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    ユキモモ(未満)・体調不良・夜尿

    スカ要素がだんだん増えてきます。苦手な方は回れ右してくださいね(今回はまだマシ)
    でもやっぱり、詳しい描写がない上に性行為とはかけ離れたところにあるお漏らしはスカ定義したくない謎こだわりがあって…。
    あともう少しだけ続きます。次はもうちょいスカ要素が強めです。
    性癖合う方、着いてきてね…😢
    2025/05/16 加筆修正

    たいふ・やにょう2穏やかな時間が流れていた。
    モモの足もだいぶ良くなっていて、もう歩くのに松葉杖はいらなくなった。引きずりながらもちゃんと一人で歩けていて、思ったよりも早い治りに周りも医者も感心していたところだった。
    体を動かすのが好きな彼のことだから、本当はもっとアクティブに活動したくてたまらなかっただろうに、頑張って我慢した甲斐があったねと褒めれば嬉しそうにしていた。

    夜に一本、ラジオの生放送が入っているけれどそれまで時間があるし、一緒にお昼ご飯でも食べてゆっくりしようと提案した。
    ご飯のあと、ワイドショーをぼんやり見ながら、ソファの上でうつらうつらと船をこぎ始めたモモにブランケットを掛ける。
    食べたあとに寝ると豚になっちゃう、と日頃から嘆いているモモだけれど、豚になったって牛になったって、モモはモモなんだから僕は寂しくないよ、と起こさずにそのまま寝かせていることが多かった。
    それに、身体の一部に痛いところがあるのは想像以上に体力を使うらしい。片方の足を庇って歩くのだって全身運動だし、いろんな所の筋肉つかうから筋トレになるかも!なんて言っていたけれど。
    実のところ、こうやって時間があればどこでも眠ってしまうようになったモモを見ていると、だいぶ堪えているのが伺えて叩き起こすなんて可哀想なことはできなかった。
    少しのあいだくらいお寝坊キャラはモモに譲ってあげてもいいかな、なんて思いながら誰も見ていないのをいいことに、食後の睡魔に大きなあくびを垂れた。

    「っ、とと」
    さっきまで寝ていたモモが急に立ち上がり、そのせいでふらついてよろけるのが視界の端にうつって、慌てて駆け寄る。
    寝覚めはだいたい、いつもこうだった。
    悪い夢を見ている時もあるし、うたた寝のあいだに粗相をしてしまうのを恐れて、眠りが浅くなると慌てて飛び起きる。無意識のうちに急に立ち上がるものだから、頭がぐらぐらして貧血のようになるから僕としてはそっちの方が心配だった。
    「大丈夫だよ、モモ」
    ゆらゆらと揺れる身体をもう一度ソファに押し戻してやると、はふ、と息をついて全身から力を抜いた。

    夜尿とのたたかいは一進一退だった。
    自暴自棄になって全部捨ててしまったという寝具を新しく買うところから始まって、嫌な記憶が残る毛布も全部買い替えた。
    床なんかで寝なくてもいいように防水シーツも用意して、それでも不安ならとおむつやパッドも提案したけれどそれには少し抵抗感があるようすだった。
    ただ、一人で葛藤していたときはそこまで考えが回っていなかったのも事実、毎日汚したら洗濯をするしか方法がないと思っていたモモにとっては思ってもみなかったことのようで。幾分か肩の荷が降りたと、不安な表情をすることも減っていった。
    人肌が寂しくなった僕が家に呼ぶと、喜んで前みたいに泊まりに来てくれるようになった。別にベッドだってなんだって、モモが濡らして汚しても僕は全く構わない。
    気兼ねがなくなった理由を深く詮索をするようなことはしないけれど、ベッドに潜り込んだモモがいつもよりまるいお尻をしているのに気が付いたときには、愛おしさでどうにかなってしまいそうだった。

