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    ファンタズム春巻

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    POIPOI 26

    ナイト君のリテイナー初仕事

    初めての掘り出し物 冒険者ギルドで冒険者として登録はしたものの、すぐに出来る依頼は都市清掃や畑の害虫駆除みたいな誰でも出来る雑用ばかりだ。

     今日も今日とて不毛なウルダハの都市清掃の依頼を受けている。なんせ砂の都だ。掃けども掃けどもすぐに砂埃で薄汚れるのだ。
     これ、やる意味あんのか?と脳裏に浮かぶがこんなしょーもない仕事でもギルがそこそこ貰えるわけで。なんで今まで冒険者にならなかったんだろうなと過去の自分に文句をつけたくなってくる。
     そろそろもう少し格好のつく依頼を受けたいが、俺にはそんな伝手はねぇ。

     仕方ない。英雄サマのおこぼれにでも預かるかと、レドリアにもうちょっと冒険者らしい依頼を紹介してとらおうと奴に頼む文言を考える。
     なんせレドリアはクソ真面目を絵に描いたような奴だ。英雄だの解放者だの世間で持て囃されているし、実際の奴は絵に描いたような清廉潔白な英雄然とした奴だ。それは間違いない。
     そんな奴に「都市清掃よりもうちょっと格好のつく仕事を斡旋しろ」とマトモに頼んだ所で「下積みは大事だ。今出来る事を精一杯やるんだ」とかなんとか言われるに決まっている。

     何かこう、いい頼み方は無いだろうか。……そうか。思いついた。これならもう少し冒険者らしい仕事を回してもらえるかもしれない。
     俺は脳内でそんな事を考えながらひたすら箒を動かしていた。

    「おつかれさん!もう終わっていいよ!」
     日が傾き始めた頃、デューンフォーク族の中年男が仕事の終わりを伝えて来た。
    「依頼料はクイックサンドに預けてるからコレ渡せば貰えるからね。またよろしく!」
    「おう。ありがとよ」
     オッサンのくせになんとも可愛らしい仕草で依頼完了の札を渡してくるのを屈んで受け取り、その足でクイックサンドに向かった。

     夜のウルダハの顔を覗かせはじめる、夕暮れのエメラルドアベニューを歩く。
     皆、帰り支度を始め人気の減ったアルダネス聖櫃堂前を通り、不滅隊本部を横目で見る。不滅隊本部から見慣れた白いコートを着たゼーヴォルフ族の男が出てくる所で、こちらに気づき手を振って来たので手を振り返した。
    「レドリア。お前も今終わったのか」
    「ああ。ナイトフォールも今帰るところか?」
    「クイックサンド寄って帰るとこ。ここで会って丁度いいや。今日はクイックサンドで飯食ってこーぜ」
     ヒラヒラと依頼完了の札を振りながら夕飯の提案をする。レドリアは小さく頷くと俺と並んで歩き始めた。

     クイックサンドで依頼料を受け取り注文を済ませて一息つく。運ばれて来たエールを傾けながら俺はレドリアに話を切り出した。
    「なぁ。せっかく冒険者の登録もしたし、お前の手伝いをしたいんだけどよ。何かないか?」
     レモネードを飲んでいたレドリアがふむ。と一言こぼし何か思案するような仕草をする。この言い方ならレドリアももう少しマシな仕事を回してくれるだろう。という一日考えた末の提案だ。
    「なるほど。そういうことなら……そうだな。お前なら私の代理で用をこなして貰っても大丈夫そうだ」
    「なんかあんのか?」
     まずまずの感触だ。悪くない。
    「明日にでもリテイナーの登録窓口に行こうか。私のリテイナーとして動いてもらうのも冒険者としての訓練になると思う」
    「リテイナー?俺もミエラみたいなことすんのか?」
     ミエラはレドリアの専属リテイナーだ。年配のララフェル族の女でレドリアの荷物やら取ってきた素材類の販売品の管理をしているのを見たことがある。
    「彼女はベテランだからな。お前にはそこまでは求めない。私の代わりに素材を採取してきてくれると助かるんだ。そのぐらい出来るだろう?」
     俺を焚きつけるように笑うレドリアを見て内心ガッツポーズを取る。よしよし。掃除だの虫取りだのの地味な雑用じゃなさそうだ。
    「おう。バッチリ取ってきてやるから任せな!」
     俺はぐびりとエールを飲み、運ばれて来た大山羊のステーキにかぶりついた。

