Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    south_we27

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    south_we27

    ☆quiet follow

    💡と🥷が任務先で電波通じなくなる話。

    ※全部捏造
    ※ちょっと怪我描写

    ステップアップ友人「伊波叢雲、C地点制圧かんりょーぉ」
    「ぉえーい」

     叢雲の間延びした声に伊波がゆったりと拳を上げる。辺りには縛り上げられたKOZAKA-Cの連中がぽつぽつと転がされていて、なるほど戦闘の後なのだろうということはひと目でわかった。
     敵の数は多く、彼らが潜伏するための拠点はあちこちに広がっている。彼らのネットワークはまるで蟻の巣のように張り巡らされており制圧してもしてもきりなく復活するさまはまるでモグラ叩きのようなありさまだった。当然ヒーロー本部もそんな敵に対して有効な対策はないかと日夜頭を悩ませており、本日伊波たちに与えられた任務もその中のひとつだった。つまり調査の結果判明した敵拠点の制圧である。
     複数人招集されたヒーローたちはそれぞれでチームを組んで予めマップにマークしてあった要所を攻略しに向かっていた。さまざまなヒーローたちが集まる中伊波が叢雲を捕まえられたのは幸運だったと言えるだろう。叢雲はあまりフレンドリーな方ではないが、頼りになる実力者だということは何度か任務で一緒になる中で理解していた。
     今回攻め込んだ拠点の重要度はそう高くはなかったのか敵の制圧も至極簡単だった。新米ヒーローである伊波は任務の度に生傷が絶えないが、今回の任務ではなんと目立った怪我は負っていない。もっとも、対する叢雲の方はかすり傷どころか髪のひとつも乱れていないのでこのくらいで喜んでいる場合でもないのかもしれないのだけれど。

    「ぬるい仕事やったな」

     武器を懐にしまった叢雲がふん、と鼻を鳴らす。彼とは何度か共闘したことがあるはずなのだが、未だにどこから武器を取り出しどこに片付けているのか伊波にはわからなかった。あまりにも敵の手応えがなかったのだろう、憮然とした表情の彼にまあまあ、と声をかける。

    「まあ怪我がなかったならいいじゃん! とにかく捕まえた敵たちを移送しちゃおう。ひとまず本部に連絡して……あれ?」
    「ん、どうした」
    「どうしよ、繋がんない」

     連絡用のデバイスを取り出しぴこぴこと起動する。途端に襲った違和感に伊波はくん、と首を傾げた。連絡が繋がらない。より正確に言えば、通信用のネットワークに接続ができない。本部へ連絡するために開いたテキストチャットはただただ沈黙を伝える箱と化していた。
     押したり引いたり叩いたり。メカニックらしからぬ方法で接続を試みる伊波を見て叢雲がええ、と声を漏らす。しかし彼が懐から端末を取り出しても結果は変わらないようだった。

    「こっちも無理や。繋がらん」
    「うーん……ここ結構山奥だし、そもそも衛星からの電波が届いてないのかもね。それならそれで先に教えといてくれよって感じだけど」

     拠点の傍に集合した時はまだ電波が繋がっていたはずだが、ここは屋内だし、集合地点よりもまた更に奥まった位置にあるからそういうこともあるのかもしれなかった。東ならこういうこともないだろうに、とひっそり歯噛みする。そんなことを言っていても現状は変わらないのだからどうしようもないのだけど。
     思いつく限りの方法を試してみるが電波が復活する兆しはない。そうこうしている間に捕らえたKOZAKA-Cたちが脱走してしまってはたまらないし、もう繋がらないなら繋がらないで諦めるしかないだろう。伊波はただの黒い板と化したデバイスを未練がましく弄った。どれだけ技術が発展しても使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。

    「で、どうする? もう直接こいつら担いで拠点連れてくか」
    「そ、れは流石に……厳しいんじゃない? そこそこ数も多いし……カゲツが大丈夫でも俺が無理だよ」
    「無理か」

     ここからいちばん近い拠点でもそこそこの距離がある。デバイスで身体能力を強化しているとはいえ伊波は普通の人間で、体術なんかにもあまり自信はなかった。担いだ敵たちが本格的に意識を取り戻して暴れだしたら伊波は恐らく、あえなく彼らを取り逃してしまうだろう。
     忍者として訓練を重ねた叢雲なら簡単な話なのだろうけど。そう零せば彼は「いや?」と首を振った。

    「ぼく強いけど体力そんなある方じゃないし。重いもん持つのとかもあんま得意じゃない」
    「そ、そうなんだ? じゃあなおさら方法考えないと。通信しなくても本部と連絡取れればいいんだけど……あ」
    「あ?」

