慈愛の母、俺のマリア「あれ、なんだろ」
廊下の端できらりと何かが光る。拾い上げてみると、それは銀色の細い十字架だった。はて、誰かのキーホルダーだろうか。それにしては重みがあって大きい。と言っても手のひらに収まるくらいのものだ。銀色に光るよく手入れされたそれを慎重に学ランのポケットに入れ、僕は歩き出す。
(職員室にでも届けておこう)
心の中でそう呟きながら足早に目的地へ向かう。曲がり角をすいと曲がると、誰かにぶつかる。わぶ、なんて間抜けな声が出たのがちょっと恥ずかしかった。相手も自分も早足だったから弱っちい僕は尻餅をつく……ことはなく、相手にガバリと抱えられる形で支えられる。
「悪い、前見てなかった。大丈夫か?」
「は、はひ!」
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