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    このままだと永遠に上がらないので供養
    相互理解とは一体

    赤い方の先輩は論外。今まで解り合えたことはないし、これからも解り合うことはできない。それほど信頼の持てる不理解というのは、むしろ面白いほどに理解し合っているとも言えてしまうのかもしれないが。
    青い方の先輩もムリ。博愛を煮詰めて平和主義の型に流し込んだような存在が、トラブル&アクシデントを身上とする俺を理解できるはずもない。宇宙最強のアサシンなら行動の真意くらいは見破れるだろうが、浅瀬を撫でた程度で理解を語るなんて甚だしい。
    黒い後輩くんは微妙。アイツは他人によく見られたい性質だが、俺は他人に悪く見られたい。ただしそれを行動原理とする部分はよく似ているので、擦り合わせれば合わさる部分もあるだろう。やる気はない。
    緑の隊長は、解られている、気がしなくもない。☆の成せる業かそれとも選ばれたほどの本人のカリスマか、何も考えてなさそうなアホ面に据えた相貌が真っ直ぐ自分を射抜く感覚は正直不快だ。人柄はとんでもなく解りやすいんだが、そこに内包された軍部の闇もいつか暴いてやりたいとは思う。それを本人に対する理解と呼ぶのかは、また別にして。

    コイツらと出会って300年。
    いまだに俺は誰かを解ろうとする気にはならないし、誰かに解ってもらった感触もない。それでも困ったことはないのだから、とかく相互理解というものがどれほど無価値か思い知らされるばかりである。

    「わからねェ」じゃねェんだよ、「わかってやってもいい」んだよ。
    ただ、俺を「わからねェ」ならどちらにせよ意味のない話、というだけだ。



    某日、機械と電子音がひしめくクルルズ・ラボにて。

    「……ネーこれ重いんだけどッ!持つなりなんなり気回せないノ!?」
    「電算室に引きこもってるガキには丁度いい運動だろ」
    「オマエも大して変わンないだろ老害!!」
    「耳も悪いみたいでよく聞こえないねェ〜〜」
    「ムキーー!!!!」

    よてよて、落とさないように両手に大量のパーツを抱えているしっぽ付きの少年と、その横を緩慢な足取りで歩きながら適当な言葉を投げかけている男。
    手持ち無沙汰だというのにそれを見せつけるが如くわざと横に付いているのだろう、男の性格の悪さが見て取れる。少年も少年で重心が安定したと見るや彼に強めの蹴りをかましているので、嫌われているのは確からしい。

    本部からの通達。
    "負の遺産"の処理に使用する装置"キルミランデリーター"を、もう少しタイパとコスパマシマシのステキ装置に置き換えられないものか、という無茶難題が、軍部としてではなくクルルズ・ラボ個人に依頼された。
    軍部の技術が造り手に染み込んでいるとはいえ、大部分に彼独自の改造を施された侵略兵器は少佐時代から今に至るまで高い評価を得続けている。おそらく、ノンケロンとなった特務曹長を除けば宇宙で一、二を争うメカニックだろう。性格部分を考慮してか、はたまたその腕前に対する敬意の表れか、今回は「軍の命令」ではなく「スポンサーの依頼」という形が取られている。その事実にクルルも多少は機嫌を良くしたらしく、珍しく侵略も暇つぶしもほっぽり投げて開発に勤しんでいるようだ。
    そんな背景がある中、軍部に発注した部品の配達、兼監視役としてトロロ新兵が大抜擢された。
    そもそも"負の遺産"は軍にとって極秘事項であり、その詳細は精算を担っているガルル小隊の面々でさえ知らされていない。外容だけでも把握しているのは隊長であるガルル、そしてハッキングで不正に覗き込んでいるトロロだけだ。
    軍部一の天才であり問題児のクルルを放っておくわけにはいかず、また極秘事項を易々と漏らすわけにもいかない。幼年体でありながらA級小隊であり、奇しくも同じ専門であるトロロを配属するのがベストだ、と本部は判断したようだった。実際、彼の監視は細部のプログラムにまで行き届いている。「戦場で起動してみたら人形が飛び出てきて一個小隊壊滅」なんて事例は起こらずに済みそうだ。

