Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    tx9y_nasubi

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    tx9y_nasubi

    ☆quiet follow

    アニメ版イーグルの超個人的補完。とくにCPはありませんが一応腐向け。イーグルと言いながらランティスの補完かもしれない。あと※ 蝶がたくさん出ます ※

    Only I should know. セフィーロ侵攻が決まってから、イーグルは僅かにジェオを避けるようになった。具体的にいうとベッドに来ない。大きくてスプリングが丈夫であり寝心地もいいからと、平時はよく占拠して嬉しそうにしていたものだ。作戦行動中だからだろうか。国の命運をかけて下された命令だ。イーグル自身にもどこか張り詰めたものがある。彼でも、いや『最強』の責があるからこそ、失敗は許されない。覚悟を決めているような双眸には固い意思が宿り、常から凛とした姿をより際立たせていた。
     もうひとつ変化があった。作戦会議に副官しか置かなくなったのだ。副官以下の士官には決定事項がデータで渡されるだけ。何故か問えば、内緒ですと誤魔化すばかり。ジェオはイーグルを信じていたので、この件を任せることにしていた。
    「気になりますか」
    「お前さんには何か深遠な考えがあるんだろ」
     イーグルは一瞬痛むような表情をして、しかし次には笑顔を見せた。
    「略奪を防ぐためです」
    「我々オートザム軍がそんな事をするとでも思ってるのか」
    「憶測ですが、城の中は以前のセフィーロと同じような美しさが保たれていると思われます。御伽話しの果実です」
    「ランティスと親しいお前だ。信じるよ」
    「……ランティス」
    「なるほど。それで最近緊張気味なんだな。親友の国に攻め込むから」
    「そうですね。正直に言うと、とてもつらいです」
    「お前の好きな菓子作ってやるから、元気出せ」
    「ありがとうございます。ジェオは優しいですね」
     ジェオは哀しげにイーグルの髪をくしゃりと撫で、キッチンに向かった。

     (知っているのは僕だけでいい)

     イーグルの変化は全て病気を隠すためだった。または喀血してしまっても周知の事とならないように、兵士や士官を遠ざけ、最悪でもジェオだけを極力、側に置いた。気を張っているのは発作を気力で捩じ伏せるため、時折零してしまうつらい面差しは胸に疼痛が走るから。
     イーグルは本国の空を想った。いつも鈍色の雲が重く垂れ込め、毒性のある冷たい雨が降るオートザム。軍の任務は主に他国の観測と人命救助、それから滅亡願望に浮かされた集団から生活線を護ることだった。国を救うために軍へ入ったのに、高い戦闘力からイーグルへの任務は自国民の『駆除』が主であり、かつてそれを苦に出撃を拒否したところ、除隊命令は出されず政治的なところで血が流れた。イーグルは戦っても戦わなくとも沙汰を起こす人物となった。無益な血と苦痛を拡げないために彼は本物の戦士となった。平和を渇望する願いとは裏腹に。
     時折イーグルは戦闘時に高揚剤を使うこともあった。あまりにも彼自身の正しさに反する殺戮へ身を投じるときのためだ。今作戦でも一応携帯している。しかし使わないことを祈った。身体への負担が大きい。

     NSXはセフィーロ圏内に入った。

     魔法騎士の姿は少女達だった。彼女らは聞いた、オートザムが何の為に侵攻してきたのかと。何の為。国益の為以外に他国へ戦いに出るものはあるだろうか。争い合う者同士で急に真摯な心をぶつけてきた少女をイーグルは受け止めようとしたが、どこか冷えていく自分も感じていた。オートザムの状況を話せば彼女達は抵抗せず城へイーグル達を迎え入れるのか。そうではないだろう。

     (可愛らしいお顔の通り、やり方が稚拙なだけですよ)

