悪夢を見る八色さんの話ここは、どこや。
ぱちりと目を開け、辺りを見回す。
不気味なほど暗く、何もない空間だ。
まるで、この空間だけ世界に置き去りにされてしまったかのような。
その中で、自分の体だけが取り残されている。
手足を動かすも、問題はない。こつりといやに自分の革靴の音が響いた気がした。
こつ、こつ。何もない空間を歩く。そんな中。
ぬぼ、と、真っ暗闇の空間なのにも関わらず、人の形をとった黒い靄が、揺らめきながらその場に現れた。
「…!?物の怪か…!!!」
腰に手をやる。かちゃりと自分の刀が重なる音に安堵しながら、暗闇の中佇む靄をにらみつける。
靄の中にぼんやりと浮かぶふたつの空洞。あれが目なのだろう。それがこちらに気が付いたように、のっそりと向けられた。
1952