    「……確かにわかるけどサッ、一番ボクが使えるってコト。それでも、コノおっさんの小間使いやらされるのはメチャクチャ納得いかないんだケド……」
    「ガルルや他のヤツならいちいち噛み砕いて説明しなきゃなんねーだろ……そんな非効率的なこと勘弁だぜェ。
    お前はメカニック方面には疎いがシステム方面は俺に引けをとらねェ。クク、ま、"スポンサー"ならそれくらいしてもらわねーと話になんねェな〜♪」
    「何も言い返せないのがよけいムカつく……」

    嘲笑うかのようなせせら笑いを一身に受け、自分でもよく理解していない部品をトロロは運んでいる。クルルの言う通り彼は機械の成り立ちには弱い。これが「どのような動きをする」ことはわかっても、「どのように動いている」「どのような役目を果たす」等本質的な部分は苦手なところがある。それを学ばせるための派遣であろうこともトロロ本人は薄々理解していて、だからこそこの先達に教えられている、という事実がたまらなく痛いのだ。

    床に打ち付けないようにゆっくり部品の山を下ろして、トロロはその場にへたれ込んだ。

    「あーオモ!!!もう運ばないから!!」
    「ド苦労さ〜ん♪さーてェ……クックック〜♪」

    不快な笑い声を上げながらパーツを仕分けていく男の後ろ姿を、トロロはじっと見つめている。自分にはどんな基準で、どのような意味を持ってそれらが分別されているのかわかりそうでわからない。ラボに入るのはこれを含めて3回目、システム上であれば"あの"侵攻や"あの"ハッキングを含めてもう少し。それだけではやはり彼の人生を懸けて構築された思考原理を知ることはできず、聞くのも癪に障るので必死にわかろうとしてみている。
    ……そんな慣れない視線が少しだけむず痒いのを、クルルは悟られないようにしている。

    「……コレ、どこだと思う?」
    「プ!??」

    部品の一つを手に取ってトロロに渡し、いくつかのグループを指差してみる。半分はクソガキへの知識マウントだが、もう半分は"スポンサー"の期待に応えた教育の一環だ。わからないなら、わかるようになればいい。わかるようになるためには何事も経験を積むのが一番だと、幼少の無茶な実験の数々でクルルは学んでいた。

    「……ココ」
    「クックック〜〜、違うなァ〜〜♪」
    「ハーー子供煽って楽しい!?」
    「もうちょいよく考えてみろヨ……そもそもコレは何だろうなァ。どう見ても生体部品じゃねーだろうし、回路基盤そのものではない。ならこことここには入らないぜェ」

    部品を持った手がゆっくり次の塊に近づいていたが、言うが早いか大きく揺れて止まる。どうやら次の選択も間違っていたようで、手を引くこともできず混乱を極める脳をぐるぐる回しているらしかった。

    「……物事の基本は観察だゼ。地球でも面白い話があってな、一目見ただけで他人の職業から人柄まで暴いてしまう、聡明で博識な探偵の物語だ……」
    「……それが?」
    「こんだけ文明の遅れた地球でさえ、表面上の情報でそこまでの解析を行えたってことだぜェ。なら俺たちにできねーことはねえ。ほら、観察してみろよ……てめェの今までの経験と知識から、ソレの本質を暴き出してみろ」

    そう言われてトロロはじっと手の中にあるパーツを見つめた。モニターの光を反射して、青白い金属光沢が眼鏡のレンズを照らす。

    「(……サイズは、ボクが片手で持てる程度には小ぶり……)」

    平べったい直方体にモニターらしい電子パネル、電源と+、-ボタンが付いている。側面に電源コードを繋げそうな挿入口、別の側面には掃除機のヘッド部分のような見た目をしたシリコン製の部品が取り付けられていた。

    「……何かに密着させるやつ?」
    「そうねェ、薄くて曲がりやすいからナ」
    「このプラマイボタンが気になるんだよナー」
    「何かしらの数値を操れそうだぜェ」
    「このシリコンを取り外すと……フィルター?いよいよ掃除機じゃん」
    「ならわざわざヘッドを柔らかくする理由はねーな」
    「ウーン……」

    しばらく機械をくるくると回していたトロロだったが、徐に機械の集合群に足を歩ませる。

    「……何かは、わからないけど……」

    自身のことも疑いながら、そっと解答を示した。

    「……ココ?タブン、コンピュータの周辺機器……」

    少しの沈黙。
    次に聞こえたのは、耳障りな笑い声。

    「……クク〜ッ!
    やりゃーできんじゃん、クソガキちゃん♡」

    「……セーカイ?」
    「そこまでわかって何かわかんねー、ってのは……ま、お前ノーパソ使わなさそうだし、あんまり馴染みはねーか……
    コレは吸引式の冷却ファンだぜ〜。外気を送り込んで冷やすんじゃなく、排気口に取り付けて内部の空気を吸い出すタイプだ」