     敵が敵らしくないことにイーグルは失望と危機感を覚えた。
     女子供の悲鳴は本能的な神経に障る。本国で殺害してきた命を思い出す。本気で交戦するときには高揚剤を使うかもしれない。
     その後、現れた他国によって、話し合いは中途半端に終わった。

     

     洗面台に血が吐き出される。儚い人間と称されれば楽だったろうか。身体が元々弱く、儚い陽炎のような人間だったなら。イーグルは人間の前に戦士だった。自分でそう決めたのだ。心の中で鐘を鳴らして、折れそうな心を鼓舞する。生きたい、生きたいと――。赤色が流水と混ざり排水口に吸い込まれていく。小さな悪態ごと流れてしまえと、水量を増やした。

    (ぼくは、やさしいぐんじんさんになりたい)

     五月蝿い。
     
    (僕は人なんて殺したくなかったのに)

     五月蝿い。

    (ぼくがいなくなれば)

    「五月蝿いと言っているんです!」

     壁面を殴り付けた痛みでイーグルは我に帰った。
     イーグルが病気の症状を抑える為に服用する強い薬は、認知機能に少しの影響を与えていた。幻象の黒い蝶が鱗粉を振りまく。独りでいたイーグルは、美しい翅を目で追い、思考を巡らせた。

    (処方された薬――今以上になればきっとジェオに気付かれるだろうな)

     知られてしまえよ。きっと彼は受け止めてくれる。
     
    「僕が許しません」

     イーグルは鏡を見て気持ちを集中させて部屋に戻り、先に取った魔法騎士の生体データを端末で確認した。位置情報から、赤い髪の少女に攻撃を仕掛けられそうだった。心の隙間と傷を抉る怪しの蝶は、イーグルの精神力で消えていた。


     

     精神ショックを与える攻撃をして連れてきた赤い髪の少女ヒカルに、ランティスの事を話した。ランティスは強かった。その心も。彼はとても無口で無表情で、しかし優しかった。欠点といえば――。
    「ランティス……派手に穴を開けてくれましたね」
     NSX、イーグルの部屋の天井は、一部が瓦解していた。ランティスは大雑把であり、多少無神経でもあった。彼はもう精獣に乗って去りかけている。攻撃しようとした部下に、撃っても無駄だろうと告げた。

    『俺はお前と戦いたくない』

     ランティスの真っ直ぐな視線を思い出し、イーグルはジェオの胸にもたれた。心が安らぐ匂いに包まれる。
    (僕もですよランティス。貴方だけじゃない、僕は侵略なんてしたくありません。しかしオートザムにはどうしても柱システムが必要なんです)
     ジェオが宥めてくれる。イーグルはその温かさに泣きたくなる自分を抑えた。


     (ジェオのむねはやさしかった)
     (うちあけてしまえばらくになるよ)
     (ほんとうにひとりでかかえきれるとおもうの)

    「思います。運命を嘆くのは僕一人でいいんです」
     イーグルは作戦会議室におり、セフィーロ城の全景を投影して、椅子を高位置に上げていた。一段階強くした薬剤が現実世界に夢を見せている。その影響は部屋をロックしたので隠すことはしなかった。脳の回線の不具合が見せる蝶は、その数を増やしていた。美しい幻影だ。誘うようにひらひらと、だが声は幼いイーグルのもので語りかけてくる。

     (ほんとうは、なきたかったんでしょ)
    「泣いて解決するなら、いくらでも泣きますよ」
     (ジェオはきっときづいてる)
    「……」
     (さけようとしてるの、しってたもの)
    「まだ決定的に知られた訳ではありません」
     (よわむしイーグル)
     (ランティスのひとみをみてこころがゆらいだ)
     椅子の背にもたれてイーグルは目を閉じた。蝶たちは視界から消えるが、シャンシャンと音がして、指先に鱗粉が付くのを感じた。
    「貴方達を幻だと『知っている』僕の勝ちなんですよ、今の所は」
     蝶に怯えたり、言うことを真に受けるようになれば、また一段階症状が進んだことになるのだろう。幻覚が増える度に身体は楽になった。医療麻薬の過剰摂取で精神をやられるか、精神の前に身体が駄目になるか。彼らを制していさえすれば、死ぬまで勝ち続けられる。
     (なににかつの)
    「己の弱さから。そして追いつこうとする病魔の手から」
     薄く瞼を開いた瞳は疲れたように微睡みに入りかけていた。



