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    ルクリュ風味の書き散らし

     思っていたよりも、饒舌なのかもしれない。リュウという男は。
     自分と比べれば、無口な方だと言えるのだろうが……聞いたことには答えがあるし、それ以上の話がついてくることもある。だからといって質問を畳みかけると、考え込ませてしまったり、すまない、俺自身もよく分かっていなくてな。などと謝られたりもするから、自分の喋るペースと違うのは、確からしい。
     行こうと思ってすぐ行けるほど、日本という国は近くはない。スケジュールの問題だ。仕事をすっぽかすのは御免だし、行動に移すなら休みを確保してからということになる。無理矢理一日で行けないわけでもないのだが……現地での移動時間も考えると、大概アウトだ。無職期間を設けていた時とは、ワケが違うのだった。
     そんなわけで、ルークが日本を訪れるのは、ある程度計画的に予定をこなしてからになる。いつ来ても桜が舞っているような気がするのは、不思議なものだが。薄桃色の花吹雪の中に、リュウがいる光景は、悪くはない。
     二回目に会った時、闘いの前に条件をつけた。俺が勝ったら、話す時間を作ってくれ。リュウは意外そうな顔をして(口から頬まで髭で覆われている割に、表情は分かりやすいのだ)、だがすぐに、ああ、と頷いた。それから、俺が勝ったら? と聞いてきた。今度はルークが意外を呼ばれた。そういうことを聞いてきそうなイメージは、なかったのだが……このあたり、リュウとの会話が少なすぎて、人物像を掴みきれていなかったようだ。
     そうだな。ルークは答えた。俺ともう一回、闘えるってのはどうだ? 笑いながら言うと、リュウは一呼吸だけ間を取ってから、ふ、と笑んだのだ。
     思っていたよりも。ということが、続いている。リュウと会う時は。思っていたよりも、優しいのかもしれないし、思っていたよりも、気さくなのかもしれないし、思っていたよりも、饒舌なのかもしれない。
     何でまた、そんな服着てるんだ? と聞けば(右肩だけ出す理由があるのか、しかも胸まで)、師匠という人の話をしてくれたし、修行をしていた若い頃の話も聞かせてくれた。同門という、ケン・マスターズの話も。それを、楽しそうに話すのだ。初めて見るくらい、楽しそうに。ルークとしては、微笑ましいような、居た堪れないような。ごちゃ混ぜの気分になるしかなかった。
     知らないことばかりだ。ネットを見れば、情報は転がっている。どういう流派の使い手なのか、今まで誰と闘ってきたのか。しかしリュウに限っては、いくつもの大会で優勝するような著名な格闘家にしては、フォトセッションの画像だとかインタビュー記事だとかが少なすぎた。皆無と言っていいほどだ。何なら表彰式の写真すらない。本人と話をしてみれば、単にそういうことに興味がないだけで、特にこだわりがあるわけでもない、ということだったが、知らないうちは気難しそうなイメージもあった。孤高の放浪格闘家、なんて。プライドとコダワリが、クライスラービルより高いに決まってるだろ?
     まあ、本人を本当に知る人の話から、悪い人間ではないのだろうとは思ったが……実際知ると、ある意味で、悪い男だ。リュウという男は。知れば知るほど、知らなかったことに気付かされるし、知らないことを、もっと知りたいと思う自分にも気付かされる。
     ケン・マスターズとは、自分も少し、関わりがある。少し、と言っていいかは分からないが……まあ、リュウに話せることでもない。ただ、自分が見たケンと、リュウの知るケンとは、きっと違う部分が大きいだろう。違う部分しかないかもしれない。それも、あるのだが。ただ、居た堪れなくなったのは、リュウに話せないことがあるからだけではなく。
     自分の知らない頃のリュウを、ケン・マスターズは知っているという事実を、思い知らされたからなのだろう。
     それを言えば、昔からリュウを知る他の人も同じことで、気にし始めたらキリがない。それでも気になってしまうのは、リュウを知れば知っただけ、知らないことが気になるのは。知ることのできないことが、気になるのは。自分以外のリュウに会いに来ているという奴らや、その辺にいるリュウの知り合いのことまで、気になり始めているのは。
     まあ……それでも今、リュウと闘って話せるのは、自分だけだ。次にすぐ、会いに来なくても済むように、時間は活用しなければ。どうせすぐ、闘いたくなっている自分の姿も、ルークには想像しやすかったが、まだ闘いが優先される以上は、迷わずに済みそうな気もしていた。
     ……気のせいという可能性には、目をつぶった。
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