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    李坂怜菜

    @jlHt3jBv2ElSdJ5

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    李坂怜菜

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    つなとら。猫の日に2人で外を歩く話。🐉←🐯の🐯視点。

    猫の日の二人龍之介と2人での仕事終わり、次の現場へ向かうにはまだ少しだけ早い、そんなタイミング。昼食と夕食のちょうど真ん中のような時間に、俺たちは2人で通りを歩いていた。
    何をするわけでもない、ただの偶然の結果なのだが、それでも密かにデートみたいだと思ってしまう。口に出さなければ許されると言い聞かせ、隣を歩く背の高い男の横顔を窺い見ていた。
    「あ」
    そんな時、突然龍之介が声を上げる。自分の視線や想いを勘付かれたかと背筋が凍るが、彼の目が全然違う方向を見ていると気付いて安堵した。
    「虎於くん、ちょっと待ってて」
    そういうが早いか、龍之介はその場を走り去ってしまった。呆気に取られてその背を目で追うと、少し先のパン屋に到着したのが分かった。小腹の空く時間だ。何か食べたかったのだろう。
    あらかたの事情を把握した俺は、近くのベンチに腰掛けて待つことにした。パン屋はそれほど混んでいなかったようで、龍之介はすぐに戻ってきた。
    「待たせてごめんね」
    「構わない。目当てのものは買えたか?」
    「うん。見てこれ」
    龍之介はやけに穏やかな笑みを浮かべながら、袋の中からパンを取り出す。
    それはなんとも愛らしい、猫の顔を模したパンだった。尖った耳が再現され、チョコレートで目や口も描かれている。
    「今日、猫の日なんだって。本日限定って書いてあって気になっちゃった」
    「ああ、2月22日」
    「そう。にゃーにゃーにゃーの日」
    なんの恥ずかしげもなく「にゃー」などと言ってのけるのだから油断も隙もない。惚れた男の緩んだ一面を目の当たりにして気が動転している俺のことなどつゆ知らず、龍之介は猫のパンを俺に渡してからもう一度袋に手を入れる。もう一つ出てきたパンも猫の形をしていたが、一つ目とは少し見た目が違っていた。目鼻口以外にもチョコレートで何本か線が引かれている。
    「トラ柄もいたんだ。虎於くんと一緒に食べるから丁度いいかなと思って」
    トラもネコ科だもんね、とよく分からない言い分を口にしながら、ほらと顔をこちらに向けられる。トラ柄の猫のパンと目が合う。なんだよ、お前はあくまでも猫だろう。俺とは違う。
    「二つあるってことは片方は俺の分だよな。ありがとう」
    「当たり前だよ!一緒に食べよう。せっかくだからこっちを虎於くんに」
    そう言ってトラ柄を差し出される。正直どちらでも良かったが、断る理由もなかったので大人しく受け取った。
    ベンチに座って二人でパンを食べるなんて、いよいよデートみたいじゃないか。この後何か悪いことが起きるんじゃないかと心配になるほど、この上なく恵まれた時間だ。
    食べてしまうのは少し可哀想な気もするが、そうも言っていられない。いざ猫に食らいつこうとしたところで、龍之介が「あのさ」と控えめに静止を促す。
    「やっぱり、俺がそっちを食べちゃダメ?」
    そっち、と言って指差したのは俺が持っているトラ柄の猫。今まさに食べ始めようとしたところだったので、ギリギリセーフといったところだ。
    「いいぜ、ほら」
    「ありがとう」
    再度交換し、俺の手には最初に登場した無地の猫。大して変わらないように見えるが、もしかして中身が違うのか?まあ、何でも構わないけど。
    龍之介が「いただきます」と呟いてから食べ始めたので、俺も耳の部分を少し齧った。甘い。
    龍之介も美味しく食べているだろうかと見てみると、満足と言わんばかりに小さく頷きながらモグモグしている。
    トラ柄の猫を。
    トラ柄の。
    「…………」
    龍之介の口元にばかり目がいってしまう。半分ほど食べられたその中身を見るに、どうやらこれはクリームパンのようだ。
    急に動悸が激しくなる。鏡を見なくても赤くなっていることが分かってしまうほどに、顔が熱い。
    落ち着け。何を考えているんだ。他意なんてない。大体あれはトラ柄なだけで猫だし、もっと言えばただのパンだし、俺とは何の関係もなくて、食べられてるとか、食べたいって言われたとか、龍之介は何も。
    「虎於くん」
    その声にハッとして視線を上げる。龍之介が俺を見ていた。全て分かっているかのような、何も知らないかのような、深くて真っ直ぐな瞳が俺の心を貫く。
    「顔が赤いよ、どうかした?」
    思わず俯いて首を横に振る。覗き込まれている気配がするが確かめる勇気はない。膝の上に置いた両手の中で、片耳を齧られた無地の猫が俺を見上げてくる。なんだよ、笑うなよ。
    髪に何かの感触があり、すぐに頭を撫でられていると気付いた。ああ、まさか、狙ってやってたのかな。
    龍之介にとっての俺が一体なんなのか、知りたくて、知るのが怖くて、その感触に絆されないよう両手に力を込めた。
    ああ、このままでは潰れて中身が出てしまう。
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