    「何コール目だイーグル、心配させるな」
    「ジェオ……すみません、少し眠っていました」
     イーグルはあのまま寝ていたようだった。確かな現実感が瞬時に構築されていく。大丈夫だ、まだ負けていない。イーグルは端末をしっかりと持ち直した。
    「会議室でこそこそ居眠りか、本当に平気なんだろうな。対面で話がしたい。今からいいか」
    「はい」
    「まったく、測位システムがあって助かるぜ。座標軸から消えたらお終いだ」
    「ここはセフィーロです。さっきヒカルを見失いましたよ」
    「とりあえずお前さんの位置がわかればいい、司令官殿。いつでも助けに行ける」
    「過信は危険です」
    「おいおい、自分で縁起悪そうなこと言うな。とにかく今後の動きを決めたいから俺の部屋に来てくれ。お前のところは天井があの様だからな」
    「わかりました」
     通信を切ったイーグルは、椅子の上でなんとなく伸びをした。椅子を降ろし、床に立つ。深呼吸した肺からは微かに異音がしていた。


     (しられた)
     (しられた)
     (しられた)
     息が苦しい。ぬめるものを止められない。
    「イーグル! くそ。ザズ、ザズ!」
     (このまま、なきつけばいいんだよ)
    「やめろ!」
     イーグルは通信機の上で囁く蝶を叩き潰した。ジェオには背負わせてはいけない秘密だったのに。彼を動揺させてはいけないのに。
    「怒鳴って、すみません……でも大丈夫ですから」
    「イーグル……」
    「どうしてこうタイミングが悪いんでしょうね、僕は。ジェオの前で、こうなるなんて」
    「……」
    「もう少し早く、この病気で死んでいれば、ランティスを裏切らずに済んだかもしれないのに……『柱』が消滅したとわかって、セフィーロ攻略を命じられたその日に発病するなんて……」
     (せんそうをしておわりたくない)
     (でもぼくがやらなくちゃ、きっとひどいことになる)
     駆け付けたザズはジェオが取り繕って帰してくれた。6時間の休みを副司令官権限で命じられる。6時間。久しく取れなかった休息だ。それは急襲への備えもあったが、薬で眠り過ぎないよう常に調整していたからでもある。気を張っていてはまとまった深い眠りは取れない。
     副司令官室に行く道中は、ジェオがイーグルを抱えて進んだ。自分で歩くと言ったイーグルに、ジェオは口を開かせなかった。大股で歩くジェオの腕の中で、イーグルは厚い胸に身を寄せた。
    「つらいか」
    「いいえ」
     嘘だった。
    「我慢するな。何でも言うんだぞ」
     イーグルの性格を熟知しているジェオは、それでも告げた。
    「何でも……ですか」
    「ああ」
    「僕は6時間たっぷり寝ます。今までの分も寝ます。だから僕を病人として扱わないでください」
    「難しいな」
    「気持ちで負けたくないんです。僕は、戦って死にます」
    「……着いたぞイーグル。ゆっくり休め」
     ジェオはイーグルには応えず、ベッドにその身体を下ろしてやり、自分は部屋を出た。しばらく経ち中を覗くと、サイドテーブルに何かが散乱していた。それが服用したり打ったりした薬だとわかり、ジェオは衝動的な慟哭を抑えるのに苦労した。
     イーグルはよく眠っている。邪魔をしてはいけない。ジェオは叫ぶ代わりに自分の腕を噛み締めて廊下へ出た。

     