    暗がりの中からノートパソコンを取り出したクルルは、機械に給電コードを繋いで排気口に取り付ける。液晶モニターが40℃前後を示した。ノートパソコンの画面を見る限り、これはパソコン内部の温度のようだ。クルルがそのままトロロのことを指で呼ぶので、少し不服だが言われるがまま隣に座る。

    「だいたいパソコンはこれくらいの熱がある。精密機器の稼働率は熱で下がる、ソレくらいはお前もよっくご存知のはずだ……コイツで排気をアシストするんだヨ」

    電源ボタンを押し込むと、少しこもった稼働音が響き渡る。1分もすればモニターの数値もずいぶんと低くなっていて、役目を果たしているのが伺えた。

    「地球のファンといえばプロペラみてーな羽根のあるヤツだろうが、最近はこういうのも安価で出回り始めてるんだぜ〜♪」
    「けどこれなら小型原子力冷却装置使った方が早くナイ?」
    「俺たちには俺たちのやり方、地球のパソコンには地球のファンだゼェ〜。俺は元々クールなモンでよ、あんまり冷やしすぎるのもよくねーだろ。
    じゃ、次はコレだナ……」

    クルルがまた複雑怪奇な機械を自分の手に渡してくるので、トロロは目を回して呆れ返ってしまった。


    「……一通り終わったか。
    ま、悪くねーんじゃねーの?最初よりは観察のしかたもわかってきたみてーだしよ」
    「疲れた………………」

    その後も観察眼の訓練は続き、かなりの数があったパーツの山はすっかり仕分けされていた。トロロはだらんと床に寝転んで、知恵熱がこもった頭を冷やそうとしている。こんなのでA級小隊のオペレーターが務まるものかと、少し不安に思ってしまうクルルである。

    「モーなんもしない…おなかすいた……」
    「カレーくう?」
    「ピザがいい」
    「腹は減るクセに口は減らねーなァ♪」

    楽しそうに告げてラボの奥に足を運ぼうとしたクルルだったが、小さな影がゆらりと立ち上がるのを見て動きを止める。

    「どした」
    「どしたも何も帰るに決まってンでショ!ボクは監視とパーツを届けるのがオシゴト、おっさんとメシ食うトコまで業務じゃないんだヨッ!」
    「、」

    ああそう、と一言声を押し出して、しようとして、声が出なかったことを認識するまで少し時間がかかった。喉の不調かと思って、必死に重たい喉を開ける。

    「…………じゃな、クソガキ」
    「パーツ発注忘れてましたーとかしょーもないことで呼ばないでネ老害!」

    軍人でありながら彼も子供というべきか、憎み口を一言叩いて彼はラボの入り口を通り抜けていった。超空間ゲートを使って地上に戻らないのなら小隊諸君らに絡まれて無事に帰れるとは思えないが、社会勉強ということで納得してもらうとしよう。
    いつもよりもか弱くてまるで平然を取り繕っているような声色には目を瞑ることにする。
    まさか、俺がそんなコトあるわけねーだろ。

    その夜、パーツを1つ入れ忘れていたと暴言混じりのメールが届いた。一旦寝てから急ぎで来るとのことだ。あれだけ人に釘を刺しておきながら自分が忘れ物をやらかすとは随分愉快なものだ、とクルルは独りごちた。ラボの薄暗い照明の中で溶接棒が火花を上げて母体を接合していく。ガキさえいなければ仕事は酷く順調に進んでおり、うるさい声に叩き起こされるまでは試作品と眠っていられそうだ。

    「(……プログラム関連でも良いんだが、どうせ独学だろうしナ……俺も解釈が捻くれてるし、混乱を避けるためにも触らない方が吉か……)」

    「(パイロット版の試運転レポートを取らせるのはアリだな……レポートの書式から書かせて、書類ってモノのめんどくささを教え込んでやるゼ……)」

    「(……製図もやらせてみるか?アナログ作業は慣れてないだろ……ククーッ、鉛筆と定規と方眼紙だけ渡してみたらどうなるだろうな……喚くか、騒ぐか、それともキレるか……)」

    さて、明日は何を教えてやろうか……
    日向家の灯りが消えた後も続く作業は、ずっと楽しくて仕方ない。
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