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    5shiki

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    5shiki

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    セ部屋に閉じ込められて何にも起こらず出て来るタイプのオタレイ…オタレイ…???
    何も始まりませんでしたが、真ん中バースデーおめでとうございます!

    vanish partisan『セックスしないと出られない部屋』




    「全然だめですね」
    「傷ひとつつかないな…」


    ちょっとした会議室くらいの広さの、窓のない四角い部屋。扉はついているが、鍵が掛かっていて開かなかった。その扉の上に堂々とかかっている看板に書いてあるのが、前述の通り『セックスしないと出られない部屋』の文字である。


    「サモンズいけるか?」
    「やってるんですが、魔力が散ってしまって」
    「上級魔法が使えなくなっているのかな、この部屋は。出る方法はあのふざけた看板の通りにするしかないという事か」


    なかなかイラッと来る達筆な字だ。どんなに呪文をぶつけようと、壁も扉も看板も、傷ひとつつかなかった。レインが石になれと言わんばかりにそれを睨みつけ、もう一度特大魔法をブッ込もうと杖を構えたのを、後ろから伸びてきた手がぽんと肩を叩いて止めた。もう一人この部屋に閉じ込められたオーターである。レインの石化効果のありそうな視線をそのまま向けられ、彼はちょっとため息をついて後ろを振り返る。

    「でかいベッドだな」
    「…部屋半分埋まってますね」

    セックスしないと出られない部屋というだけあって、でかいベッドとサイドチェストにはそれ用の備品が備え付けてあった。
    どうしますかと聞く前にオーターは億劫そうな足取りでベッドに近づいて、ドサリとその身を投げ出した。



    「寝る」
    「おい」



    力いっぱい大の字にダイブしておいて、面倒くさそうに背中に巻き込んだローブを引っ張り出して脇に避け、小さく欠伸をする。猫みたいだ。今それどころじゃないんだが。

    「まさか本気で眠る気じゃないでしょうね」
    「そのまさかだ。お前ここに来る前何処にいた?」
    「普通に執務室にいましたが…」
    「私もだ。しかも目の前にはライオがいた。いきなり消えたんだからさすがに探すだろ、外からこの部屋がどう見えるのか知らないが」


    珍しい、この人が他人をあてにするなんて。

    気持ちはわかる。今は大変忙しい時期で、問題は片付けたそばから山積みだ。果てのない執務、解決しない人手不足で神覚者は長きにわたって激務を強いられていた。その中でも一際いつ帰っているのか疑問に思うほど魔法局にいない時がないオーターでも、さすがにこんなふざけた部屋に閉じ込められたらお手上げになってしまうのもわからないでもない。
    さっさと寝息をたて始めた男に近寄って、そっとその顔を覗き込んでみる。眼鏡掛けっぱなし、靴も履いたまま眠るオーターの顔は意外と穏やかだが、くっきりと刻まれた隈が彼の疲労の深刻さを物語る。レインはため息を付いて、彼から少し離れたところに腰を下ろした。彼が起きる頃に、事態が好転していればいいのだが、それも望み薄に思えた。









    「この部屋時計がねえのか…」

    あれからどれくらい経っただろうか。死んでんのかというくらいオーターは目を覚まさず、レインも仕方なくちょっと寝てしまった。体感的に2時間くらいは寝た気がしたが、正確にはわからない。起きる前と状況は何も変わっておらず、暇なレインはとりあえずあのむかつく看板だけでも取り外してやろうと思いついた。剣を取り出して床と平行に浮かばせ、それに乗って看板に近付く。釘かネジかで普通の額縁みたいに壁に引っ掛けられているのだろうと思ったそれは、近くで見れば壁とぴったり接着されていて、隙間はなかった。とりあえずもう一振り取り出した剣でコンコンと叩いてみる。

    (手応えがおかしい。これも実体のない魔法による物質化…)

    条件魔法は全ての因果を超え、条件を満たさない限りけして破れない。この部屋の場合はどんな強力な攻撃魔法をぶっ込んでも決して壁は壊れず扉も開かないというのが該当する。普通はその条件というのはむしろ弱点とも言え(逆に言えばそれを達成さえすれば簡単に破られてしまうのだから)、人間の扱う魔法の限界(万能の魔法などは存在しない)な筈だが、この部屋はその弱点を逆手に取った、嫌がらせとしては最上級の魔法であろう。