     蝶の数がまた増えている。夢を見ない眠りは久しぶりだと思う自分が夢なのだと悟り、イーグルは天を仰いだ。何もない空だ。いや、鈍色の雲が広がっている。ここはオートザムだろうか。腰をおろし、そのまま仰向けに寝転がった。下は固いコンクリートの感触がする。やはりここはオートザムなのだろう。違うのは降っているのが雨ではなく、蝶の煌めきなところだ。
    「そうか、あれだけ飲めばこれだけの幻覚を見るんですね」
     しかし医者に教わった適正量のはずだ。
    「やはり気力でもたせるほうが僕の場合、現実的なようです」
     (たかいせいしんエネルギーをもっているから)
     (それはこころのつよさ?)
    「恐らく意思と精神エネルギーは同義のもの」
     (それじゃあ)
    「……僕にも柱の証を手にすることが可能なはずです」


     
     城への総攻撃のとき、イーグルは少量の高揚剤を使った。魔法騎士たちが見た目通りの少女に思えたからだ。彼女達は本気だろう。しかし軍人として実働しているイーグルとジェオにとってはあまりにも連携が未熟だった。それこそ不意に武器を持たされた子供のように。だが手を抜くわけにもいかない。特別強くはないが、か弱くもないのだ。あまりにも容易く懐に飛び込めた青い魔神へ対して、微かな笑いが込み上げてしまう。

     (こちらをころすつもりのないおんなのこをいじめてる)

     高揚剤の効きが悪いのか、押さえつけていた良心が頭をもたげる。それでイーグルはヒカルを挑発し、自らの正当性を自身に納得させた。これは侵略でも殺戮でもない、『願い』と『願い』のぶつかり合いだと己に言い聞かせた。セフィーロは本当に鎖国により平和を維持した国らしく、最終防衛線であるはずの城への侵入は、イーグルにとって簡単だった。

     (ひかり)

     (たくさんのひかり)

     (おんなのこのこえ)

     「ランティス」

     幽閉された部屋でイーグルはランティスと対峙していた。武器は取り上げられていたが恐怖はなかった。隠し武器があるし、無くても背後を取って締め殺せば済むことだ。それよりも心を脅かしたのは、お前を愛する者が悲しんでも、というランティスの言葉だった。柱になろうがなれなかろうが、イーグルは死ぬ。柱に不治の病を回復させるだけの能力があるかは不明だが、もしあったとしたら、それは僥倖であって決して不幸ではない。だから突っぱねた。ランティスも魔法騎士と同じく、イーグルを殺すつもりで攻撃してくることはないだろう。これは戦うことになった時の保険だった。
     ランティスはそっぽを向いたイーグルの胸部を凝視した。ここへ運んできた時に気付いたことはどうやら間違いがなさそうだった。イーグルは胸を病んでいる。なぜ国で緩和療法を受けていないのか不思議だった。
     イーグルが向き直り、強い目でランティスを見る。漆黒の瞳は底を映さずに、イーグルの心を探った。



     オートザムにおいて、強い男は必要であり、もてはやされる対象だった。周辺国一番の軍事国家だが、女性が戦争に出ることはない。子を産み、護り、育む存在として大切にされてきた。オートザムの男児はこう習う。
     女の子を泣かせてはいけませんよ。
     そう、泣かせてはいけない。ランティスは、失点のある男だった。
    「ヒカル……」
     ヒカルはランティスを好きと言いながら泣いていた。イーグルに対する敵対心もない。無防備に心情を吐露し、涙を溢している。それはただの女の子で、イーグルは庇護欲がわくのを感じた。同意を得て抱きしめると、ヒカルはイーグルの胸に縋った。
    (僕は命令でこのような年頃の少女も殺してきた。後のない女の子達。思想であったり、洗脳であったり、私怨だったりした)
     ヒカルの涙と体温で胸が物理的に暖かい。
    (そして治らない病気を抱えた子も)
     やはりオートザムを死滅させたくない。
     イーグルがその後、城を出る際に見送りをした魔法騎士は、彼を少しも敵視していなかった。ヒカルが敵としていないから、他の二人も気を解いているのだろう。導師クレフとの約束も取り付けて、セフィーロとは停戦になった。

