9月の新刊の一部先行公開です 序章
街路樹の葉が色づき始め、風に乗ってひらりと舞い上がる。つい先日まで少し動いただけで汗ばむほどの陽気だったのに、今では頬を撫でる風は冷たく、夏の終わりを実感する。
日中はまだ半袖でも平気だが、日が傾き始めると上着がほしくなる、そんな季節の変わり目。
空は高く澄み渡り、夕暮れの光がビルのガラスに反射して、街全体が紅葉したかのように黄金色に染まっていた。
────きゃーっ!
突然、通りの向こうから黄色い悲鳴が上がった。何事かと驚いて振り返ると、視界に飛び込んできたのは、交差点の角に掲げられた巨大な街頭ポスターだった。
スーツに身を包んだ痩身の男が、切れ長の目でこちらを見据えている。口許にはまるで見る者を挑発するようなわずかな笑み。白い肌と黒絹のような髪が、夕陽に照らされていっそう際立っていた。
16916