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    パスレヴ 風邪ネタ

    発熱レヴナントが明確に不調を感じ始めたのは、ドロップシップ内のカウンターに腰掛け、降下開始の合図を待っている時だった。

    排気を繰り返しても機体の温度が下がらず、熱を持っている。
    それは人間の感覚をベースに構築されたレヴナントにとって、どうにも熱っぽくて怠い、という体調不良に他ならなかった。

    正確には昨晩から、排気システムの不具合を感じていた。しかし、レヴナント自身は自己維持システムによって、中枢のプログラムにはアクセスできない。わざわざメンテナンスをする程のものでは無かったし、軽度のバグであればシステムが自動で解消する。そのため体内に籠る熱を無視していたのだが、それは時間が経つにつれて、不快感を伴うほど強くなっていた。

    「レヴナント、大丈夫?何だか調子が悪そうだ」

    原因不明の不具合にイライラと足を揺するレヴナントに、デュオマッチの相方ーーそして、所謂”恋人”ーーであるパスファインダーが声を掛ける。

    「貴様には関係ない」
    「関係あるよ!これから僕達は一緒に戦うんだから、準備は万全でなきゃ。それに何より、君のことが心配なんだ」

    そう言ってレヴナントの手をぎゅっと握ると、異変に気が付いたのか、胸元のモニターにエクスクラメーションマークが点灯した。

    「わっ、表面温度がいつもより12℃も高い。もしかして、これが君の不具合なのかな?」
    「……ハァ…そうだ、機体の温度が下がらん」

    気が付かれてしまっては取り繕う必要も無いと、溜息混じりに答える。不調を認めたせいか、より倦怠感が増した気がして、レヴナントは不機嫌に唸った。

    「後で部屋に来い…技術者共に体を弄られるのは御免だからな」
    「うん、分かった。すぐに行くね。試合は大丈夫?もし不具合が酷いなら、棄権してもーー」
    「その必要は無い」

    そう言い捨ててカウンターから飛び降りたと同時、船内に降下開始のアナウンスが響く。開放された船床のハッチに向かう彼の名前を呼びながら、パスファインダーは急いで後を追った。


    …戦績は惜しくも2位、しかし十分に健闘したといえる結果にパスファインダーは満足していた。APEXゲーム、特にレヴナントと組む試合はいつも彼を”ワクワク”させた。
    何より、レヴナントは不調の兆しを全く見せなかった。彼の強さは多少の不具合で揺るがされるものでは無いし、何よりそのプライドが、アウトランズ中に中継されている試合で弱さを見せることを許さなかった。パスファインダーが彼を「お兄ちゃん」と慕うのは、その姿に憧れを抱いているからでもあった。
    試合を終えたレジェンド達が互いを労っている中、彼は隅の壁を背にもたれかかっている。その様子は、普段通りの不機嫌な彼のままだ。

    「お疲れ様、レヴナント。さぁ、君の部屋に行って、メンテナンスをしよう……レヴナント?」

    返事のない肩を軽く叩くと、その背が不意にぐらりと揺れ、慌てて機体を抱きとめる…ハンドパーツに伝わる温度は異常に上がっており、パスファインダーはぎょっとする。肩装甲を開いて何とか熱を逃そうとしているが、排気すら上手くいっていない。オーバーヒートを起こしかけているようだった。パスファインダーの機体にぐったりともたれかかったレヴナントは、熱にうかされるように唸る。

    「……あつい、」
    「レヴィ!しっかりして…、君は嫌がるかもしれないけど、ごめんね!!」

    パスファインダーはレヴナントの背と膝下に腕を差し入れ、そのまま持ち上げるーーいわゆるお姫様抱っこで、キングスキャニオンの地下室へと駆け出した。


    レヴナントの自室、として扱っている廃工場の地下室に着くと、備え付けのベッドにそっと機体を降ろした。普段の彼なら、レジェンド達の目の前で横抱きにされた時点で1発や2発殴られていてもおかしくない。しかしパスファインダーにされるがまま、大人しく機体を横たえている。彼らしくない、その様子に益々焦りが募る。

    「レヴィ、君の内部にアクセスする。ちょっと我慢して…」

    スリングベルトを外して胸部装甲を開き、コネクタに端子を差し込む。重要な内部機構への刺激に、レヴナントの指先がぴくりと震える。パスファインダーは震える指先をそっと握り、急いで中枢の制御システムへとアクセスするとコードを追った。