    「………この条件は変えられないのか?」

    立っているのも馬鹿らしくなって、乗っている剣の上で胡座をかいて、コンコンともう一度手にした方の剣でふざけた看板を叩く。

    「条件を達成すれば扉は開く。それ以外の脱出方法は封じられている。それがこの部屋の因果律だな。だが人が魔法によって創造できる因果ってのはひとつじゃないのを知っているか?別の因果をぶつけられて、お前はそれを保っていられるか?」

    何となく部屋の空気が変わった気がする。見ている訳だ、外からこちらを。

    「ありとあらゆる魔法を受け付けない。俺の剣は全てを破壊する。そういう条件魔法を今この場で俺が作ったとして、お前の部屋とどちらが強いか、試してみようか」

    コン。
    看板に剣の切っ先を突き付けて目を閉じる。
    本気の魔法勝負だ。

    どういう魔法がいいのかレインは考えた。細かく細かく目に見えないミクロの粒子ほどの大きさの無数の剣が、魔法として発動する魔力の流れ全てを断つ、そういう魔法がいいか。因果を作る魔法の骨組みとその内側の核を細胞レベルの小さなナイフで全て切除する、こちらの魔力の方が強ければそれで詰みだ。イメージ出来れば実行に移すだけ。万能一歩手前の究極魔法、まだ見ぬ夢の先のサーズ、焦がれて未だ手に入らないもの。上級魔法は向こうの因果に封じられている。このサイズのパルチザンは、パーセンテージで言えば0.01にも満たない極小サイズで、その条件も掻い潜れる。

    行ける。
    無敵条件など、この世にはないのだ。





    「待て」
    「!??」



    しかしいきなり後ろから首根っこ掴まれ剣の上から引き摺り下ろされて、無様に背中から落っこちるのを両脇の下から伸びてきた腕に抱きとめられた。驚いて見上げると、鈍い黄金色の螺旋の目が、こちらを見下ろしていた。



    「オーターさん…?」

    そういえばいたな、とか、起きたんですね、とか、しかし声には出せなかった。彼が無表情ながらやたら深刻な雰囲気を醸し出していたからだ。


    「…お前それ、自分まで分解しているぞ」
    「え…」
    「自分の魔力も区別せず切除されているのに気付いてないのか?相手の魔力の根源全てを切り刻むような魔法が、自分だけ無傷なまま簡単に発動すると思うなよ。着眼点は良いが、いきなり実戦でやろうとするな。自分で加減をわかっていないなら尚更だ、ここを出たら見てやるから今はやめておけ」

    腹の前でがっちり手を組まれて背中から抱き締められた状態でぽかんと見上げるレインに、オーターは噛んで含めるように言った。そんな危険な状態になっていたつもりはない、もう一度やらせてくれと言いたかったが、レインが口を開く前に彼はふいと視線を逸らし、今までレインが対峙していた看板を見上げた。

    「……今なら書き換えられそうだな」
    「あ…」


    看板の文字が無くなって、白紙になっている。レインの魔法にある程度相殺されたようだった。レインは急いで扉に近付いてドアノブに手をかけた。

    「開かねえ…」

    ガチャガチャやってもノブは回らない。あと少しだったのに。落ち込むレインにオーターは首を傾げて励ますように言った。


    「条件を白紙にしたところまで出来たんだから上出来だ。あとは何か別の簡単な条件を新たに付与してやれば扉は開くだろう。そうだな…ハイタッチとか」
    「…………白紙のままですね」
    「……握手は?」


    手を繋ぐ
    肩を組む
    腕を組む
    ハグする
    抱き上げる
    思いつくままに言ってみるがなかなか条件として通らないようで、看板は依然として白紙のままだ。

    「往生際が悪いな」
    「俺もう一度やってみます。今度こそ無効化してやる」
    「魔力はお前の方が勝っているのはわかっただろう、もうこの部屋はお前に勝てない。ただ負けてはいないから存在できているだけだ。……何をさせたいんだ?セックスはしないぞ」