    ---

    「ごみ箱、使っていいからね」
    「…は、ぇ、」
    びく、と肩を大きく跳ねさせたモモがこちらを振り向いた。シャワーを浴びようとしていたらしい、パジャマから覗く白っぽいそれを、裾をぐいと引っ張りながら隠して目を白黒させている。
    タイミング悪かったな、と思いつつ、大事なことだし今言っておかないとと思ってそのまま続けた。蓋付きのごみ箱、洗面台の下にあるものを指差してやると、モモは顔を真っ赤にして歪な笑顔で「…あ、あり、ありがと」と強引に脱衣所の扉を閉めた。
    そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに、と思う反面、良くなってきたとはいえまだ調子の悪い日もあるんだなと心配になった。
    使用済みのものが僕の家のごみ箱に捨てられているのを見たことがなかったから、まさかとは思ったが毎回律儀に持ち帰っているらしく、思わずため息をついた。外で捨てているのかどう処理しているのかまではわからないけれど、そんなものを持ち歩いてまで僕の家に痕跡を残したくない徹底ぶりはモモらしいとはいえさすがに困惑してしまった。

    真っ赤な顔のまま、手ぶらで風呂から上がってきて、ぎこちない動作で手を合わせてトーストを齧っている様子が、なんだかいじらしかった。
    僕がもっと頼って欲しいと近づけば、モモは一歩引いて後ずさる感じがもどかしい。できる世話はやいてあげたいし、愛おしいモモのことは身体の隅々まで知りたいと思ってしまう僕はやっぱり変……だろうか。
    添い寝もしてくれるし、手も繋ぐ。間接キスは日常茶飯事だし、このあいだなんか酔っ払った勢いで、ふざけて唇を重ねてしまった。そんな距離感で付き合っていないことを知るとみんなには驚かれるし、僕もちょっとおかしな関係だとは思っているけれど、これが今の僕たちだった。
    付き合っていても、付き合っていなくても、この関係が心地よかった。
    ほっぺについたいちごジャムをすくって舐める。ぽぽ、とまた赤くなるモモのまるいほっぺをつんとつついて微笑むと「そんなのずるい……」と恨めしそうに睨んでから照れ隠しのようにむしゃむしゃとトーストを頬張っていた。

    ---
    あぁ、飲ませすぎた。
    翌日が2人揃ってオフだというのもあって、久しぶりの宅飲み。前日から仕込んでいた特製ディナーでモモをおもてなししたあと、お土産に持ってきてくれたボトルを開けて、美味しくて楽しくて話が弾んでしまって、グラスをぱかぱか空けてしまった。
    ビール、ワインにエトセトラ。気持ちよく酔っ払ってちまちまピーナッツを頬張っているモモが、リスみたいでかわいかった。
    僕も久しぶりにほどよくアルコールが入って気分がいい。トイレに立ったときにふらつく程度には酔っ払っていて、ちょっと飲みすぎたなんて思っているくらいなのに、それ以上飲んだモモはもっとぐでんぐでんになっていて。
    僕がお風呂から上がる頃には完全に仕上がって、ソファでくぅくぅと寝息を立ててしまっていた。
    「モモ、寝るならベッドだよ」
    「……んぇ、ぶ」
    ふぅ、とアルコールの匂いをさせて寝返りを打つモモを起こす。重い……。
    別にソファで寝ていても構わないんだけど、風邪をひかせても困るし、体が痛くなっても可哀想だからどうにかしてベッドで寝てもらいたいところだった。
    「起きて。ベッドいこ」
    「んん……」
    ほとんど意識のない人間を起こすのに僕では力不足で、ぐいぐい腕を引っ張ってなんとか立たせる。けれど、力の入りきらないモモの脚では体重に耐えきれずに、ものの数秒でぐったりと床に落ちてしまった。
    ごん、と鈍い音を立てて頭を打ったモモに「やば」と嫌な汗が流れる。
    「……い」
    「ごめんモモ、痛かったね」
    転がったモモは痛そうに頭をさすりながらも、衝撃で目が覚めたのか、ゆっくりと起き上がってのそのそと歩き始めた。
    肩を支えながら寝室に入り、キングサイズのベッドへ下ろしてやるとそのままぽふんと跳ねて、おおきく四肢を投げ出した。
    寝ぼけてむにゃむにゃと空気を食べながら、すぐに寝息を立て始めたモモに「怪獣みたいだな…」とくすくす笑ってその隣に腰を下ろした。
    大の字で幸せそうに寝転がっているモモを見てから、これ僕の寝るスペースある?と思案する。お世辞にもモモの寝相が良いとは言えないのは同棲時代から知っているし、モモの筋肉質で重くて可愛い脚が襲いかかってくる程度じゃ僕は起きないけれど。
    まぁ、気分良く寝ているからこのままにしておくか、と毛布をかけてやった。

