さくらんぼの柄を結ぶのが上手い白島溺「溺って不器用そうだよね」
親戚から送られてきた大量のさくらんぼを消費しようと思い、おやつに食べている中、何気なく口から出た言葉。とくに深い意味はなく、ふと思ったことを言っただけだった。しかし、その言葉が気に入らなかったのだろう。溺の眉間に皺が寄ったところを見ると、どうやら不機嫌になったらしい。
よく考えたら、突拍子もなく「不器用」だと言われたら誰しも良い気分にはならないだろう。
「急に何」
「あ、ごめんね。溺を悪く言った訳ではなくて」
「いや、悪口でしょ」
「ごめんってば…」
不快な気持ちにさせてしまったことは間違いないので、素直に溺に謝る。それでも溺はいまだ不機嫌そうにしている。
「…例えば、」
小声で呟いた溺は、私が食べ終わり皿の端に避けていたさくらんぼの柄を1つ手にした。何をするのか不思議に思っていたが、その柄を口の中へ入れたのだ。それから口をモゴモゴと動かしているのだが、その姿が可愛いと思ったことは秘密にしよう。
「ん」
しばらくして、先程のさくらんぼの柄は溺の舌の上に乗せられ、綺麗に結ばれた状態で私の前に姿を現した。
「凄い!!」
自分にはできない技を見せられ、私は小さく拍手をする。
「…不器用ではないと思う」
私の言葉、結構気にしているんだなと思うと反省し、改めて溺に謝罪をすると何かを考えるような素振りをしてから私と視線を合わせてから呟いた。
「不器用って思われたくないし、実際にそうじゃないって試してみる、とか…」
最後の方はだんだんと小声になっていったけど、私の耳にはしっかり届いていた。
「えっと、つまり…?」
だけど、言葉の意味が理解できなくて聞き返すと、顔だけでなく耳まで赤くなっている溺が視界に入る。
「溺…?」
「……」
「あの、試すってことは…」
「何も言わないで」
一瞬のことだった。私の視界が溺だけになったのは。何をされているのか頭では理解していたけれど、実際の行動と脳の処理は追い付くことができなくて、気が付けば溺は私から距離を取っていた。
「不器用、じゃない」
私は身をもって白島溺が不器用ではないことを学んだ。と、いうかもう溺に不器用なんて言わないことにする。私の身がもたない。
「よく考えたらいきなりこんなことするなんて気持ち悪いよな。俺は何しているんだ」
その後はいつもの溺だったから少しだけ安心してしまった。