     ――次の日、いつもの通りに朝飯の支度を終わらせてレドリアを起こしにいく。昨日も夜更かしをしたせいか、なかなか起きてこない。まあ、夜更かしの原因を作ったのは俺なんだがその辺は置いておくとしよう。
    「おい。グロシー起きろ。飯が冷める」
    「う……おは、よう」
     眠たそうに起きてくるレドリアを起こし、リビングに連れていく。
     目の前にサンドイッチとピースープを置いてやると、半分寝かけたままもそもそと口に運ぶ。このレドリアの甘え切った姿を外の連中が見たらどう思うだろうなと軽く笑う。
     食べているうちに目が覚めてきたようで、彼が俺に声をかけてきた。
    「支度をしたらリテイナー雇用窓口に行こうか。簡単な手続きで出来るから、今日にでも軽く仕事を頼もうと思う」
    「おう!チャチャっと素材取ってきてやるぜ」
     俺はサンドイッチに手を伸ばし、齧り付きながら自信たっぷりに答えてやる。
    「頼もしいな」
     微笑むレドリアに笑い返し、ありきたりな雑談をしながら朝食を済ませると、身支度を済ませ2人でウルダハの街に繰り出した。

     サファイアアベニュー国際市場内にあるリテイナー雇用窓口で書類を渡され、名前を書けば登録が済むと言われたので名前を記入する。そのままレドリアとのリテイナー契約を済ませ、リテイナーの制服を渡された。
    「なあ、このリテイナーの制服色とかなんとかならねーのか?」
     ド派手な青いコーティに着替え、首に赤いリボンタイを付けた俺はレドリアに文句をつける。いくらなんでもダサくねェかこの制服。
    「すまないが見習いの間はそれを着ていてくれ。経験をもう少し積んだら他の装備を渡すから」
    「見習いリテイナーはコレしか着れない訳ってことか。で、今から何をすりゃいいんだ」
     レドリアはカバンの中から何やら紙の綴りを出し、サインした後千切って俺に渡してきた。
    「これがベンチャースクリップというもので、雇用者からリテイナーへ報酬として支払われるものなんだ。リテイナー窓口で換金してくれるだろう」
    「ふぅん。で?」
     渡されたベンチャースクリップを手元で見ながらレドリアの言葉を待つ。
    「原則依頼料はスクリップで先払いだ。お前には掘り出し物依頼を頼みたい」
    「掘り出し物依頼?」
    「簡単に言うと、私に何か物品を納品すればそれで依頼達成だ。納品する物はなんだっていい。決められた時間内に何か入手して持ってきてくれ」
     どうにもガキの使いの様な依頼だが、レドリアが言うには別に依頼を受けてついでに納品物を用意するようなやり方でもいいらしい。
     今日のところは夕方までに何か納品物を用意してこればいいと言われ、不滅隊本部前でレドリアの別れると俺は街中をぶらぶらと歩きながら考える。
     
     折角なら俺を舐め切っているレドリアの鼻を明かしてやりたい。しかし度肝を抜くような物は全く思いつかない。魔物でも倒して素材を持って行って驚かせてやりたいが、最後に釘を指すように「街の外には1人で出るな」と言われてしまった。
     あいつはどうも過保護過ぎる。俺は確かに戦闘経験もろくに無いし喧嘩もそんな強かねェが心配し過ぎじゃねぇのか。
     仕方なく古巣で何か貰ってくるかと風俗街に足を進めた。
     
     いつものハゲの店に行くと、俺の姿を見るなりあのハゲの野郎爆笑しやがった。クソが。
    「ナイトフォールなんだその格好!似合わねーぞ」
    「うっせーな。今日から英雄殿のリテイナー始めたんだよ」
     笑いすぎて引き笑いになるハゲと、その笑い声に釣られて出てきた他の従業員にも笑われなんとも言えない気分だ。
    「リテイナー始めたんならあれか?掘り出し物依頼頼まれたんだろ」
     さすがハゲ。こういう事には詳しいな。話が早いとばかりに何か無いかと聞いてみる事にする。
    「ああ、掘り出し物依頼受けてるとこだ。なんか店の不用品くれね?」
    「やだよ。英雄殿も中古のディルドとか持ってこられても困るだろ。ちょっと待ってろ。知り合いの店が今改装中でな。人手居るか聞いてみるわ。あいつの店でなんか貰ってこいよ。金持ちだからいいもんくれるぞ」
     さすが持つべきものは顔の広い知り合いだ。そのまま俺はハゲの紹介してくれた店の改装を手伝う事になり、風俗街を後にした。