    食器を片付けながら、そういえばモモの夜尿の用意を何もしてないことに気がついてはたと立ち止まる。僕の家に泊まりに来る時は、大っぴらにしてないけれど、たぶんおむつを着けている。
    いつもパジャマに着替えるタイミングでポーチのようなものを鞄から取り出していたから、てっきり化粧品類かと思っていたけれど、洗面所にある僕のを拝借すればいいだけだし実際そうしているのを見たことがあった。
    だとすれば、ポーチの正体は。
    パジャマに着替えるタイミングもなく、トイレにも行かずに眠ってしまったモモのことを考えると、可哀想だけれど今日はおむつを着けておいた方が彼の為だ。
    ソファに乱雑に置かれてる鞄からポーチを取り出して中身を見る。
    やっぱり。勘が冴えてるな。
    中からひとつ取り出して、モモの眠る寝室へと足速に向かった。

    赤ん坊のようにばんざいして気持ちよさそうに眠るモモが愛おしい。部屋着のスウェットがまだ乾いているのに安堵しつつ、今から寝てる人間を起こさないようにおむつを穿かせるという重大ミッションに緊張感が走っていた。
    まるでオペ前の医者の気持ちだ。
    まぁでもちまちまやっていたってしょうがないから、大胆にウエストに手をかけてずりずりと引っ張る。意識がないから、お尻を上げてくれるようなこともなくて、なかなか脱げない。足の方を引っ張ってようやくお尻の下を通過すると、派手な柄の下着が見えた。
    モモとは同性だから現場での着替えも一緒だし、そもそも同じ家に住んでたし、風呂にも一緒に入るから下着も裸も全部見たことあるんだけれど、一方的に脱がせるのは初めてのことだからなんだか申し訳ない気持ちになった。
    でも、翌朝ベッドを汚して落ち込むことになる方が可哀想だ。濡らしてもいいんだよと言ってはいるけど、悲惨な状況を見て悲しむようすを回避できるならここでなんとかしてやりたい気持ちが勝っていた。
    「んん、どっちが前だ…?」
    おむつ、初めて触る不思議な感触にどきどきする。白くてなんにも目印がないから、どっちが前なのか分からない。唯一、片側だけにくっ付いているテープに「うしろ」と印刷された文字を見つけて、なるほどとそれを裏返す。
    パンイチの下半身が寒かったのか、モモが寝返りを打つのが視界の端に見えて、慌てて身体を押さえて下着を脱がせた。
    足先からおむつを穿かせてから引き上げると、思ったより柔らかく広がったウエストがお尻の下でくしゃりとよれる。
    あんまり見てやっては可哀想だし、とぐいぐい引っ張ってようやく臀部が白いもので覆われると、ほっと安堵のため息をついてしまった。お尻の方も大丈夫か?と転がして、申し分なく覆われているのを確認してからスウェットを戻してやった。
    まるで父親の気分だ。こんなところで父性を感じることになるとは思わなかったけれど、こんなのを毎日やってる親は大変だなと思う反面、僕だってモモになら毎日だって毎秒だってしてやっても構わないなと謎の対抗心が芽生えた。
    重大なミッションを達成した僕は、ほどよい疲労感を抱えながらモモの隣に寝転がり、枕元の電気を消して眠りについた。

    ---
    ぐす、ぐす、と鼻を啜る音が聞こえて、はっと目が覚めた。
    些細な音では滅多に起きない僕だけれど、枕元で啜り泣く声には敏感で、いつも慌てて飛び起きるのが自分でも不思議なくらいだ。
    泣いてるのなんてここには僕以外に一人しかいないし、モモはこの間の怪我の一件から妙に不安定で、夜中に一人で抱え込むことがあったから、それが可哀想で寄り添ってやりたい気持ちがあったんだと思う。
    寝起きでぼやぼやする目を擦って、隣に手を伸ばす。指先が、丸まった硬い背骨にぶつかったからそのまま手を上に這わせて頭を撫でた。
    酔っ払って気持ちよさそうに寝ていたのが嘘のように、身体を丸めて背中を震わせているのが痛々しくて「どうしたの」と体重を移動させる。
    「…ぁ、だめ」
    近寄ろうとすると、ぐい、と身体を押し返して抵抗される。何が起こっているのか暗闇の中ではよく見えなくて、手探りで確かめようと辺りを触った。
    触って確かめていくうち、ちょうどモモのお尻まわりの布がほんのり温かく濡れていて、ああ、と合点がいった。
    寝る前におむつは着けたはずだけどな、と頭を傾げても事実、ベッドが濡れてしまっているから着替えさせないと風邪をひいてしまう。
    「モモ、大丈夫だよ」
    小さく丸まって、怯えるように泣いているモモの腕を解いてやる。
    「怖い夢見たね」
    ぐずぐずと泣いて、涙が止まらない様子を見ると胸が苦しくなった。さっきまであんなに楽しそうにしていたのに、ここまで泣いて怯える悪夢がどんなものなのか、代われるものなら代わってやりたい。それほどまでに壮絶な経験をしたモモの過去を思い、いたわるようにして脚を撫でた。

