第二話『夢を信じて!魔法少女唯命参上!』 霧月が魔法少女になって少し経った。街を脅かす魔物を倒す事にも慣れてきて、時々他の魔法少女と接触する事もあった。しかしここの魔法少女は他の魔法少女と馴れ合おうとせず、逆に敵視しているように霧月の目には映った。しかしある程度噂などは妖精を通して伝わるようで、霧月達もある日一つの噂をエマから聞いた。
「鎖の魔法少女…?秘密組織…?」
「…あぁ、お前らよりずっと前から魔法少女やってる奴でさ。この街の魔法少女連中の誰よりも強い。それで、そいつが束ねてる…組織って程でも無いけど、ちょっとした緩い集まりがあるんだと」
「へぇ……その集まりって、何してんすか?」
その疑問にエマは霧月の周囲をふわふわと浮遊しながら答える。
「さぁな。俺もアイツとはアイツが魔法少女なりたての時しか関わってねえからな…あ、だがそこの幹部連中の話は噂に聞いてるぜ」
「…その話詳しく」
「お、食いつくんだな。まずあの組織モドキの幹部はトップ含めて7人。さっき言った鎖の魔法少女の他に雷の魔法少女、双子星の魔法少女、奇術の魔法少女、幻惑の魔法少女、無垢の魔法少女の6人だ。どいつもこいつも実力者揃い。その分性格難アリが多いがな」
「…なんか、ちょっと面白そうかも…?」
「……お前マジか…」
「え?僕なんか変な事言ったかな…」
「なんというか…凄え魔法少女に向いた性格だと思うぜ…」
そう言いかけたエマが周囲を見渡し警戒態勢に入る。
「…どうしたの?」
「……魔物の気配だ。身構えろ、霧月」
「り、了解…!」
まもなく魔物の咆哮が響く。重い足音が近づいてくる。しかし今度は、1体だけではなかった。
「なっ……2体…!?」
「っ、2人とも離れて!」
霧月の身体が光に覆われ、魔法少女の姿になる。ステッキを構えて魔物に相対する。
「ほっ!!」
ステッキから魔法の弾が放たれ魔物に命中する。しかし次の瞬間にはもう片方の魔物から攻撃が飛んでくる。両方に意識を集中させなければならない状況に、霧月は徐々に追い込まれていった。
「わわっ……くそ……」
「霧月が…た、助けなきゃ…でも…!」
「唯命ちゃん危ないよ…下がらないと!」
そうしている間に、2人の目の前で事態は悪い方へと動いていく。ガンッ、と硬い音が響いた。
「…い…っ…!」
「……ぁ…」
魔物の攻撃が霧月の頬の付近に直撃したのだ。ぐらり、と一瞬バランスを崩し霧月は尻もちをついてしまう。
「げほっ…あー……やべ…」
霧月の目の前に2体の魔物が迫ってくる。このままでは、同時に攻撃を受けて命すらも危ないだろう。しかし頭に強い衝撃が走った直後のため思うように身体が動かない。だが救いの手は思わぬ方向から伸びてきた。
「貴方の夢に橋をかけるよ!魔法少女唯命、参上です!」
「…え…!?」
霧月の前に、魔法少女になった唯命がふわりと着地する。彼女もまたステッキを取り出すと、霧月に翳して回復の魔法を使う。
「これって…」
「たった今、エマちゃんに頼んで魔法少女になったんだ。…私も、霧月の力になりたいから!」
「…唯命……。…わかった、一緒に戦おう!」
霧月も勢いよく立ち上がり、2人で背を合わせる。そこからはまさに見事なコンビネーションで敵を圧倒した。お互いの立ち回りの長所を活かし、短所を補い合う戦い方は、お互いを一番よく理解している2人ならではだった。消滅しかかっている魔物たちに向き直ると、同時に言い放つ。
『これで、トドメ!!』
ステッキの先から放たれたレーザーに焼かれ、魔物は塵となって消えた。
「……やった…!!2人で、倒したんだ…!」
「凄いよ唯命!変身していきなりここまで戦えるなんて…!さっきの回復魔法とか、後で僕にも教えて?」
2人で手を取って喜び合う唯命と霧月と、それを微笑ましく見守る陽葵とエマ。そんな一行を、ビルの上から見ている影があった。
「………」
右目に黒い眼帯をした、青い髪の少年。ビル風で髪と黒いローブ状の上着やループタイがはためく。彼は暫く霧月達を見た後、瞼を閉じて静かにその場を後にした。