常夜灯、花を愛でる。 明日は休みだからって二人で夜更かしするのもたまには悪くない。合わせた休日に何をするのも自由だし、俺の見つけたくだらない映画を流して毛布を二人で被りながらダラダラと過ごす、そうやって無駄に時間を使っても構わない。
深夜になりベッドに横になってると、流石に眠気が舞い降りてくる。
モブも同じく、睫毛が落ちたり、上がったり、忙しくしていた。
「そろそろ寝るか?」
「ん、……はい」
声をかけると、目を擦り付けて眠そうな声で返事をしてくる。
テレビを消して、照明も常夜灯にした。真っ暗な部屋で眠った方がいいぞと話したこともあったが、モブがこれでいいのだと聞かないので一緒に寝る時は必ず常夜灯をつけたままにしている。暗い部屋は苦手なのかもしれない、まだ子どもだなと微笑ましくなる。
布団を肩までかけてやり、目を瞑るとししょう、と隣から呼ばれた。
見れば半分隠れた溶けそうな瞳で俺を見ながら、モブが手を差し伸べてくる。
それを絡め取って、指先にできた逆剥けを撫でてやると、口角をわずかばかり上げて笑みをこぼした。落ちていく意識と瞼を眺めながら、反対の手で流れる黒髪を梳いて額にキスする。花を愛でるとはこういう気持ちなのかもしれない。
常夜灯の薄暗い橙色がモブの頬を染め上げる。
とろりとろりとモブが夢と現実を行き来しながら俺を呼ぶ。
「ししょ……の顔が見える」
「当たり前だろ」
そうだけど、そう呟いてまた少し間をおいて、寝たかと思うとふぅ、とため息を漏らす、眠たいのにいつまでも寝たくない子どもみたいにやっとのことで起きて話しかけてくる。
「僕ねぇ……、もう暗くても、良いんですよ、子どもじゃない……んだから」
花を愛でるとはこういう気持ち、なのかも、しれない。
こういうふうに、穏やかに水をかけるように、しなやかに土を被せるように、やおら慈しむように。
そうして春に咲く花を待ち遠しく思うように。そういう気持ち、なのかもしれない。花を愛でたことがないからわからないけれど。
「ただ、こうやって……師匠の顔を見ながら……寝たい、から、灯り……欲しいんです」
もうほとんど眠って、舌足らずにモブが言う。
布団の上を彷徨うモブの言葉たち。
髪を繰り返し梳いて、自分の胸に頭を抱いて、早く寝ろと促した。
「へへ、ししょ、好き……」
「うん……」
背中に回された手が暖かい。
朝に瞼が開くまで、花咲く時間まで薄明るい灯りの下で見つめていたい。