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    south_we27

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    south_we27

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    募集したセリフで存在しないSSを書くやつその1です。
    いただいたセリフ→「俺のオトモ、強すぎ……?」

    その後普通に走ったんだけども ガガガガガ、と堰を切ったような銃声が響く。ひらりと翻した髪の毛の先がちりちりと火花に焦げ付くのを感じながら、星導は逃げ込んだ路地の先にへたりと座り込んだ。
     なぜこんな、西部劇じみた異常などんちゃん騒ぎに付き合わなければならないのか。理由はさっぱりわからないが、少なくとも巻き込まれた身であることだけは確かだ。そこらじゅうを厳しい顔つきの黒服たちが駆け回っているのを認めて星導ははあ、とため息をついた。今日は早く帰れる予定だったのに。懐に抱え込んだ骨董品をぐ、と抱き込む。今日最大の戦利品であるこの品は貴重ではあるがそのぶん脆い。まかり間違っても傷のひとつも付けるわけにはいかなかった。
     星導の住む場所から少し離れた町で開かれた骨董市。電車を数本乗り継いで訪れたこの場所で出会ったのは多くの貴重な品々と、そしてそれよりもっとずっとたくさんの暴漢たちだった。多分、よからぬ連中の抗争か何かにたまたま出くわしてしまったのだろう。西の土地にはあまり治安のよろしくないような場所がぽつぽつと存在していたし、普段は足先のひとつも向けないようなここがそういった場所柄をしていてもあまり不思議ではない。
     変身して全員蹴散らしてやっても良かったが、それをするにはいかんせん相手の数が多すぎたし何より胸に抱えた貴重品が気がかりだった。繊細な造形で仕上げられた陶器であるそれは星導が暴れたりなんかすればきっとあっという間に粉々になってしまう。吟味に吟味を重ねてようやく購入した品をつまらない衝突事故で喪うというのは流石に看過できることではない。

    「面倒なことになりましたねえ」

     あーあ、と。そうぼやいて傍らにふよふよと浮かんだオトモに視線を向ける。あいも変わらず何を考えているのかいまいちわからないオトモはまるで相槌でも返すかのようにくるりと宙返りをしていた。とはいえオトモに愚痴を言ったところで何も解決しないのだけど。
     下手に出ていってできることがあるでもないし、かといってこのままずっと隠れ潜んでいるわけにもいかないし。すっかり手持ち無沙汰になってしまって、もうぷにぷにとした感触のオトモをつんつんつつくしかやることがなかった。多分乗ろうとしていた電車にはもう間に合わないだろう。あーあ。郊外だから一時間に来る電車の本数少ないのに。それがいっそう腹立たしくて、オトモの脇腹をつつく指のBPMはどんどんどんどんと上がっていった。オトモに腹と呼称される部位があるのかはよくわからないけれど。
     星導の指を振り払うようにブルブルと揺れるオトモにくすりと微笑みをこぼす。それ以外やることがない環境だからか、星導の行動に素直に反応を返すオトモがなんだかやたらと可愛げがあるように見えた。薄暗い路地の中、つやつやと光るオトモがやけに浮き上がって見える。いやまあ浮いてはいるのだけれど。物理的に。

