見慣れた天井が、初めて見るような景色に思えた。敗北は感覚を違わせる。久々にそれを味わった。いくら手を伸ばしても決して届かない高さ、全身を床に押しつけてくる重力の重さ。振り切って立ち上がるにも、疲労と虚脱感がしがみついてくる。悪い気分じゃあない。今の自分が出せる力を出しきった心地良さ。一人では味わえない理解がある。おいおい、負けて悔しくないのか、ケン・マスターズ? そりゃ悔しいさ。けど悔しさってもんは、万全の状態で挑んで初めて持たなけりゃ、相手に失礼になっちまう。
視界に影が差す。頭上に現れる男の顔。逆光になっていても、笑っているのが分かる。不敵でも不遜でも、温和でも柔和でもない。短い黒髪に映える赤い鉢巻の下、汗を滲ませる引き締まった顔が、迷いのない笑みを浮かべていた。
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