    しばらくして落ち着いたのか、正常な呼吸を始めたから頃合いだと思って枕元の電気を点けた。僕がモモのために用意した淡い色のスウェットは、ところどころ色を変えていて、おむつから漏れ出したものがベッドを濡らしたのだと納得した。
    「お風呂行く?それとも、ここで着替える?」
    後者に対してゆるく首を振ったから、冷たくなった手を引いて風呂場に向かった。

    「…あれ……」
    湯船を貯めて、風呂の準備をしている間、手持ち無沙汰そうに下半身を確かめていたモモが首を傾げてぽつりと呟いた。
    「ああ、ごめんね。勝手に鞄開けた」
    「……う、ううん、ぇと、」
    「冷えたでしょ、ゆっくりお風呂入っておいで」
    モモの方を振り返ると、ゆでだこのように耳まで真っ赤に染めて俯きながら下半身を隠していた。そんなに必死にならなくても…と思いつつ、まぁ恥ずかしいものは仕方ないよね、とあんまり見ないようにして脱衣所をあとにした。

    寝室に戻って、シーツを剥がす。そこまで濡れてないにしろ、おむつは完璧に夜尿を防いでくれるものじゃなくて、量が多ければ決壊するのを知っていたたまれない気持ちになった。寝る前にトイレに行かせるべきだった。可哀想なことをしたな。
    万が一のために防水シーツは前もって仕込んであった。マットレスまでは濡れてなくて優秀、とシーツ類をまとめて新しいものと交換した。

    「ゆ、ユキ、」
    片付けを終えてカーテン越しに明るくなってきた外をぼんやり見ていると、バスタオルを抱えてほかほかになったモモが戻ってきた。
    「…ベッド、汚してごめんなさい」
    あと、おむつも、片付けも、と息継ぎなしにあれもこれもと慌ててぺこぺこ頭を下げているのがなんだか可笑しくて、くすりと笑ってしまった。
    「あったまった?」
    「う、うん……」
    「それが聞けるだけで十分だよ」
    ぽんぽん、と癖っ毛のまるい頭を撫でてやると、目を泳がせて項垂れてしまった。
    はくはくと、他にもなにか言いたそうにするけれど、いつまで経っても声にならないから、言いにくいことは言わなくてもいいんだよと遮った。

    さらさらになったベッドにふたりで一緒に潜ると、毛布の中から小さく「ありがとう」と聞こえる。頷いて、緊張のあまりまた冷たくなってしまったモモの手をやんわり握って温めた。

    ---
    ユキの腕の中、心地いい温もりを感じながらぼんやりと天井を見つめていた。眠りから覚めると下半身を触って、濡れてないかを確認する癖がついてしまった。
    お尻も冷たくなくて、あたりも乾いている。さすがに二度寝でやらかすのは勘弁してほしかったから、ほっと胸を撫で下ろした。
    昨日は思ったよりも酔っ払っていたせいで、何の準備もなく眠ってしまったというのに、夜中に起きたらおむつだった。
    自分で穿いた記憶がないということは、ユキが。
    そう思うだけでぶわ、とほっぺたが熱くなった。なんてことをさせちゃったんだろう。
    親でも兄弟でもない、大切な、ひとに。
    いますぐにでも顔を覆って転げ回って、できることなら腹をかっ切ってしまいたいくらいの気持ちだった。いや、本気で死ぬつもりは毛頭ないけど…それくらいに、恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいで、夜中のことを思い出すと胃の辺りがぐるぐるした。
    実際、おむつは必要だったし、着けてもらっていたおかげで大惨事にならずに済んだんだけれど、お酒が入っていたせいか量が多くて溢れてしまって、結局また手を煩わせた。
    自分の身体が自分でコントロールできる範疇を超えていて、振り回されている感じがする。
    それに、今までおむつをして溢れたことなんてなかったから、びっくりした。そりゃ、そうだよね。トイレじゃないんだから、気にせずじゃあじゃあやったら溢れちゃうって…。
    意識の外だから気にするも何も、知らないうちに出ちゃってるんだからどうしようもないんだけど。
    今までどれだけ飲んでも、夜中に催したら起きれたし、そもそも朝まで我慢ができていたのがほとんどだったのに。前までできていた些細なことができなくなってしまうのは、悔しいことだった。