     首を傾げる叢雲を放っておいて自分の荷物をがさごそと漁る。結局今必要なのは敵の移送依頼を伝えることで、何も端末での通信にこだわる必要はないのだった。幸い、端末は接続が切れているだけで他の機能に支障はないようであったし。
     モーター、良し。プロペラ、良し。動力、良し。必要な材料は揃っている。簡単な工具と部品は常に持ち歩いているのが功を奏した。砂に汚れた地面を軽く払って座り込んだ。これは、ちょっと、得意になってもいいターンかもしれない。

    「ライ? どうした」
    「いいから見といてよカゲツ。メカニックの腕の見せどころ、ってね」

     よく分かっていない顔のまま頷いた叢雲の前でテキパキとパーツを組み上げる。普段からもっと複雑で大きな機械を扱っているから、目的のものはすぐに完成した。少しばかり動力に乏しい気はするがまあ大丈夫だろう。片道ぶんがもてばいいのだし。
     しばらくかちゃかちゃと工具をいじる音だけが響いた後、じゃじゃーん、と伊波が披露したのは小さなドローンだった。目的地に向かって飛ぶだけのシンプルなもので、サイズも小さい。プロペラの下にはきちんとしたアームがついていて、伊波はそこに通信用のデバイスをそっと設置した。

    「お、おお……え、ライ今のどうやったん? ぼく今見とったけど全然わからんかった」
    「そりゃあ伊達にメカニックやってないですから! こんくらいできなかったら伊波ライの名が廃るってね。えーとちょっと待ってね……んー、よし」
    「それ本部に飛ばすん?」
    「本部っていうか、近場の拠点ね。流石に手持ちのバッテリーじゃ充電的にも出力的にもそこまでは無理かな」
    「ほへー……」

     デバイスのボイスメモを起動して手短に要件を吹き込む。それからGPS情報を入力して、もう一度ドローンを確認した。うん、簡易なものだけれど大丈夫なはずだ。その一連の動作を叢雲は黙って見守っていたけれど、伊波は前髪に隠れがちな彼の瞳がキラキラと輝いていることに気付いていた。わかるよ、機械ってカッコイイもんな。メカニックなりに、いやむしろメカニックだからこそ覚えのある感覚に内心だけでうんうんと頷く。何せ、そのカッコイイに魅了されて離れられなかった結果今こんなことになっているのが伊波という人間だったわけで。
     とはいえ普段クールに振る舞っている叢雲のこんな表情が見れたのは嬉しい誤算だった。冷静そうに見えて案外掴みどころのない彼への親近感がむくむくと湧いてくる。マスクに隠れた面立ちはよく見ると思っていたよりずっと幼くて、そういえばこいつはいくつなんだろうと伊波の心中に疑問が湧いた。
     そのままドローンを空に放ってやればそれなりの速度で真っ直ぐに飛んでいく。今日は強い風もないし、あの調子なら数十分もあれば応援が到着する目算だった。それを簡単に叢雲に伝えて、適当な瓦礫に腰掛ける。応援が来るまでは短い時間だけれど、そんな少しの時間だけでもいいから彼のことをもっとよく知りたいと思った。
     まず、お前いくつなの? と聞いてみよう。もしかしたら、童顔だなんだと言われがちな伊波よりもまだ歳下の可能性もあるかもしれなかった。





    「上は片付いた。おいライ、大丈夫か」

     土の匂いの濃い薄暗い地下室。裸電球ひとつが頼りない光源を灯しているそこにひょっこりと現れたのはふわふわとした白髪だった。叢雲の柔らかな髪はところどころ煤や泥に汚れていて戦闘の直後であることが見て取れる。もっとも、今の伊波の様子を見た方がよっぽど戦闘をしてきたんだなという風に見えるだろうけど。
     気遣わしげな表情の彼にはは、と右手を上げる。気さくな挨拶のつもりだったけれど、動いたせいで傷口が痛んでぐ、と表情が歪んだ。
     伊波は新米のヒーローだ。実力の及ばない相手には、負けて、ボコボコにされてしまうことだって少なくない。それでも突如として街中に現れる敵にはその場で動ける者が対処しなくてはいけなくて、強い人が到着するまで待ってよう、なんて甘えたことは言っていられないのが現実だった。