     ハゲに教えられた料理店、いや。これはいわゆるキャバレーというべきか。雰囲気的に女と酒飲んだり踊りを見たりする店だな――に到着した俺は店主に手伝いに来たと伝えた。
     ハゲの店より随分と広く、羽振りが良さそうだ。
    「おお!あいつが言ってたのが君か!今日はよろしく頼むよ」
     ララフェル族の店主が手を差し出してきたので屈んで握手をしてやる。
    「それじゃあ、店の外壁塗装を頼みたいんだ。店をね、ラノシア風の白い外観にしたくてね。いいとおもわないかい?」
     俺にはよくわからん趣味だが、適当に頷く。
    「いいんじゃねーの?ここじゃ目立ちそうだ」
    「そうだろう?それじゃあ塗料を置いておくから頑張って塗ってくれ。いやあ、君が大柄なルガディン族で良かったよ。高いところもしっかり塗ってもらえそうだ。余った塗料は持って帰ってくれて構わないからね」
     塗り終わったら余った塗料をくれるらしい。そういやレドリアも塗料を集めていたなと思い出し、コレなら喜ぶだろうなと思った。
    「おう。このハケは使ってもいいのか?」
    「ああ。構わないよ。それじゃあ塗って行ってくれ」
     俺の膝ぐらいの高さしかない小さな店主がそう言うと、店の奥に引っ込んでいってしまった。
     店の外に出て塗料を塗り始めようと、頑丈な木箱に乗り屋根の近くからハケを滑らせる。
    「こりゃあ、丸一日掛かりそうだな。しかし結局地味な雑用しか任されねぇか」
     仕方ねぇやと諦め混じりに白い塗料を黙々と壁に塗る。ナルザル教団の司祭も小せえ事を積むのが黄金の宮殿への一歩だとかなんとか言ってたしなと目の前の事をこなしていく。
     ひたすら壁を白く塗り、青いコーティが白っぽくなってきた頃に大体見えるところは塗り終わったようだ。俺は街から出た事がないから分からないが、このやけに白い外観はラノシア風なんだなと一つ覚えた。

    「おい。終わったぞ」
     俺は店主を店の外から呼びつけ、確認を頼む事にした。小さい店主が店の奥から出てきて店の外観を確認する。
    「おー!いいねいいね!この白さ!まさにラノシアの風が吹いてるね!」
    「そうかい。そりゃ良かったな」
     店主のテンションに軽く呆れつつも言葉を返した。
    「余った塗料は持って帰っていいよ!それじゃありがとさん!」
     嬉しそうに手を振る店主に礼を言い、やけに白い塗料を貰って帰ることにした。
     しかしあの外観は周りから浮きまくってるがあれで良かったんだろうか。まあ、あの店主は喜んでたから別にいいかと家路へとついた。

     途中マーケットで夕飯に必要な物を買い、冒険者居住区にあるレドリアの家に帰ってきた。
     いつも通り何もない様に見える土地に入り、門をくぐると何も無かった場所に家が出現する。レドリア曰く「防犯のために家が無いように見せている」そうだが以前までは魔法を過信していて鍵が開けっぱなしという不用心っぷりだったのだ。無論、俺が説教して鍵を付けさせた。

     まだレドリアは帰宅していない様子だったので、簡単な夕飯でも作って待つかとエプロンを付ける。
     まだ家政夫としての給料を渡されているからな。多少何かやらねぇと俺が飼われてるみたいで少々腹が立つ。
     今日は魚でも焼くかとシャードで保冷されていた魚を取り出し、鱗を剥いでいると玄関の開く音がした。

    「帰っていたのか。どうだ?何か納品できそうか?」
     レドリアがコートをコートラックに掛けながら聞いてくる。
    「ああ。これオーブンに入れたら渡すからちょっと待ってろ」
     調味料を振りかけた魚を天板に乗せ、香草を掛けてオーブンに放り込む。オーブンの下段にファイアシャードも放り込んでエーテルを流してやればあとは勝手に夕飯が出来るってわけだ。
     玄関傍に置いていた塗料を持って、テーブルに着いてくつろぐレドリアの向かい側に座る。
     レドリアの目の前にどさりと塗料の缶を置き、俺はにんまりと笑った。
    「お前塗料集めてただろ。ハゲの知り合いに分けて貰ってきたからこれを納品してやる」
     塗料の缶のラベルを見たレドリアは驚いたように目を見開いている。お。なんだ?そんなに白い塗料が欲しかったのかこいつは。
    「これは……!すごいな。初めての掘り出し物がカララント:ピュアホワイトとは」
    「なんだ?ピュアホワイト?」
     どうやらあの店主に貰った塗料はレドリアも驚く物らしい。首を傾げる俺を見てレドリアはくすりと笑う。
    「この塗料はなかなか貴重なんだ。明日にでもマーケットボードで価格を見てみるといい。知らなかったとはいえ流石だな。ナイトフォール」
    「ほーん。そんな貴重なもんなのか。まあ俺は運がいいからな」
     レドリアに褒められて俺は気をよくする。
     オーブンから漂う芳しい匂いを楽しみながら、2人で今日あった事やたわいのない話を楽しんだ。
     その日の夕食はなんというか、褒められた満足感もあり特別美味かったような気がした。

     次の日、マーケットボードで塗料の値段を調べた俺は想像以上の価格にその場で素っ頓狂な声を上げた。
     そして、あのハゲの知り合いの店主は何を考えているんだと思ったという事は言うまでもない。
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