水の上で愛を知る「フリーナ殿」
当たり前のようにそこにあった“人”を見かけ、躊躇うよりも先に名前を呼んでいた。
月明かりが反射し穏やかに輝く水面を眺める横顔が、ヌヴィレットの声に反応する。
どこか寂しげだった表情は笑顔に変わり、見知った顔だと何故か安堵した。
「やあ、ヌヴィレット!こんな場所で奇遇だね!」
「このような夜更けにいったい何を」
「ただの散歩さ。いけないかい?」
「君を縛るものはもう何もない。君が時折抜け出しては夜のフォンテーヌを散策していたのは知っているし、そもそも問題は無いはずだ」
そう、問題は無い。彼女が今、何処で何しようともフォンテーヌの民にもヌヴィレットにも問題は無いのだ。
「なら良いだろう、何が不満なんだい?」
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