    後半は独り言兼部屋に向かって告げられた言葉であったようだが、オーターの口から出たセックスという言葉にレインは思わずぎくりと肩を揺らした。オーターはそれに気付かなかったようだが、代わりに部屋が答え、ずっと白紙だった看板に文字が浮かび上がってきた。

    「…………“疑似セックス”……………??」
    「オーターさんやらせて下さい絶対にぶち壊してやる」
    「疑似とは何だ?するのかしないのかどっちなんだ??」
    「どっちでもいいです切り刻んでやる」
    「お前はちょっと落ち着け」

    オーターは少し考え込むような仕草をしたが、レインは大人しく彼が結論を出すのを待っている間も惜しかった。何故、何を考える暇があるのだ。全部ぶち壊してやればいいだけだろう。

    「………まあとりあえず先程言った通り擬似だろうとセックスはしない。のでそれに付随する行為、性的な事柄は一切合切お断りだ」

    看板は名残惜しそうに文字を消して、また白紙になった。そして遠慮がちに浮かび上がった文字は。

    「……“キスは?”と聞かれてもな………」
    「……………」


    オーターは呆れたように嘆息したが、やがてレインに向かって手を差し伸べた。

    「え?」
    「こちらへ」
    「やるんですか!??」
    「もう面倒だ」
    「諦めないでくれ!!!」

    自分がぶち壊してやると言っているのに何故この人は聞き入れてくれないのか、レインは思わず後ずさりした。オーターの声が常と変わらず平坦に響くのがまた恐怖心を煽る。

    「目をつぶっていればすぐ済む。宴会芸みたいなもんだろう」
    「魔法局の飲み会ってそんな事してるんですか??」
    「神覚者もまあまあ代替わりが激しいからな、私が入った頃はなかなか上下関係が厳しくて」
    「聞きたくねえ…」
    「お前は、再来年か?まあ今は穏やかなもんだから安心しろ」

    何も安心できない、今この時点では。「レイン」と呼ばれる。年上らしい威厳のある、嗜めるような声。23という年齢を考えればまだまだ彼も若輩の部類に入る筈なのに、この迫力は何なのだろう。他種族との戦闘時に、そんな声出たのかというでかい声で威圧的に命令を飛ばすのを末端で何度も見たのを思い出す。その圧倒的な力でもって敵を殲滅する、冷酷無比な砂の神杖。逆らえる筈がない。思わずごくりと喉を鳴らすレインに、オーターはあくまでも穏やかに言った。


    「間が空くとやりにくくなるばかりだぞ」
    「………〜〜〜〜!!!」

    デリカシーとかないのかこの男は。
    レインはやけくそな気持ちで上司に近寄り、その手を取った。顔を上げられずにずっと彼の足元だけを凝視していると、突然手を引っ張られてぐいっと腰を抱かれ密着する。

    「………ッ」

    驚いて顔を上げた先には当然のようにオーターの顔がある。近い。キスをするのなら当然の距離だ。一瞬で顔が燃え上がるように熱くなる。レインはぎゅっと目をつぶった。手のひららしきものが頰に添えられ、びくびくと益々身を固くする。

    ちゅ、というか、ふに、というか。

    「…………?」

    眉間あたりに何かが微かに触れた感触が、したようなしなかったような。それくらい不確かな接触が、あったのかもしれないという程度。レインが恐る恐る目を開けると、ちょうどオーターはふいと視線を逸らし身を離すところだった。

    「ほらやったぞ、扉を開けろ」


    え?


    恐らく部屋とレインは同じ思いだった、え、今のが??という。しかし他者の呆気に取られる空気を物ともせず、オーター・マドルは低い声で言い放つ。



    「開けろ。もう一度は言わない」






    ………………カッ…………チャン……………


    戸惑いがちに鍵の回る音だけがやたら大きく部屋に響く。レインの方には向いていなかったが、目の前の男から一瞬物凄まじい怒気が放たれたのは感じ取れた。有無を言わさぬ、逆らえば死を覚悟せねばならないような、圧倒的な。それは魔力の揺らぎだったのかもしれないし、一方的にこちらに叩き込まれたただのイメージだけだったのかもしれない。しかし彼は表面上はあくまでも穏やかに、いつもの通り眼鏡のブリッジに手を当てて言い捨てた。

