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    JesJuda

    @JesJuda

    アリーナのジーユダ作品

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    JesJuda

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    #ジーユダ
    #アリーナJCS

    ナルドの壺ならねどある日、いつにも増して大人数の聴衆に演説を振るった後、ジーザスはひどい疲れを覚えていた。
    活動を始めて約2年、今ではジーザスの話を聞きに大量の人が詰めかけるようになっていた。
    今の仲間は元より、彼らに連れられてきた友人や家族、物珍しさからきた人々もいると思われ、今日の聴衆は100人はいるのではないかと思われた。
    加えてネット配信もされていたので、ゆうに数千人がジーザスの演説を聞いていたはずだ。
    いつもだったらジーザスは、彼らへの愛と、一体感への喜びと高揚感を覚えるところだったが、今日は違った。
    自分が話したことがよく思い出せなかった。
    だが何やら熱弁を振るっていたようで、聴衆はひどく興奮し大きな歓声をあげてくれていた。
    ジーザスは、頭が少しくらくらした。
    それでも笑顔で手を振りながら、スピーカーを足元に置いて間に合わせの壇上から降りると、他の盛り上がる仲間たちから少し離れた場所で腕を組んで自分を見つめるユダに近づいていった。
    抑えた声で、一言話しかけた。


    「鍵を」

    ユダはなんのことかすぐに了解し、素早く懐から取り出した鍵をジーザスに握らせる。
    そうして黙って歩き去るジーザスを何人かの興奮した様子の使徒が引き留めようと声をかけてきたが、背後で彼らを引き止めてくれるユダの声が聞こえた。
    ユダには、感謝しなければならなかった。

    少し前にユダの提案で、団体の金で安い部屋をひとつ借りてあった。
    ユダ曰くリーダーならたまにはちゃんとしたところで身体を休めて体調を管理しろ、と説得されて借りた部屋である。
    ジーザスは最初は、皆のように自分もテントで十分だと思ったので抵抗したが、結局押し切られて同意した。
    結局、それは正解だった。
    どちらにせよその部屋は、身重の女性や特に体調が悪い者に使わせていることの方が多かったが、最近ジーザスはよくその部屋を使っていたのだ。

    ここ最近、とくに聴衆に演説を振るった直後に、時たまジーザスは突然ひどい疲れを覚えることがあった。
    そのような時に、ジーザスはこの部屋を使うようになっていたのだ。
    最初のうちは1日中懇々と眠り続けた後次の日には復帰できていたが、最近は数日留まることが多かった。
    幸い使徒たちは自分抜きでも問題なく活動してくれたし、ユダも指揮をとってくれていた。

    最近のジーザスは部屋に篭ると、まずは神に祈りを捧げることが多かった。
    まだ救われぬ人々を思い、涙を流しながら祈った。
    また、自分の迫り来る死期を思い泣くことも多かった。
    受け入れていたはずの自分の運命が急に怖くなり、ひたすら勇気をくれるようにと必死に祈る。
    そうして丸一日ベッドのそばに跪き祈りを捧げ続け涙も出なくなった頃、漸く死んだように眠る。
    そうして残りの1日か2日は、届けられた食べ物を少し食べて用を足す以外は眠り続け、やっと活力を取り戻した頃、皆の元に戻るのだった。

    この日のジーザスは、既にひどい眠気に襲われていた。
    階段を登るのもやっとで、歩きながら瞼が閉じてしまいそうだった。
    ようやく部屋に辿り着き、ドアを開け、突進するようにベッドに向かう。
    そして靴も脱がずにうつ伏せにベッドに飛び込むと、ジーザスは一瞬で眠りに落ちた。


    意識が戻ってからも、ジーザスは目を開ける気力が湧かなかった。
    ずっと同じ体勢で寝ていたらしく、首が痛い。
    首の痛みに呻きながらどうにか寝返りを打ち、仰向けになる。
    一瞬目を開けると部屋は着いた頃より暗くなっており、かなり長い間眠ったようだった。
    それにもかかわらず、ジーザスは起き上がりたくなかった。
    うつらうつらしながら、しばらく建物の外を走る車の音に耳を傾ける。
    今は、どうしても何も考えたく無かった。

    しばらくすると、ドアの向こうから階段を登ってくる足音が聞こえた。
    重たい、ブーツを履いたような男の足音だ。
    続いてドアが静かに開かれる。
    男が声を出す前から、ジーザスにはそれが誰だか分かっていた。