    「はは、だいじょーぶ……」
    「全然大丈夫とちゃうやろ。そもそも起き上がれるん?」
    「うーん…………無理かも」

     全身に無数の打撲痕が浮き上がっている。眼球の保護のためにつけているゴーグルはひびが入っていて、顔面には乾いた鼻血がこびりついていた。ただでえ指一本動かすのも億劫なのに、足に力を入れればびきりと嫌な痛みが走る。特に右足の痛みが酷くて、もしかすると骨に異常が起きているかもしれなかった。
     街中で突如として発生した敵の襲撃。すぐに対応できたのは伊波を含めたごく少数で、お互いに援護を送る余裕なんて少しもなかった。伊波の不運は、敵の中でも比較的実力のある者を相手取ってしまったことだろうか。ただでさえ数の多い敵にこてんぱんにやられてしまい、敗走同然で地下に逃げ込んだ無様さに伊波は涙が出そうだった。
     敵に対応するため駆けつけた叢雲が伊波のSOSに気付いたのは数少ない幸運だった。袋小路に逃げ込んだ伊波を封殺するために集っていた敵を撃退し、追い払ってくれたのは他でもない叢雲である。どこまでも足でまといでしかない自分が情けなかったが、それを口に出しても強くなって見返せと叱咤されるだけなのは分かりきっていたから伊波はぐっと奥歯を噛み締めた。自分の実力が足りないのは自分がいちばんわかっている。
     叢雲は傷ついた伊波を見聞すると、困ったようにぽりぽりと頭をかいた。敵が退散したからかその動きからは緊張感が抜けていて、伊波は自分の張り詰めた神経がほぐれていくのを感じた。
     
    「んー、なんかこの状況で言うんもアレなんやけど」
    「どしたの? なんかあった?」
    「ここの入り口が塞がれてしもて」
    「え」

     思わず嘘、と立ち上がろうとする。たちまちびきりと全身に痛みが走ってへたりこんだ。その様子を見た叢雲が言わんこっちゃない、と眉を上げる。彼ははぁ、とため息をつくと、壁にもたれる伊波の隣に座り込んだ。
     伊波が逃げ込んだここはそれなりに造りのしっかりとした倉庫のようなものだったらしい。それなりに広さのある場所だから戦闘自体はつつがなく進んだものの、最後の最後、逃げていく敵が積んであったコンテナをひっくり返したらしい。それは伊波の様子を確認しに地下に走っていた叢雲ごと地下の入り口を塞ぎ、そのままにっちもさっちも行かなくなってしまったと、つまりはそういうことらしかった。
     叢雲はあまり膂力に自信がないというのは、本人から聞いた話でもあった。忍者というのは身軽さや手数が求められるから、単純な腕力はむしろ必要とされないのだそうだ。そんな叢雲に己の何倍の体積がある貨物用コンテナを動かせというのは酷な話だったし、伊波に至ってはいわんや、である。ヒーロー活動の際に使っている身体強化デバイスがあればあるいは可能性があったかもしれなかったが、残念なことに現在それはバッテリーが切れてしまっていた。先の戦闘でエネルギーを使い果たしたのだ。
     タコがおったらなんとかなったかもしれんのになあ、と叢雲が息をつく。星導は、というか星導が操るタコの触手は非常に筋力に優れていて、もしかしたら小さめのコンテナくらいなら動かせるのかもしれなかった。とはいえないものねだりをしても話は始まらない。ぴょこんと立ち上がった叢雲は、きょろきょろと辺りを見回し始めた。脱出口がないか探しているのだろう。伊波もそれに続きたかったが、いかんせん体が言うことを聞きそうになかった。

    「ごめん、俺全然動けなくて……」
    「怪我人が生意気言っとんな。ともかくどうにかせんとな……せめて応援でも呼べたらいいんやけど」
    「あ、そうか連絡!」

     どうして気付かなかったんだろう。連絡用に支給された端末をば、と起動する。何も孤軍奮闘するだけがヒーローではない。必要に応じて周囲に助けを求めることもまたヒーローとして必要な資質。まだまだ実力の足りない伊波だからこそ痛いほど知っている事実だった。
     数秒の起動時間がやけに長く感じる。音もなく起動した端末を慌てて覗き込んで、そして伊波はがっくりと肩を落とした。鈍い痛みが余計に悪化した気すらする。分厚い地面に覆われた地下室は電波が届いていないらしかった。

    「ダメだ、繋がんね……」
    「なんか前もこういうことあった気がするなあ」
    「皮肉なことにね……」

     ついひと月ほど前に巻き込まれたトラブルを思い返してまたひとつため息が出る。強烈なデジャヴだったけれど、あの時の解決手段は今回は使えそうにない。ドローンや小さなロボットを作ったところで、そもそも地上に放つための隙間がなかった。
     僅かに見えたであろう希望も潰え、がっくりと座り込む。確かにこのままでもそのうち二人がいないことに気付いた本部が捜索を寄越してはくれるだろうが、それがいつになるかに期待はできなかった。この怪我を抱えて三日も四日も籠城できる自信は伊波にはない。
     叢雲は口に手を当ててんー、と声を上げると、あ、とひと言呟いた。焦ったところのないその様子になんとなく心が慰められる。自分一人だったらパニックに陥っていただろうなと考えて改めて伊波は叢雲に感謝の念を抱いた。同行者が落ち着いていると、それだけで安心できる気がする。