    「下らない時間だったが、まあとりあえず休憩にはなったな」


    いつの間にか羽織っていたローブを翻し、長いコンパスでさっさと扉に向かって歩き出す。もはやこちらを見もしない。思わずぽかんと見送って、慌ててレインもそれに続いた。「ライオは結局何をやっていたんだ役立たずめ。捨て置いたのかまさか」という不穏な独り言は聞こえないふりをして。

    (…………)


    レインはそっと自分の額に手を当てた。はっきり言って全然わかんなかった。だが恐らく、ここに彼の唇が触れたのだ。


    なんかちょっと、もったいなかったな。

    (………うわ)


    もったいなかったって何だ。目を瞑っていて何にもわからなかったことが?彼がどんな風に自分に触れて、何を思い、どんな顔をしていたのか、できれば知りたかった、それってつまりどういうことだ?

    (落ち着け)

    何を考えているんだ。この部屋を出る条件をクリアする為に仕方なくやったことに、いちいち感情を振り回されてどうする。レインは熱くなった顔を両手でばちんと叩いた。思ったより痛くて結構大きな音がして、前を歩くオーターが振り返る。

    (やば……)

    どんな顔をすればよくて、今自分はどんな顔をしてしまっているのだろう。
    レインの頭の中は嵐が吹き荒れる如くだったが、オーターはちょっと首を傾げただけだった。


    「……そんな顔をしなくても、言ったことは覚えている」
    「………え?」
    「訓練時間になったら来ればいい。他の連中がいるかもしれないが纏めて見てやる」
    「え………あ…」
    「………サーズのことじゃないのか?」

    怪訝な顔になったオーターをぽかんと見上げ、レインは「そうです」と脳直で答えた。まさか物欲しそうな顔でもしていたのかと思うと顔から火を吹きそうなくらい恥ずかしいが、向こうがそう言うならばこのまま押し通すしかない。

    「ありがとうございます。……必ず伺います」

    オーターは頷いて、ドアノブに手をかけ扉を開ける。その先は見覚えのある魔法局の中庭に面した廊下だった。
    「お前のお陰で開いたのだからお前が先に出なさい」と謎の優しさで先を譲られ、どこか満足げな男の横をすり抜けながら、治まらない動悸を隠して扉の外に一歩踏み出す。オーターが出て扉を閉めると、それはやがて向こう側が透けて見えるようになり、そのまま音もなく消えてしまった。

    「案件的には調査が必要だな。もう二度と関わりたくないのが本音だが」
    「………そうですね」



    レインは扉の消えてしまった虚空を眺めながら、次の訓練日はいつだったか確認しなければと思った。期待と不安がごちゃ混ぜになった初めての感覚は、既に持て余し気味ではあったが、きっとその頃には治まっているだろうとむりやり楽観的な当たりをつけて。


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    5shiki

    DOODLEセ部屋に閉じ込められて何にも起こらず出て来るタイプのオタレイ…オタレイ…???
    何も始まりませんでしたが、真ん中バースデーおめでとうございます!
    vanish partisan『セックスしないと出られない部屋』




    「全然だめですね」
    「傷ひとつつかないな…」


    ちょっとした会議室くらいの広さの、窓のない四角い部屋。扉はついているが、鍵が掛かっていて開かなかった。その扉の上に堂々とかかっている看板に書いてあるのが、前述の通り『セックスしないと出られない部屋』の文字である。


    「サモンズいけるか?」
    「やってるんですが、魔力が散ってしまって」
    「上級魔法が使えなくなっているのかな、この部屋は。出る方法はあのふざけた看板の通りにするしかないという事か」


    なかなかイラッと来る達筆な字だ。どんなに呪文をぶつけようと、壁も扉も看板も、傷ひとつつかなかった。レインが石になれと言わんばかりにそれを睨みつけ、もう一度特大魔法をブッ込もうと杖を構えたのを、後ろから伸びてきた手がぽんと肩を叩いて止めた。もう一人この部屋に閉じ込められたオーターである。レインの石化効果のありそうな視線をそのまま向けられ、彼はちょっとため息をついて後ろを振り返る。
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