一人になった日「それじゃ、私仕事行くから」
「ん……」
まだ半分夢の中の恋人を置いて、私は玄関の扉を開けた。少しだけ夜更かしをした体には朝の光は眩しくて思わず目を細めた。
昨晩は彼とベッドを共にしたが、付き合いたての甘さのようなものは何も無く、ただただ業務的に事が進んでいくのは女として辛かった。彼は悪い人では無い。だが確実に私には興味を持てていないことがはっきりとわかるのだ。最初は、人間では無い目の前の男を養っていけるのはきっと私しかないと思っていたが、そんなことはないらしい。彼が私と付き合ったのも、きっと何かの変わりにしたかっただけなのだろう。その何かに、今の私は検討がついていた。
「あ、おはようございます」
隣の部屋から出てきた男と視線が合う。私の彼氏のことを先輩、と呼び親しむ彼はこの後私と入れ違いで部屋に入るのだろう。
「おはようございます、副都心さん」
「先輩、起きてますか?」
「起こしたんだけど全然起きてくれなくて」
「ですよね、寝起き悪いですもんねあの人」
そう言って肩を竦め苦笑する男を見て、私も少しだけ笑う。
「僕、起こしてきますね。それじゃあ、また」
そう言って彼は私の彼氏の部屋へと入っていった。私は玄関の前で一人、朝の冷たい空気を肺に取り込んで溜め息を吐く。
きっともう、この部屋に来ることは無いだろう。私物も色々置いていたが、思い出と共に置いていくことにした。
「今までありがとう。有楽町」
そうぽつり、と呟いて、私は彼の住むメトロの宿舎を後にした。