     

     城の防衛圏外に出たところで、急に身体の具合が悪くなり、イーグルは返してもらった分も含めて薬の確認をした。クレフの護る『セフィーロ』内では意思の力が強く働くのだろう、そこそこ長い間、投薬しなくてもヒカルの前で出た以外に大きな発作はなかったからだ。
     ジェオに元気な顔を見せるため、即効性のある強力な薬剤を首筋に打つ。途端に蝶が姿を現した。

     (ヒカル……友達になれたかもしれませんね)

     (柱とは結局どうやって、どちらに決まるんでしょう)

     (休みたい……隠すのはつらい……)

     イーグルの本音だった。幻聴なのか、そう考えているだけなのか区別がつかない。今が夢なら?
     御伽の国と謳われたセフィーロ中心より、外部に近づくほど現実味が無くなっていくのはおかしい。確かにこの国は外殻から崩壊しているのだ。
     イーグルは離人感の中で、NSXのハッチからFTOを格納した。
    「……どうして連絡しなかった」
     ジェオが凄い形相で詰め寄る。通信機を持ち忘れたと返すその視界は、周縁が翅で見えづらくなっていて、イーグルは誤魔化すためにやや俯いた。そこへザズの声が走り、一度外したバイザーを再び装着した瞳に飛び込んできたものは、ノヴァに捕らわれたランティスの姿だった。
    「出ます。ランティスが内部にいるのに攻撃するなんて、ヒカル達にはできません」
     (このままではノヴァに殺されます)
     ぱっと、身体の中から鮮血が失われたのを感じる。肺が痛み、咳が出る。
    「行かせねえ、お前の行く先は医務室だ!」
     蝶の群れがざわつく。ざわり、ざわり。急かすように。
    「ザズ! ハッチを開けてください!」
    「俺が行く!」
    (いえ、僕が行きます)
    「セフィーロの導師クレフは、僕が柱であろうとなかろうとオートザムの再生に手を貸す約束をしてくださいました。だから魔法騎士たちを死なせる訳にはいきません」
    (NSXの「指揮を今からすべてサブコマンダーに」移権します)
     声紋によって、NSXの艦橋とFTOに承認のサインが出る。

    「セフィーロの真の敵は、あのノヴァだけではないようです。この艦でセフィーロを守ってください。最後まで我儘ばかりですみませんでした」

     最後の言葉だけは、イーグルの意識と聴覚にもはっきりと、幻覚に惑わされることなく認識することができた。

    (きっと、ちゃんと伝えられましたよね、ジェオ)
     閉じたハッチの中で、再び口から血が噴き出す。イーグルは残っていた錠剤を嚙み砕いて、血液とともに飲み下した。

     
     

    (イーグル)

     またあの音がする。蝶がシャンシャンと飛び回る音が。彼らと自分が分離しているということは、自分の正気が残っている証拠なのだとして。
     瞼が重い。何度、喀血したかわからなかった。ランティスが自分を呼ぶ声を聞く。乞われたことに反対しながら、身体感覚を確認する。ランティスは精神感応で呼びかけているようだった。聴覚に響く声とは違う。いや、もう耳はやられているのかもしれなかった。目を薄く開けるが視界がほとんどない。周縁を覆っていた翅が視野全体に拡がったようだ。
     
    (誰が死ぬと言った。俺はザガートとは違う。結ばれないなら愛する者と共に死ぬ未来など選ばない。ノヴァの力が弱まった隙に脱出する)
     
     そういうつもりなら、良かった。誰かを護りたい、救いたい、未来を与え託したい。それは戦士として死ぬ以上に、イーグルにとって大切な、誰にも明かしていない『本当の願い』だった。

