「うあぁぁぁん!!」
穏やかな日の午後、とある貴族の屋敷から赤ん坊の泣き声が響いた。
「はっ!?」
隣室でうたた寝をしていた乳母がその泣き声で目を覚まし、慌てて子供部屋に駆け込んだ。
「クリック坊っちゃま!オルト坊っちゃん!」
泣き声の発生源であるベビーベッドに小走りで近寄ると、金髪の赤ん坊が隣で寝ている黒髪の赤ん坊の頬を、ぢゅっぢゅと吸いついていた。
「……もう、クリック坊っちゃま。オルト坊っちゃんはおしゃぶりじゃありませんよ?」
脱力した乳母は吸盤のようにくっついている金髪の赤ん坊を離し、涎でベトベトになった黒髪の赤ん坊の頬をハンカチで拭う。
それでもまだ満足していないのか、もう一度オルトに向かって口を開けるクリックに、「だからダメですってば」とクリックを抱き上げた。
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