    寝室に掛かる高級そうな遮光カーテンの僅かに閉じきれていない部分から、白い光が漏れて向こう側がすっかり明るいのがわかる。
    久しぶりのなんにも予定がないオフ。ユキんちでだらだらしてお昼頃にはお出かけをして、夜はディナーと映画鑑賞……などと思っていたのに日頃の疲労が溜まっていたのか、どんよりと重たい身体をベッドに沈めたまましばらく動けなかった。
    それでも、寝転がったままではさすがにせっかくの休日が勿体ないから起きあがろうとすると、ユキの細くて長い腕が身体に巻き付いていて、身動きがとれなかった。オレが身じろぐたびに隙間をなくすように密着して、ついには身体と身体がべったりとくっつくほど抱きしめられてしまうとどうしようもなかった。
    流石にユキよりは腕力も体力も自信があるから暴れてもがけば腕を離してくれるんだろうけど、そのせいでユキの皮膚に跡が付いたり、動かした手が顔にでもぶつかったらそっちのほうが一大事だった。
    諦めてしばらく抱きしめられたままでいたけれど、なんだかお腹の奥にいやな感じがして、まさかと思って慌てて声を出した。
    「ユキ、」
    「ユキ、ユキさんや!朝ですよぉ、ほら!もうお外明るいよっ」
    んん、起きない、どうしよう。
    とんとんと腕を叩いてその手を解いてもらおうとするけど、眠っているのに意外と力が強くて動けない。ぱたぱたと脚を動かしてみてもだめ、無理やり身体を引き剥がそうとすると、下腹部に指が食い込んで、ずんとお腹の奥の嫌な感じが増してしまった。
    「ユキぃ……」
    むずむずと居心地が悪い。寝起きだし、張った下腹部は紛れもない生理現象を主張していて、ユキの腕に捕らえられたまましゅんと項垂れてしまった。

    寝起きでぼんやりしていた尿意が、だんだん強くなってきていることに焦りを感じる。念のため、と夜尿に備えておむつは穿いているけれど、これを意識のあるうちに使うなんてそんな屈辱はぜったいに嫌だった。
    「……ユキ、離してってばぁ、トイレいきたいからぁ」
    「ん、んん……」
    ぐい、と強めに身体を押して離れようとすると、一緒にお腹にも力が入って、冷や汗がたらたらと流れた。このまま時間をかけていると、なんだか本当にまずい気がして、必死に身体を動かした。
    「といれ、トイレ行きたいの、ユキは寝ててもいいからさぁ……」
    「…もう、ちょっと……」
    「ぅん、寝てていいから、オレ、もう漏れちゃう!」
    トイレ済ませたら戻ってくるから、ね。と優しく呼びかけると、少しだけ腕が緩む。
    あんまりぎゅっと強く押すと、ユキの身体を傷つけてしまいそうでひやひやした。でも、そろそろオレもあんまり多くを考えられなくなってきている。
    寝ている間に出ていないってことは、その間に溜まったものがお腹の中にあるということ。それに、昨晩お酒を飲んだせいか、いつもより頻尿になっていてじんわりと痛みを伴ったものが膀胱を刺激していた。
    可哀想だけれど、蹴ってでもベッドから抜け出さないと、と思うくらいには切羽詰まっていて、だんだん息が荒くなってきた。
    おなか、痛いよぉ。
    ぐい、とひときわ強くユキの身体を押し退けると、眉に皺を寄せて痛そうな顔をする。
    うう、離してくれないユキが悪いんだよ。
    じゃないと、ほんとに。
    叩いたり、髪の毛をちょっと引っ張ったり、鼻をつまんでみてもだめ。ユキのお寝坊さんに毎日手を焼いているオレでも、身体が密着して固定されている上に、今にも漏れ出しそうな尿意を抱えているこの状況ではとことんだめだった。
    最悪な状況が脳裏をよぎって、ひく、と横隔膜が震える。いや、なんでこんなことで泣きそうにならなきゃいけないんだよ〜!と思いながらユキの胸元に顔をうずめた。