    「…ジーザス?」

    ユダに小声で呼びかけられたが、ジーザスは返事をすることが出来なかった。
    無視をするつもりも、寝たふりをしたいわけでも無かったが、どうしても目を開けて何かを喋る気になれなかったのだ。
    ユダはジーザスが寝ていると思ったのか、静かに扉を閉めて中に入ってきたようだった。
    しばらくユダが立てる物音に耳を澄ませた。
    食料を持ってきてくれたようで、紙袋のがさがさという音と、部屋にある小さな冷蔵庫を開け閉めする音が聞こえた。
    部屋を歩き回り、カーテンを閉めたり、衣服も持ってくれたのか戸棚の引き出しを開け閉めする音もした。
    ジーザスには、その音たちが妙に心地よく感じた。
    子供の頃、ベッドに入ったジーザスを起こさないように、両親が階下で静かに動き回る音を聞いた時と同じような気持ちになった。
    ふとジーザスは、ユダの前では落ち着ける自分に気が付いた。
    もしこれが他の使徒であったら、気を使われたくなくて、無理矢理にでも起きていたかもしれない。
    ユダには、無防備で疲れている自分を見せても何故か平気なのだった。

    洗面所で水が流れる音がしばらく聞こえていた。
    そして、たぷんたぷんという音と共に足音が近づき、ベッドの足元でユダがしゃがむ気配がする。
    靴を履いた足に触れられた。
    丁寧に靴紐を解かれ、必要以上に動かさないようにそっと靴を外される。
    靴下も脱がせられると、水に何かを浸す音がする。
    そして、暖かく濡れた布で足を包まれた。
    ジーザスは思わず、はぁと息をついた。
    ユダの手が一瞬止まる。
    だがジーザスがそれ以上何も言わないので、起こしたようではないと判断したのか、また布で足を拭かれ始めた。
    じわじわと暖かさが足から上ってきて、とても気持ちが良かった。
    指の間をそっと拭かれ、足全体や、足首を包み込まれる。
    ジーザスは身体の緊張が解かれてゆくのを感じた。
    もう片方の足も、同じように丹念に清められる。
    何回か布をお湯に浸け直し、時間をかけて両足を温められた後、ユダはまた離れていく。
    洗面具を片付ける音が聞こえた後、また足音は近づいてきて、足元に畳まれた毛布を手にしたようだった。
    静かに広げられる音がして、ジーザスの体にふわりとかけられる。
    足から胸元まで、しっかりと覆うように彼は調整してくれた。
    そしてユダは、ジーザスの頭のそばで立ち尽くした。
    見つめられている気配がした。
    やがて、彼の手がジーザスの頭に触れた。
    手はしばらくそのまま置かれ、体温がじんわりと伝わってくる。
    そして、ゆっくり撫でられた。
    2、3回ジーザスの髪を撫で付けるようにされた後、また手が止まる。
    ユダが、小さくため息をつく音がした。
    かと思うと手が離れ、足音が離れていく。
    彼がリュックを拾い上げる音がして、ユダが帰ることに気が付いたジーザスは、急に寂しくなってしまった。
    扉が開く音がする。

    「ユダ…」

    そう呟くと、何か鈍い音が聞こえた気がした。
    既にまた眠気に襲われ始めていたジーザスは、その音がいったい何なのか、気にすることもなかった。
    ジーザスは目を閉じたまま、微笑んだ。

    「ありがとう」

    ユダ、イスカリオテのユダ。
    私のユダ。
    どうかこれからも私のそばで、私を手伝って欲しい。
    心に浮かんだその言葉は発されることなく、ジーザスは心地よい眠りに誘われる。
    もう明日の朝には、きっと新たな活力が湧くような予感がした。


    ジーザスが深い寝息を立て始めるのを、声をかけられた拍子に強かに打ちつけた膝の痛みに耐えながら、ユダは戸口でしばし見つめる。
    ユダはドア枠を強く握り、恥ずかしさで震えていた。
    …いつから起きていた?
    足を拭いていたところから?
    それとも、もっと前だろうか。
    いずれにせよ、頭を撫でたことは間違いなく知られていると思われた。 

    …くそっ!

    ユダは両方の掌で額に触れ、ほぼ声に出さずに悪態をつく。
    身悶えてから、両膝を手で掴んで項垂れ、ユダはジーザスと自分を頭の中でどやしつけた。

    なんで、起きてること言わねぇんだよ。
    そもそも、一体なんであんなことしちまったんだ!

    しばらく頭の中でぐるぐるとそんなことを考える。
    だがやがて気を取り直すほかはなく、ユダはため息をつきながらやっと起き上がった。
    起こったことはしょうがない。
    それにジーザスはよく人の手や頭に触れたので、ひょっとしたら気に病むことでもないのかもしれなかった。
    それでも、出来れば忘れて欲しかったが。

    ユダはその後も、しばらくドア枠にもたれかかりジーザスを見つめていた。
    穏やかな寝顔に、ユダは安心せざるを得なかった。
    最近のジーザスは時折険しい顔をすることがあり、気になっていたのだ。
    彼のゆっくりとした寝息を聞いていると、不安の芽が取り除かれていくようだった。

    「…おやすみ」

    つい、呟く。
    そんな自分を馬鹿馬鹿しいと思い、ユダは自分に呆れて首を振る。
    そして足元に置いたリュックを拾い上げ、扉を閉じて出ていった。
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