    「…これだ!」

    エラーの発生源を辿ると、どうやら外部から侵入したウイルスが原因らしい。自己増幅してメモリを圧迫し、CPUに過剰な負荷を与えているせいで、制御機能の不具合と異常な発熱を引き起こしている。そして、パスファインダーはそのウイルスに心当たりがあった。

    「レヴナント、君は”風邪ウイルス”に感染してるみたいだ!」
    「…何…?」

    “風邪”ウイルス?押し黙っていたレヴナントは、聞き慣れないその言葉に瞼を上げる(客観的には、彼のアイライトが点灯する)。
    人間の記憶と感覚をベースに作られたシミュラクラムであるとはいえ、その体は鋼鉄でできたロボットだ。幻肢痛に苛まれることはあっても、感染症に罹ることはない。
    思考がまとまらないのか、視線を迷わせる彼にパスファインダーは続ける。

    「cold bot…最近流行りのウイルスらしくて、発熱と不具合が風邪の症状に似てるからそう呼ばれてるんだって」
    「…馬鹿げた名前だ…」

    レヴナントは頭が痛む気がして額を抑えた。実際、発熱のせいか頭痛も感じ始めている。馬鹿げた、と揶揄したが、彼の意識のベースとなった男も元々は人間で、風邪の一つや二つ引いたことがある。その記憶と照らし合わせてみると、確かにそう形容してもおかしくない感覚ではあったーーまさか機械の体になってまで、悪寒を感じることになるとは思ってもみなかったが。

    「君、配布されたセキュリティパッチをあててなかったでしょ?」
    「…」
    「もう!感染後になると、ウイルスの駆除に時間が掛かるから、早めにダウンロードしてねって言ったのに。…でも、君が起動しなくなるとか、機体が動かなくなるとか、もっと重大な不具合じゃなくて良かった」

    パスファインダーはほっと胸をなでおろすような素振りをする。そして、繋いだままだった手のひらをぎゅっと握った。そのせいで、喉まで出かかった”起動しなくなるなど願ってもない”という台詞はそのまま霧散してしまった。

    「アンチウイルスパッチをダウンロードしたから、このまま君にも適用するね。完全な駆除は明日になると思う…それまで、ここにいるから安心して」

    レヴナントの視界に、外部パッチのインストール開始を告げる通知が映る。
    まるで薬を処方される患者のようではないかと自嘲して、ベッドの隅に腰掛けるパスファインダーに背を向けた。
    自立して技術者達を支えるために生まれたパスファインダーと違って、レヴナントは短期間で運用することを前提に設計されている。それに、彼の中枢CPUは定期的にハモンド・ロボティクスのメンテナンスを受けているとはいえ、300年以上前に作られたものだ。どうしても単純な強度は劣るし、脆弱性もある。レヴナントは不服そうに足元に丸まっていたキルトを被り、「暑くない?」と掛けられた問いを無視した。

    “風邪”なら、薬を飲んで眠ってしまえばいい。

    レヴナントはアイライトを切り、そのままスリープモードへと移行した。

    ……

    あまりの息苦しさに、レヴナントは目を覚ます。
    蓄熱された機体に緊急冷却システムが作動し、スリープモードが中断されたらしい。

    冷却水が全身を巡る感覚をつぶさに感じながら、レヴナントは身震いする。
    頭はぐらぐらと茹るように熱いのに、身体の芯から冷えるような悪寒が止まらない。酷い冷熱の差が気持ち悪い。自己認識システムが誤動作を起こしているのか、胃液がせりあがる感覚を感じて、低く呻いた。いっそ吐くことができれば楽になっただろうが、レヴナントはわだかまる悪心を抱えるしかない。
    人間の身体であれば、42度を超えた時点で蛋白質が破壊され始めていずれ死に至る。レヴナントの機体はとっくに人の致死領域に至っていたが、彼を形作るのは細胞ではなく鋼鉄だ。ただ、彼の人間としての意識だけが、焼かれるように熱い。

    眩暈を起こしたように揺れる視界の中、青色の機体を探して視線を彷徨わせる。

    ここにいる、と言ったではないか。

    じわじわと景色が滲む気がして、急いでアイライトを切る。寂しがるなんて情けないーーいや、彼奴が自分で言ったことすら守れないポンコツだから、腹が立っているだけだ。レヴナントは、くそ、と悪態をつく。温くまとわりつくキルトをくしゃりと握りしめた時、カシャカシャと独特の駆動音が響いた。