    じわ、とおむつの中が温かくなったような気がして、慌てて身体を起こす。
    いきなり動いたオレにびっくりしたのか、ユキの腕がすこし緩む。
    「ユキ!あ、離して!おしっこっ、おしっこ漏れちゃうからあ」
    叫んだのと同時にぽろ、と涙も出てきてしまった。こんな歳にもなって、おしっこが我慢できなくて泣いているのがみっともないけれど、今はそれどころじゃなくて、恥も外聞も捨てて訴えた。
    おしっこ、と直接的な言葉を聞いたからか、ふ、とユキの瞼が動いて束縛が緩んだ。
    その隙にマットを蹴って、這い出して急いで寝室から出ようとしたのに、汗で湿った脚にふわふわの毛布が絡まって勢いよく上半身からベッドの下に落ちてしまった。
    このあいだ、怪我をした時に似た衝撃を感じて、思わず息が止まる。鈍い音がして、床に接触した部分からじんわりとした痛みが広がって。

    それと一緒に ぁ、と間抜けな声が漏れた。

    「……モモ?」
    背後から心配したような声がしたけれど、それもだんだんと遠ざかっていくように聞こえなくなって、腰が落ちて寝室の床に座り込んだまま動けなかった。
    ぁ、ぁ、とうわずったような声が止められない。短く吐き出される息が開いた口から漏れる。
    派手に転んだあと、ぺったりと座り込んで茫然と動けないままでいるオレを心配したのか、ようやく目を覚ましたユキに肩を叩かれる。
    「…っ、………ぅ、ぁ」
    その衝撃だけで、敏感になった身体は大きく跳ねてみっともない声が出してしまった。
    「えと、モモ……?」
    視界がぼやけて、怪訝そうに覗き込まれたユキの顔も滲んでいく。はーっ、はーっと大きく吐き出される自分の息がうるさいのに、やめられない。
    心臓が嘘みたいにばくばく跳ねる。頭が真っ白に塗りつぶされて、ふわふわ浮いているような感覚がした。

    お腹の中がだんだん軽くなっていくのに比例して、お尻の下にひたひたと熱いものが広がって溜まっていく。

    でて、る…

    疲れたお腹ではもう1ミリだって我慢することができなくて、膨らんだ膀胱がちりちりと痛みを伴いながら元の形に戻ろうと萎んでいく。
    同時に、壊れた蛇口みたいに開いた尿道口からは熱い液体が流れて出ていて、まるで言うことを聞いてくれなかった。
    内腿がばかになったように痙攣していて、下半身の感覚があやふやになる。

    ちから、入んない。

    止めなきゃ、立ち上がってトイレに行かなきゃ。
    そう思うのに、身体は排泄による生理的な快感を素直に拾っているし、出したもののせいでおむつはほかほかとあったかいしで、何も考えられないまま、きゅっとパジャマの裾を握りしめてお腹の中が空っぽになるまでそこから動けなかった。

    ---

    「本当、ごめん。モモ、僕のせいだ」
    茫然と涙を流すモモの、頬に流れる雫をひとつひとつ拭って、落ち着かせる。ひくひくとしゃくり上げて未だに座ったままでいるモモの丸まった肩をゆっくり撫でた。
    僕が寝ぼけてモモを抱き枕にしていたせいで、小一時間ほど動けなかったらしい。
    その間に催して、ようやく僕の腕が解かれたと思ったら脚が絡まって転んだと。
    痛くてびっくりして、我慢できなくて諦めてここでしてしまったと言うけれど。
    いや、ぜんぶ僕のせいだ、僕が寝ぼけてさえいなければ、モモはトイレに間に合っていた。
    夜尿だけでない、さらなる屈辱を僕の手で与えてしまったことに後悔した。

