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    Lets_tick

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    これは兄と流使の昔話。
    流使が思い出すのが難しくなったそんな話。

    ##そうさくろんぱ

    今から遠き兄弟のある祭の日の話 祭りのために封鎖された道路を2人の少年が歩いている。
    「にいちゃんってやっぱ凄いなー!さっきのヨーヨー釣り2個一気に取れたのすごいよ!」
     と後方でやや早歩き気味の弟が言う。
    「そうでもないよ、流使。1回目失敗していなきゃ、上手くコツは掴めなかったよ」
     とその前をゆっくりと歩く兄が微笑みながら後ろの弟へ返す。
    「でもおれ、1個も取れなかったよ、にいちゃん」
    「1個好きな方あげるよ、流使」
    「うーん。いらない。次の祭りの時に2個取る。いや、3個取る!!」
    「そうなの?わかった。ぼくも負けないよ」
     兄弟はそういうと互いの顔を見て笑う。
     しばらく会話がなく歩いていると、兄が弟の方を振り返る。
    「流使、それ、家に帰る前に食べたいの?」
    「う。なんで気づいたんだよー」
    「だって流使、たまにそのりんご飴齧っててぼくから離れるのに気づくと、早歩きで歩くから」
    「んー!……だって、我慢できなかったから」
    「あはは、じゃあ休める場所を探して、そこで食べちゃお」
     兄は、弟をよく気にかけていた。弟が何かを口にせずとも、それを助けるようにすぐ色々なことを提案していた。
    「……にいちゃんは食べないの?わたあめ」
    「ぼくは家で食べるよ。お父さんやお母さんや流使が食べたいなら、すぐに分けてあげられるから」
     そして、兄は弟以外の人も気にかけていた。
     誰にでも優しい兄だった。
    「おいしかったー」
    「食べ切ったね、じゃあ家にかえろ、わっ」
     ベンチから立ち上がってすぐ、兄は10歳ほど上の人にぶつかった
    「おいガキちゃんと見て歩けよー」
    「うっわ、綿菓子踏んで靴ベタベタだわ」
    「っふは、マジでやったのかよ、ウケる」
    「やろうって言ったのお前じゃん」
    「うっせ言うな。おい、友達がお前の持ってた綿菓子で靴汚したぞ。謝れよ」
     ぎゃらぎゃらと笑いながら、2人の男がそう言う。
    「前をちゃんと確認して歩かなくて、お兄さんの靴を汚してしまってごめんなさい」
    「に、にいちゃん」
     兄は当然と言った風に謝る。
     兄は誰にも優しかったのだ。明確な悪意であっても誰かを不快にさせたと相手が言うのならば、すぐに自分の非を認めるのだ。
    「つまんね、泣かねーですぐ謝った」
    「っふは、だから一発で上手くいくわけねーって言ったじゃん、ほらさっさと次行こうぜ」
    「……ねえ」
     ただ、弟はそうではなかった。
     頭を下げていた兄の前に出て、2人の男の顔を見上げる。
    「おれ、見てたよ。にいちゃんだけじゃなくて、お兄さんたちも前見て歩いてなかったじゃん。わざと綿飴踏んだじゃん。お兄さん達も、にいちゃんに謝ってよ」
     弟は誰にでも優しくはなかった。この状況を黙って見過ごすことなどできなかった。
    「……は?逆ギレ?ガキのくせに」
    「証拠ないじゃん、ほら行こ行こ」
     そして何よりも。
    「にいちゃんにッ、頼榴にいちゃんに謝れよ!」
     弟は兄のことが大好きだった。
     弟の叫び声で、周囲の大人たちがどよめく。目の前の男2人は周囲を見回して、一つ舌打ちをついた。
    「ッチ、悪かったよ」
    「マジになんなよな。行こうぜ」
     男2人は去り、大人たちのどよめきが静まり返っていく。
     兄は土で汚れ、硬くなった綿菓子を拾った。
    「わたあめ、食べれなくなっちゃったね、にいちゃん」
    「仕方ないよ。次お祭りがあったらまた買おう」
    「……やっぱり、りんご飴食べるの我慢して、家に早く帰ったほうがよかったかも」
     何かを悔やむようにそう言った弟の頭を、兄が撫でる。
    「いいよ、流使は食べたかったんでしょ?」
     それに、と兄は続ける。

    「ぼくの代わりに怒ってくれてありがとう。流使」
     兄はそう言うとニッカリと歯を見せて笑う。子供らしい、年相応の笑みだった。

     『やっぱりにいちゃんの笑顔って素敵だな』。弟は、胸にひっそりとその想いを胸に刻み込む。
     祭りのために封鎖された道路を2人の少年が歩いている。
     横並びで仲睦まじげに軽やかに歩くその2人の姿は、天使の羽が生えているように見えた。
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