【獄空】「待てもできないのか」お天道様が陽気に笑う昼下がり。
天国法律事務所の所長室では不穏な空気が流れていた。
「……」
「……」
机を挟んで睨みあう獄と空却。
ただしくは、身を乗り出して今にも襲いかかろうとしている空却を1歩半ほど身を引いて牽制している獄。である。
「あのな」
「言い訳は聞いてねぇな」
「そうじゃねぇ」
「ダメな理由をはっきり言やぁて!」
「……。何度も言っとるだろぉ。お前はまだ若いんだで、もっとよく考えろ。仏の道も半ばの今、わざわざ道を踏み外すようなことを」
「そうじゃねぇ!」
ドン!と勢いよく机に上がり獄を睨みつける。
「獄!そこにお前の本心が1つも入っとらんのは拙僧でもわかるわ!拙僧を納得させたいなら本心を言えって言っとるんだわ!」
「机から降りろ」
「獄!」
「……未成年に手はだせんだろ」
チッ。と舌打をして視線を逸らす獄の耳がほんのりと赤く染まる。そりに気がついた空却はにやりと口端をあげる。
「18から結婚はできるがぁ」
「はぁ?!結婚?!」
「なに驚いとるんだて。まさか、手、だすだけだして責任とらんつもりか?弁護士先生よぉ」
「そうじゃねぇ」
「なら問題ないな」
「はぁ?」
「拙僧の年齢が気がかりならあと一年待ったるわ。一年なんてあっという間だで」
「空却……」
愛を囁いてすぐにでも手に入れてしまいたいぐらい想っている。だが、それを人としての倫理観、弁護士という職業、年上のプライド、そんな諸々が踏みとどまらせる。それを言い訳だとわかっていてもできない自分の気持ちを汲み取ってくれた空却に待たせてしまう申し訳なさとさらいに愛しさが湧き上がる。
「あ、そうそう」
感動を噛み締めている獄の顔を掴むと唇を重ね合わせた。
「おまっ」
「プロポーズ楽しみにしとるで。高額納税者様♪」
悪戯が成功して喜ぶ子供のような笑顔で笑いかける空却に反して、椅子に体を預けて落胆する獄。
「大人しく待てもできんのか」
「ちょっかいかけんとは言っとらんだろ」
天国獄35歳。
年下の想い人に振り回される人生はすでに始まっていた。
終