーザスの様子をさりげなく観察した。あの家で起こった昔の事件を調べ始めた主人公が、庭の池で少女が溺れて死んだらしいことを突き止めると「可哀想に…」と悲しそうな声で呟く。不自然に家具が倒れて主人公が手に軽く怪我をするシーンが流れると、身体を強張らせ、顔を引き攣らせる。その様子を見ていたユダは、ひょっとするとジーザスは人が痛そうにしているシーンが苦手なだけなのかもな、と思った。登場人物が嫌な目や怖い目に合うと共感をして大きな反応を見せるが、ジーザス自身は大きな物音などには特に驚かない性質のようだ。ユダは、それがひどく意外に思えてならないのだった。

    そんなことを考えていたからだろうか。ユダは、心ここに在らずで映画を観ていたらしい。それまで唯一霊障に全く気が付いていなかった夫が、一人で部屋の中に居るシーンが流れていた。妻と喧嘩をした後で、落ち込んだ様子で窓の外を見つめている。外は雨が降っている。庭の池を見つめていると、何かが、誰かが居るようだ。娘のように見えるが、こんな天気なのに何故、と心配そうに目を凝らした、その瞬間。

    バン!と派手な音を立てて、小さく白い手が勢いよく窓に叩き付けられたのだった。

    それと同時にユダは、肩をびくりとさせてしまった。完全に油断していた。息を呑み、心拍数が少し上がる。ジーザスの目がちらりとユダを一瞬見るのが分かり、頭に血が昇る。ジーザスは、特に何も言わずに画面に目線を戻す。だがユダは、咄嗟に口を開いてしまっていた。

    「ビビってねえ」

    ジーザスが、両眉を少し上げてユダの方を見た。しまった、と思ったが、更に一言付け加えられずにはいられない。

    「驚いただけだ」

    聞かれてもいないのにすかさず喋ってしまったことを、ユダは悔いた。驚いただけなのは事実だったが、これではまるで言い訳をしているみたいでは無いか。だが、一度言ってしまったことは取り返せなかった。

    ジーザスの口の端が、一瞬ぴくりと動いた気がした。それでも口角は上げずに、笑みを堪えるかのような表情でユダを見る。

    「…僕、何も言ってないんだけど」

    ユダは恥ずかしくなり、むすりと黙って画面を見つめた。気を抜いて驚いてしまったことが、本当に悔しかった。ユダはただ、ジーザスの予想外の様子に少し調子が狂ってしまっただけなのだ。ユダはもう何にも驚くまいと、腕組みをする。ジーザスもそれ以上は何も追及せず、黙って画面に目線を戻した。

    雨の中外を彷徨っていた娘が熱を出し、和解した夫婦が子供を守ろうと決め、物語はいよいよ佳境に入った。家を売り払う決意をし、妻が荷造りをしているシーンになる。廊下から物音が聞こえて、主人公は寝込んでいるはずの娘の名を呼ぶ。軋む床の上をそっと歩きながら、近づいていく。開けっ放しのドアに主人公が近づいていく。入り口に手をかける。廊下を、そっと覗く。

    そして次の瞬間映し出されたのは、ただの暗い廊下だった。今回は少しも驚くまいと身構えていたユダが体の力を抜いた、その時だった。

    「わっ!!!!!」

    耳元で大声が響くと同時に太腿ががしっと強く掴まれて、ユダは鋭く息を吸い込み、大きく身体を跳ねさせた。コーヒーテーブルに足をぶつけ、いくつかの菓子が皿から溢れる。ユダは心臓が喉でバクバクと鳴るのを感じながら、太腿を掴む手を見下ろしてから、顔を上げる。悪戯っぽく目を輝かせたジーザスと目が合うと、彼は満面の笑みになった。

    「可愛い、ユダ」

    ユダは自分の顔が、かあっと赤くなるのが分かった。きっ、と眉根を寄せてジーザスを見る。

    「お前な…!」
    「ごめん、ごめん」

    ジーザスは笑いながら指を絡めてユダの手を握り、肩に頭をもたれかけてきた。温かいジーザスの身体がぴったりとユダに寄り添うと、何も言えなくなる。そして内心まだ動揺しているユダをよそに、ジーザスは何事も無かったかのように再び映画を観続ける。そして霊がいよいよ本格的に夫婦を脅かすシーンが始まると「怖いねぇ」「わあ、驚いた」などと白々しく声を上げるのだった。


    本当に、調子が狂ってしまった。


    映画は、なんだかんだで楽しく観終えることが出来た。妻の前についにはっきりと現れた少女の霊の特殊メイクがまるでゾンビであることに二人で文句を付けながらも、起きてきた娘が少女を抱きしめ、綺麗な姿に戻り成仏するというオチに、ジーザスはほっとしたようだった。その後、結局余ってしまった菓子の片付けはジーザスに任せ、寝支度をしようとユダは自室に戻りスウェットに着替えた。部屋から出るとリビングも洗面所も空で、ジーザスは既に寝室に行ったようだと判断した。

    ユダは髪の毛を軽く縛ると、顔を洗い始めた。水音が狭い部屋に響くと、ユダは思わず観終わったばかりの映画を思い出す。まるで映画の一部のように、自分の姿を俯瞰でつい思い浮かべる。顔を洗い終わり、ユダの手が蛇口に伸びて、水を止める。下を見つめたまま、横のタオルに手を伸ばす。顔をすっかり覆ってしまい、背筋を伸ばしながら水気を拭く。背後から忍び寄ってくる影に、ユダは気が付かない。その気配に、匂いに、少しも気付いてなどいない。二つの手が、ユダの肩に伸びる。

    「わっ」

    優しく小さな声が、温かい息と共にユダの耳を掠めた。同時に後ろからふわりと抱きしめられながら、ユダの心臓は先程とは違う風に脈打っていた。タオルが、ふわりと床に落ちた。

    「…何やってんだよ」

    ユダは、鏡越しにジーザスに尋ねた。目を閉じてゆったりと微笑み、背後からユダの肩に顎を乗せたジーザスは、先ほどのマントを着用していた。ユダの肩を抱くと同時に、すっぽりと包み込んでいる。

    「んー。怖がらせようかなって」

    ユダはふん、と軽く鼻で笑った。

    「全然怖くねぇ」
    「そっか。残念」

    さして残念でもなさそうに呟いてから、ジーザスは顕になったユダの首筋を見つめる。かぷ、と甘噛みをされて、ユダは背筋がぞくりとした。

    「吸血鬼?」
    「幽霊かも」
    「…どっちにしろ、もう捕まっちまったな」
    「うん。もう逃げられないよ」

    ユダはジーザスの方に向き直った。肩に腕を回すと、身体を抱き直される。首を甘噛みし返すと、ジーザスのくすぐったそうな、甘ったるいような声が聞こえた。目を覗き込むと、とろんと重たい目つきで見つめられる。それが嬉しくて、たまらなくて、思わず泣きたくなる。深いキスを交わすと、他に何も考えられないくらいに、ユダの頭はジーザスでいっぱいになった。

    ジーザスから一生逃げられなくとも、すっかり心が取り憑かれてしまっても、望むところだとユダは思った。
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