    「なーライ、ここ通風口とかってある?」
    「え? ないことはないと思うけど……あ、これかな」
    「ん、あんがと」

     きょろりと見渡せば通風口はちょうど伊波が座り込んでいる傍にちょこんと鎮座していた。確かに叢雲の身体能力があれば小さな通風口から潜り込んで外に助けを呼びに行くのも簡単だろうと思えた。伊波の表情がぱ、と明るくなる。
     しかし見つけた通風口はといえばしっかりと壁に嵌め込まれていて、蓋を開くのも難しそうに思えた。見出したと思われた活路が塞がれたことを察した伊波の表情がさっと曇る。叢雲はそんな伊波の様子など気付いてもいないようにささっと通風口を見聞すると、「これなら通れそうやな」とぽつりと呟いた。

    「え、そこ通れるの!? 蓋外れなさそうだけど……」
    「あほか、ぼくがこんな隙間通れるわけないやろ」

     呆れたように眉を顰められる。確か彼は壁を通れるだのなんだのという噂されていたから、伊波はいまいち詳しくない忍術だとかなんとかでぱぱっと通り抜けてしまってもおかしくないと思ったのだけれど。
     叢雲は納得いかないような顔をした伊波にはあ、とため息をつくと、ごそごそと懐を探った。なんでも出てくる四次元ポケットからぴら、と一枚の紙が取り出される。妙な形に切られた上質そうな和紙に伊波はぱちくりと目を瞬かせた。
     叢雲が内緒話でもするようにくすと笑って、こちらに視線を寄越す。どこかいたずらっぽい、それでいて得意そうな表情だった。彼は手にした紙にふぅ、と息を吹き掛けると紙をするりと通風口の隙間に潜らせる。そのまま口の中でひとことふたこと何かを呟くと、ふぅ、と満足そうに息をついた。

    「ヒトガタ送った。ちょっとしたら誰か気付いて来てくれるやろ」
    「……えっ!? えっ何、何今の!」

     がた、と立ち上がりそうになって、いたたと元いた位置に後戻りする。そんな伊波を叢雲は呆れたように見ていたけれど、伊波にしてみればそれどころではなかった。なんだそれ、なんだそれ、なんだそれ。なんというか、こう……カッコよすぎるだろう! 叢雲が単純な身体能力以外という意味での忍術にも習熟していることはなんとなく察してはいたが、こうして直接見る機会が巡ってきたのは初めてだった。
     西の地域は魔術や魔法が発達している。翻って、伊波だって普通じゃ有り得ないような小さな奇跡を目にしたのは初めてではない。それこそ今まで関わったヒーローの中にも任務にあたって魔術を行使するものはいた。それでも、それでも。まず叢雲がこういう術を使うことに驚いたし、それから遅れて忍術というものに始めて相まみえた興奮が全身を覆った。
     叢雲は伊波のそんなキラキラとした視線に気付いたのだろう。ばつの悪そうに口をもごもごとさせると、もぞもぞと伊波の隣で丸くなった。

    「そんな珍しいもんでもないやろ……」
    「いや、俺初めて見たし! え、それ忍術!? どういうやつ!? 俺でもできる!?」
    「質問が多い! いっこずつ言え!」

     くわ、と叱られる。伊波は一拍遅れて染み出した恥ずかしさにへへ、と鼻の頭をかいた。確かにちょっと、興奮しすぎてしまったかもしれない。敵はもう退散したものの依然厳戒態勢なのは事実である。教官や小柳がこの場にいたら浮かれるな、と一喝されるのは確かだろう。
     叢雲を困らせてしまったな、と彼の方に視線をやる。それでも、明後日の方を向いている彼の、白くてふわふわとした髪に隠れた耳の先がぽっぽと赤く染まっていることに気付いて伊波はにぃと破顔した。なんだ、かわいいとこもあるんじゃん。
     前言撤回。手加減なんかせずもっと困らせてやろう、と笑みを深くする。ついにまるまると蹲ってしまった叢雲に次はなんて言葉をかけてやろうと画策する伊波の頭には、もう傷の痛みなんてちっとも残っていなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤🙏🙏🙏🙏🙏💖💖💖💖👏👏👏👏🙏👏👏👏👏🙏☺🙏❤❤❤❤❤❤🙏🙏👏👏🍆💖🙏💖💖💖💖💖❤💖☺☺☺☺☺😭🙏🙏🙏🙏❤❤❤❤🍑
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works