軍パロボイバグ(if) ボク達の軍は、次なる戦いの場所へと向かっていた。ニンゲンの限界を超えた能力を持った集団であるボク達は、どんな戦いであっても負けというものを知らなかった。特別な能力を持ち、身体能力も通常の人よりもずっと高いから当然だが。
「…バグドール様、敵が接近しております。戦闘の準備を」
「……分かった」
エラードールからそう言われ、いつでも銃を抜き取れるよう準備する。敵軍が見えてくるまでそう時間はかからなかった。先頭に立って歩いているのは、真っ白な髪をツインテールに束ねた少女。そしてその背後には______。
「…!?」
「あ…………」
少し前、ボクを助けた長髪の少女。敵軍だという情報は知っていたが、まさかこんな所で再会するとは思っても見なかった。相手もこちらに気づいたらしく、元々大きな丸い目を更に見開いた。こぼれ落ちてしまいそう。しかしあまり気を取られているわけにはいかない。戦闘に入るまでもう時間は無かった。相手の軍が一斉に武器を構える、そして同時にボク達の軍にも臨戦体制になるよう指令を出す。先頭を歩いていたツインテールの少女がこちらに飛び込んでくると同時に戦いの火蓋は斬られた。軍刀の鋒を躱して銃口を少女に向ける。発射と同時に少女の姿が消え、少し先に現れる。まるで瞬間移動をしているかのような速度だった。こういう時こそ落ち着いて、相手の動きのその先を見なければ。銃を使う手前、動きの素早い相手には多少の不利が付き纏う。だからそれを頭で補うのだ。時々身体の側まで迫る刀を銃身で受け止める。弾いてなんとか隙を作る。弾が尽きたら次の銃を抜く。リロードの時間すらも作れない。時々反応が追いつかずに刀がボクを掠めて傷を作る事もあった。傷から溢れる血が目に入って狙いが定まらない事もあった。それでも負けるわけにはいかない、と気配だけで銃弾を放つ。
ばん、ばん。
「………!!ぁ……」
何も見ずに撃った弾は、彼女の脳天を貫いた。真っ白な髪や顔が赤く、赤く染まっていくのを見た。薄荷色の瞳がこちらを覗くと同時に、頭の遠くから何かの記憶が呼ぶ声がした。靄がかかっていたそれは、彼女から流れ出す深紅の血を見ていると段々鮮明になっていった。
「……………え…」
「ボイ、ドール、さん……?」
長髪の少女______ガードールの絞り出すような声で全てを思い出した。いや、思い出して、しまった。そうだ、ボクは、ボク達は…。どうして、忘れてしまっていたんだろう。呆然と、目の前に咲いた血の華を、そこに映ったボク自身を、眺める。
「……敵の切り込み役を討ち取りました。これで我々の戦況は一気に有利になりました。やりましたね、バグドール様」
エラードールの、無関心・無感情の声が容赦なくボクに現実を突きつけてきた。ボクは、たった今、アイツを…ボイドールを、この手で殺したんだ。あの時だって、最初はボイドールの破壊を望んでいたはずだった。今だってそうだった。思い出すまでは。それは達成された。喜ぶべきだ。それなのに。なんで。なんでボクの心は、それを拒んでいるんだ。戦わないといけないのに。宿敵だったのに。
「エラー、ドール…ボクは……」
「……?バグドール様…?」
…ダメだ。今更後戻りなんて出来ない。ボク以外、あの時を知っている奴はいないんだ。不審に思われるわけにもいかない。ボクはこれから一生、この事実を、罪を、呪いを、背負って生きていくしかないんだ。頬を伝った、汗か涙か分からない水を腕で拭いとる。
「…………なんでもない。戦闘を続けろ」
「…はっ、仰せのままに」
ボイドール、許してくれ。そんな叶うはずもない願いをただ、心の中で反芻して、呼吸を整えて。いつかの逢瀬を願って、銃を構えた。