    「あーあ、お前がはかいこうせんでも出して全部ぶっ倒してくれれば楽だったんですけどね」

     はあ、とこれみよがしにため息を吐き出してやればオトモが不服とでも言いたそうにくるりと一回転した。わかってますよ、とほほ笑みかける。星導がやるべきことはこうしてオトモ相手に管を巻くことではなく、手に入れた骨董品を無事に家まで連れ帰ることなのだから。
     さすがにこのままでは次の電車すら逃してしまいそうだ。よいしょ、と小さく声に出して立ち上がった。見た感じ黒服どもはがやがやと忙しそうで、あまり派手に走り回ったりしなければ見咎められる心配は薄そうだ。それはそうだろう、だって彼らがかかずらっているであろう面倒事について星導は一切関係していないのだから。全くの部外者である。巻き込まれで攻撃される方がおかしいのだ。
     気配を殺して歩くのはあまり得意ではない。スニーキングが必要とされるミッションならもっと他に適任がいるだろうとぶつくさ文句を垂れる。ああ、いっそのこと叢雲でも呼びつけてやれば良かった。ここまで来るのにどれだけかかるか知らないけど。まあでも、その道のプロフェッショナルを呼び出さなければならないほど難易度の高い現場ではなさそうだった。幸いなことに。
     それじゃあ帰りましょうか、気をつけて。オトモにひそひそ声をかけ、身を潜めた路地裏から一歩踏み出す。あからさまにキョロキョロと周りを見回してもこちらに注視している人間はいなくて、星導はこれ幸いと僅かな時間を共にした小路にさっさと別れを告げた。
     人の往来のある、大通りの方まで辿りつければあとはどうにかなるだろう。小走りで細い道みちを急ぐ。幸い逃げてきた時もそう長い距離は走らなかったはずだしすぐに駅まで着けるはずだ。
     そうやって、慢心したのが悪かったのだろうか。

    「おい、そこのお前! 何をしている!」
    「やべっ」

     いかにもという風貌をした黒服の男に恫喝でもするように呼び止められる。星導はうげ、と顔を歪めた。そんな目立ったつもりはなかったんだけれど。目ざとすぎるだろう、優秀な警備兵だな。一瞬のうちに胸中を罵詈雑言が過ぎった気がしたけれど、それには気付かない振りをしておくことにする。
     いざとなれば走って撒こう。いやでも、逃げる時のどたばたでまた他の黒服を呼んでしまう気がする。しかも俺今荷物持ってるし。そもそもこいつって俺より足速いの遅いの。またたきの間に宇宙の全てが詰まっているはずの脳みそがいろいろな思考を巡らせる。それでも出るのはやっぱり触手でのしてしまうのがいちばん楽だという結論なのだけれど。荷物さえなければ。そこらに置いておくにしてはさすがに貴重品すぎる。
     あ、そうだ。うんうん唸っているだけだった星導の灰色の脳細胞が急にピン、と冴えた答えを捻り出した。オトモに荷物を持っててもらえばいいんだ。それでどこかに隠れててもらおう。つやつやぷにぷにでふわふわ浮いているオトモだってそれくらいできるだろう。そしてその間に星導が全員やっつけてしまえばいい。それはこれ以上なく頭のいい提案に思えた。
     そうと決まれば話は早い。少し後ろを着いてきているはずのオトモへぱっと振り返る。胸に抱えた荷物を持ってもらおうと口を開いたその時だった。

    「オトモっ、」

     びびびびびびび、と間の抜けたような音が聞こえる。振り向いた星導の顔の真横をピカピカと光る光線のようなものが通りすぎているみたいだった。というか、まさしくそうだった。すぐそばに光線をいただく頬がぴりぴりと痛む。何これ、と思って視線を巡らせると、答えは至極簡単だった。
     オトモがビームを撃っている。しかも結構強そうな。確かにはかいこうせんでも出してくれればとは言ったけれども。まさか本当に出すなんて思わなくて、星導はただ呆気にとられてオトモと黒服を交互に見ることしかできなかった。
     呆然としているうちに光線は去っていった。満足そうなオトモがふすふすと宙を揺れている。後に残ったのはぷすぷすと黒焦げになった男と口をぽかんと開けている星導だけ。抱え込んだ荷物には傷ひとつだってなかった。そりゃそうだろう、だって星導は何もしていないのだから。

    「嘘、俺のオトモ、強すぎ……!?」

     ぽろりと口から言葉が零れる。それを聞いたオトモは満足そうに一回転して、星導の頭の上にぺたんと着地した。
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