    「レヴィ!」

    パスファインダーはその重量に似合わない軽い音を立てて傍に駆け寄る。頬のあたりに当てられた冷たい手のひらに、熱を逃せる気がしてーーそして、確かに彼の存在を感じてーー無意識に擦り寄った。
    どうやら部屋の反対側、デスクを置いているあたりに居たらしい。普段のレヴナントであれば、暗闇でも十分に”見る”ことができる。しかし朦朧とした意識の中では、視覚システムがほとんど機能していなかった。

    「目が覚めたんだね…すごい発熱だ。処理が集中するのは、パッチが正常に動作してる証拠だけど…君がすごく苦しそうだったから、何かできないかって調べてたんだ。でも、シミュラクラムを看病したって記録はほとんど無くて…」

    心配しているのだ、と伝えるように、パスファインダーの青年を模した合成音声が弱くなる。
    彼は小脇に抱えていた洗い桶から濡れたタオルを取り出すと、レヴナントのバンダナをずらして額の上に置く。冷水に浸されたそれは冷たすぎるくらいだったが、抱えていた熱が少しマシになった気がして、レヴナントは漸く息をついた。

    「一時的にでも温度が下がれば、少しは楽になるかも、と思って。嫌じゃない?」

    布地に熱が移るのを感じながら、レヴナントは素直に頷いた。温くなった水滴が落ちてフェイスマスクの窪みに溜まる度、滑り止めの付いた指にそっと拭われる。静寂の中で、小さな駆動音と浅い呼吸音だけが響く。

    「パス…」

    彼は呼吸を必要としていないはずだが、喉が酷く乾いた気がして、ごほごほと激しく噎せた。

    「…君が辛そうだと、僕も凄く…苦しい。早く良くなって、レヴィ…」

    胸部モニターを水色に染めて、苦しげに上下する機体を摩る。

    「何か、僕にできることはある?」
    「ここに居ろ」

    レヴナントはパスファインダーの声を遮るように答える。それは、パスファインダーにしかできないことーーそして、彼にしか望まないことだ。彼の胸元の水色は緑色に変わり、そして、強く頷いた。

    「うん、ずっと、君の隣にいるよ」

    パスファインダーは、覆いかぶさるように半身をベッドに乗り上げると、熱い機体をキルト越しにギュッと抱きしめた。地下室の冷気で冷えた機体が心地良く、レヴナントは縋るように腕を伸ばす。
    彼の熱を、苦しみをーー分かち合おうとしている。それだけで、彼を形作る苦痛が少しだけ救われた気がした。

    くらくらと明滅する意識のまま、レヴナントはパスファインダーの側頭部に指を添える。そして、丸いアイレンズにゆっくりとくちづけた。

    驚いたようにちかちかと瞬く明かりがフェイスマスクとぶつかって、今度はパスファインダーの方から深く押し付けられる。コツン、と音を立て、何度も角度を変えて。レンズを覆うフレームに上唇を模したパーツがなぞられる度、粘膜が熱く触れ合うような錯覚を起こした。

    「…、んっ、ぅ、」
    「レヴィ……」

    レヴナントがパスファインダーの背中を引っ掻くと、つられるように彼も背部装甲から排気する。過熱した機体に火照るような熱さが加わって、レヴナントはほとんど意識を失いそうだったが、胸につかえた息苦しさは無くなっていた。パスファインダーは深く口づけたまま、温くなった手のひらで2度、3度輪郭をなぞると、そのままそっと機体を離した。

    「…パス…?」

    痛む頭を抑えながらそろそろと瞼を上げると、彼の特徴的なアイレンズの中心、瞳孔を思わせる光源とまっすぐに目が合った。眩しいオレンジ色は赤み掛かり、レンズ自体の熱も相まってーー情欲の色を孕んでいるようだった。

    「…本当は、もっとたくさん繋がりたいけど…止められなくなっちゃいそうだから。君が元気になったら、そうしていい?」

    パスファインダーは甘えるようにレヴナントの首元を覆う布地を引っ張り、頬を寄せる。その言葉に、声色に、強請ることも、断ることも出来ずに、レヴナントは曖昧に返事をしたような気がする。

    少しの間があった後、パスファインダーは瞬きをするようにアイライトを明滅させると、パッと顔を上げた。

    「そうだ、よく眠れるように子守唄を歌うね!君が前に『永遠に眠れそうだ』って褒めてくれた時から、僕の特技リストに追加してるんだ」
    「…要らん。そして、褒めていない」
    「えっ!これも皮肉だったの?難しいな」

    しおらしくしていた姿はどこへやら、普段の調子で話しかけるパスファインダーにレヴナントは呆れる。

    「あっ、今、笑ったでしょ!」

    それに、歌などなくても、もう魘されることなく眠ることができるーーそんな気がしていた。
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