ルチェの羽根 琴葉がルーチェモンにより部屋に監禁されてどのくらい経ったか。時間の感覚が分からないため、体内時計も狂ってしまった。腹が空く様子がない。眠気も起きない。
ふと、傍らで本を読むルーチェモンの後ろ姿を見る。背中にはモノクロな羽根が生えていて、珍しいと思った。普段は邪魔だとしまっているのに、今日はひらひら羽根を揺らしていた。
白い、天使の羽根。鳥のように羽ばたけるそれに手を伸ばす。そっと、触れるだけ。
「(…ふわふわで、きもちいい…)」
手入れしているのだろうか、指先に触れただけで、毛並みならぬ羽根並みが良い。この羽根に包まれたら、眠れそうなほどに。
「興味があるのか?」
触り心地が良く、つい撫でてしまったものだから、ルーチェモンが振り返った。
「美しいだろう。これでも手入れは欠かさずしていてな」
やっぱり、してるんだ。
どこか上機嫌なルーチェモンは私を膝の上へ座るよう指示すると、おずおずと座った私の体を包むように両翼が閉じられる。
私と、ルーチェモンのみの空間が出来た。まるで秘密基地の中にいるような、ちょっと特別な感覚がする。
「思う存分味わうがいい。お前に触れられるのは、心地よい」
私の手よりも何倍も大きなルーチェモンの手が、腕を掴む。そして白い羽根の付け根から先へと撫でる。羽根の一つが、まるで生物のように感じた。
「(あった、かい)」
ふわふわしてて、あったかくて、手が気持ちいい。なんだか、少し安心してきて…。
「…琴葉?」
ルーチェモンの胸元に倒れ込み、すやすやと小さな寝息を立てた琴葉は久しぶりにまともな睡眠を得ることが出来た。
ルーチェモンはそんな琴葉の頬を撫で、暫く羽根の中に隠し続けた。