    出てしまったといっても、夜尿の為に穿いていたおむつがその全てを受け止めてくれたようだったから辺りも濡れていないし、寝る前の姿との違いは僕の目には分からない。
    ただ、派手に転んで漏らしてしまったことにひどく動揺しているようすが痛々しい。
    「びっくりしたね」
    震える脚をさすって、呼吸が落ち着くまでしばらくこのままでいることにした。
    幸い、今日は重要な予定もないし、時間もたっぷりある。貴重な休日ではあるけれど、目の前の愛おしい子を甘やかすのに費やしたって構いはしなかった。

    深夜のものと合わせて二度目の着替えと風呂から戻ってくる頃には、お昼前になってしまっていた。
    風呂上がりですっきりした顔はしているけれど、どことなく元気のないモモを食卓に座らせる。泣き腫らした目をぐしぐしと拭いながら、大きなあくびをする仕草がなんだか幼い。
    「モモ、あんまり擦ったら赤くなるよ」
    「ん……なんか作ってくれたの?」
    「お昼前だけど、お腹すいたでしょ。食べれそう?」
    泣いて目の周りを赤くしているのに、食卓に並んだお皿を見つけるとすぐにきらりと目を輝かせた。言い方は悪いけれど、モモのご機嫌取りメニューなんて、長年連れ添ってきた僕の頭の中にはレパートリーが山のように存在する。
    その中でも特に喜びそうなものを作れる材料があったから、シャワーを浴びている間に朝食を準備してモモを待っていたのは正解だった。

    ---

    そこそこ広いソファなのに、真ん中で互いの体重を寄り添わせながら、ふたりでひとつのブランケットを取り合った。
    窓から差し込む陽気が眩しくて痛いくらいだ。モモは気持ちよさそうに目を細めてぼんやりとスマホをいじっていたけれど、じきに興味がなくなったのかソファに放り投げてしまった。珍しい。

    「はぁ……ユキ。恥ずかしいから、忘れてね。はやく」
    俯いたモモが触り心地のいいブランケットの毛を容赦なく引っ張って遊びながら、いじけたように口を尖らせた。
    朝のことを指しているのか、そのひとつ前の夜尿を指しているのかわからなかったけれど、頷きながら「大丈夫だよ」と返事した。
    「……幻滅、しちゃうよね。やっぱ……」
    毛足の長いブランケットのふさふさが、モモの手によって少しづつ引き抜かれていく。
    減るんだけど、と思いながらも今はこういうモードなんだろうなと、あえて指摘しなかった。ブランケットの毛数本でモモの逆立った心が収まるなら、どうぞ犠牲になってくれ。
    「はぁ……ここ数日で恥ずかしいところ見られすぎだよ……」
    オレどうにかなっちゃいそう、と態と言葉にしてブランケットのふわふわに顔面を突っ伏した。
    「僕はなんともないよ。何年お前とやってきたと思ってるの」
    「……ふふ、熟年夫婦みたい。もっと言って」
    ようやく笑ったかと思ったのに、目線だけこちらに遣っていかにも不機嫌ですといった顔のまま、いじわるく口角だけ吊り上げていた。
    「やさぐれてる。やさぐれモモだ」
    「……そんなんじゃないけど」
    「朝のは僕が悪かったよ。あんなの、モモも忘れていい」
    どこも汚さなかったんだし、ノーカンノーカン、と言うとはぁぁとまた大きなため息をついて身体を折り曲げてしまった。
    「どうしよう、ずっと、このままだったら」
    不安そうに瞳を揺らすモモに、迂闊に「大丈夫」なんて言葉は掛けられなかった。どの状態をもってして大丈夫と言えるのか、この先良くなる見込みなんて、病院の先生ですら首を振ったほどなのに。
    この生活を続ける限り、根本の解決には至らないのだから。

    変なところ頑固で、繊細で、思った以上に傷つきやすいモモの心は、度重なる屈辱でささくれだっているのだろう。今朝のは流石に僕のせいだけれど、もしかしたら普段のモモなら間に合っていたのかもしれないし、本調子でないモモの身体に無理をさせたのは可哀想なことだった。
    未だに自分の膝に顔を擦り付けているモモを、ぐいと抱き寄せる。上半身がこちらに倒れた拍子に、捲れた背中側のウエストからちらりと白いものが見えたから、ああ、と思ってそれとなく隠してやった。
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