『月が嗤う夜』夜中にふと目が覚めた。窓から入る光は月明かり。まだもう少し夜が続く時間。
隣で眠るツガイ相手は僕に背を向けて、規則正しい寝息を立てている。生きているとわかっているのに、どこか…安らかに死んでいるようで…胸の奥がざわつく。雲のせいか、窓から差し込む月明かりが揺れて、彼女の首筋を照らす。誘われるように、吸い込まれるように…僕はそっと触れた。
「…殺せば?トリの力なら、首の骨くらい簡単に折れるだろう?」
ひとつきりの瞳が僕を睨みつけた。
「……違うよ。僕は…キミが生きてるって…確かめたかったんだ…。触れて、鼓動と…体温を感じたかったんだ…。」
「……期待させないでよ…紛らわしいなぁ…。」
「…起こしてごめんね、モズ…。」
「トリとはいえ曲がりなりにも弱点なんだ。触られて起きない奴なんていないだろ?」
「…そうだね。お詫びに紅茶を淹れるよ。待っていてくれるかな?」
「…私が二度寝するまでに用意できるならね…。」
「わかったよ。少し待っていてね。」
彼女が僕の前で、無防備に弱点を晒すのは…やっぱり殺してほしいからだろうか?それとも…信頼してくれているからだろうか…?信じたい方を信じる…そう言ったら、きっとまた笑われてしまうんだろうな…。