     僕はたくさんの戦いをしてきました。たくさんの不幸をこの手で生みました。死にゆく人の凍り付いた眼が、何かを叫ぼうとした口が忘れられません。

     大破したFTOはまだ動きそうだった。次が最後になるだろう。

    (この魔神を攻撃しろ)
     
    「わかりました。FTO……GO!」

     ランティスの魔法に巻き込まれるが、もはや苦痛はなかった。光の明滅はかえってイーグルの眼を焼き心を奮い立たせた。培った感覚だけで繊細な操縦をし、ランティスを魔神から引きずり出す。機体に対してごく小さな身体を大地に預け、イーグルは大きな息をついた。

    「あ……」

     黒かった蝶の群れが、視界を、聴覚を奪っていた蝶の群れが金色に輝いた。呼吸が楽になる。それでイーグルは聞いた。
    「ランティス、ひとつだけ聞いていいですか? あなたは、僕の身体のことを知っていたんですか?」
    (……)
     答えは伏せられたが、もう構わなかった。じきに死ぬのだろう、嘘のような多幸感がイーグルの血管を駆け巡り、どれだけ自分が病に苛まれていたか理解した。

    (最期に人を救えて良かった。ランティス……ヒカルを幸せにしてあげてください)

     かつて奪った少女に還せるように、奪った男に還せるように。
     そうです、僕は虫けらです。本当の虫けらに生まれていたらどんなにか幸せだったでしょうね。

     FTOは爆散し、消失した。




     イーグルの弔いはセフィーロの地でも行われた。彼が夢見た御伽の国。柱の真実を知ってさえ、イーグルの憧れはセフィーロにもあったのだった。遺る物がないので祈りはどこでも捧げられた。オートザムが算出したイーグルの消失点は、人気のない森の中だったので墓碑だけはそこに建てられた。彼が静かでいられるように。セフィーロの人々は墓碑というものを知らなかった。
     ある日ランティスの供え物が咳に効く薬湯だと知ったジェオは涙を流した。乱暴に肩を叩かれるままのランティスは森から空を仰いだ。大きな鳥が滑空している。その行く先を目で追いながら、イーグルの真意を知っていたのは自分だけでいい、と追想したのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭👏👏👏🙏💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    tx9y_nasubi

    DOODLE寝かせていた光の翼第三部の書きかけ。以前くるっぷでフォロ限公開していたのから、縦エディタが約5,000字増えていたので読んだら増えた分は肉付け前の上にプロットを無視していた。どういうことだってばよ…。なおプロットはさっき確認してみましたが情報量が多く、いまの私には目が滑り理解できませんでした。
    境界を象った棺 だれがために
     空を翔けるのか

     十七歳のイーグルは孤独だった。彼個人としては間違いなく孤独だったのだがそれは主観の話で、第三者視点では多くの人に慕われ、憧憬を集め、いまも追いかけてくる女性士官候補生たちから逃れるため、校舎の屋上に走りこんできたところだった。人気は女性だけにとどまらず、同性からもファイターメカ操縦を手習いから学びたいなどと囲まれているのが常だった。イーグルは優秀で、何でもできた。座学は居眠りと戦うのが難であったが、実戦は特別に強く、ファイターメカの試合を国が公に始めた昔から継ぐ歴代勝者の中でも、とくに抜きんでた戦闘力を有していた。彼は国民総意の英雄とも言えた。誰もが彼を認め、反感を持つものでさえも実力は一目置かなくてはならず、もし彼を害そうとする者がいたとしても、自身を守る力を十分に備えていた。加えて全体的な見目がよく、その点でも人と違った存在感を放つのがイーグル・ビジョンだった。彼の容姿はやや中性的でありながら体作りはしっかりしており、甘い顔との対比に熱狂的な偶像視をするものもいて、イーグルはあまり人が得意ではなかった。
    27307

    recommended works