ばついち流と娘の会話「おとうさんは」
「……」
「あの人がすきなの」
いつものように、ドライヤーで髪を乾かし終え、もみじの学校での話を聞いているときだった。娘にしては珍しく、こちらを窺うような慎重さを見せた聞き方をしてきた。
流川は膝の上に乗る娘のつむじを見つめた。小さくても女だ。もし息子だったら気づくことはなかっただろう。
「だったら嫌か」
娘はプラプラと足を揺らしながら、うーんと唸った。
「ハジメがお母さんになるの」
「わかんねえ」
「お母さんのことはもう好きじゃないの」
もみじが、振り返らずに下を向いてそう聞いた。流川は久しぶりに体が冷えるような衝撃を感じた。その声色には流川を責めるような色が滲んでいた。別れるときの元嫁の言い方にも似ていた。
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