ジーザスくんが立派なトップになるまでの道のり 3.5どうやら自分は、ジーザスの"恋人"になったらしい。
ユダはその事実を、未だに信じられない思いでいた。
一緒のアパートに住み始めたときは、まさかこんなことになろうとは思わなかった。
ユダは本当に今度こそ、ジーザスのことを諦められたつもりでいたのだ。
とは言え、ジーザスを愛する気持ちが薄らいでいたわけでは全く無かった。
それでも、彼が自分と一緒に居る選択をしてくれただけで十分過ぎるほどの幸福だと思った。
当たり前のように一緒に住み続ける選択をしてくれたことが、ジーザスの一番身近な友人で居られることが、ユダにとっては既に奇跡のような話だったのだ。
そしてその関係を、ユダは何が何でも守りたかった。
だから何とか、ジーザスを忘れる努力だけでもしようと思った。
ジーザスが無邪気にユダに頻繁に触れるようでは、彼への気持ちを隠し通せるか自信が持てなかった。
だから今度こそ、ちゃんとした恋人を見つけようと決めたのに。
その矢先に、ジーザスはユダを「好き」だと言った。
そして彼のことを好きかと問われたユダは、もう嘘をつくことが出来なかった。
ジーザスがユダに、折に触れて軽くキスをする。
朝起きて、キッチンで顔を合わせた時に。
彼が出かける時や、帰ってきた時に玄関口で。
最初は戸惑いがちだったのが、まるで今では当たり前のように、頻繁に彼の唇がユダのものと重なる。
その度に、ユダは不思議な気持ちになる。
ひょっとしたら自分は、首吊りに失敗して、意識不明になってずっと眠っているのではないだろうか。
そう思いたくなるくらい、ユダはジーザスが自分を好いていることがどこか信じきれなかった。
もしこれが夢であるならば、いっそそれでも構わない。
死ぬまで醒めなければそれで良いと、本気で思う。
だが夢にしては、ジーザスの柔らかい唇の感触があまりにも本物らしすぎる。
ジーザスの身体の形も皮膚の温度も、はっきりと感じられて、触れられる。
そしてジーザスの手も、夢にも思わなかった形でユダに触れる。
肌に直で触れられるその感触に、身体に震えが走る。
その度に、これは現実なのだとはっきり思い知らされるのだ。
だがそう思うと、今度は怖くなる。
ジーザスはよく、本当に星が浮かんだかのように煌めく目でユダを見つめた。
その度に、彼の自分への気持ちはいつまで続くのだろうと、ひどく恐ろしくなるのだ。
ジーザスがユダの手によって快楽で身を捩らせているときだけが、ユダは安心できた。
ユダがジーザスより得意なこと、与えてやれることと言えば、これくらいしかないのだ。
ジーザスが知らなかったことをひとつ、またひとつと教える度に、打算的な気持ちを抱いてしまう。
これで少しでも、離れがたくなってくれるだろうかと。
気持ちが薄れたあとでも、ユダが与えてやれる快楽さえあれば、少しでもユダの元に留まってくれる気になるだろうか。
だがもし、それでも彼がユダの元を去る選択をするのならば、それまでのことだと思った。
ーーベッドの上で、ぐったりとしたジーザスを抱きしめる。
手や口で触れ合うことに少し慣れてきて、今回は長い時間睦み合っていた。
ジーザスは眠そうにしながらも、ユダの背中に腕を回す。
はあ、と彼のついた吐息が、ユダの首筋を掠める。
「大好き、ユダ。ずっと一緒にいたい」
ユダはそんな事を言うジーザスの頭に触れて、軽く撫でる。
遅かれ早かれ、そんな浮かれた気持ちにも必ず終わりは来る。
それまではせいぜい、夢見心地にそう呟くジーザスの戯言を信じるふりをするまでなのだ。