Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    李坂怜菜

    @jlHt3jBv2ElSdJ5

    つなとら、楽トウの文章を書いたり書かなかったりします。文章の転載は使用料を頂きます、ありがとうございます!(無断転載は請求に伺います🫶)
    🌸なにかあればウェブボまで→https://wavebox.me/wave/8noz1e0ekbbsux1n/
    🌸お題箱→ https://odaibako.net/u/jlHt3jBv2ElSdJ5

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 36

    李坂怜菜

    ☆quiet follow

    つなとら。風の強い日の2人。両片想い。🐯視点。

    春一番外ロケの休憩中。現場から少し離れたところで龍之介と二人で水分補給をしていると、一陣の強い風が吹いた。
    服や髪が靡いて「うわ」と声をあげるが、特に大きな被害はない。遠くで短い悲鳴が聞こえて振り返ると、風に煽られてよろめいた女性二人組が互いに支え合いながら歩いているのが目に入った。
    龍之介も同じものを見ていたようで、「大丈夫かな」と心配そうな声を発する。
    「俺たちは風に飛ばされることはないから心配いらないね」
    「まあ、さすがにこの身体のデカさで風に負けることはないな」
    「天はもしかしたらよろけちゃうかもしれないな…風が強い日は守ってあげないと」
    ここに居ないメンバーの身を案じて決意を新たにする龍之介を、俺は複雑な想いで横目に見る。
    俺の背が低かったら、この場で気遣ってもらえたんだろうか。無意味な嫉妬心に嫌気がさしてため息をつくと、それに気付いた龍之介が心配そうに声をかけてくる。
    「虎於くん?」
    「いや、悪い。なんでもない」
    「そう?浮かない顔だから気になっちゃって…」
    「なんでもない」
    話を終わらせようと少し強引に顔を背ける。それと同じタイミングで、顔に当たる方向から強い風が吹いた。
    「うわ!」
    思わず目を閉じたが遅かった。左目に痛みを感じ、視界を閉ざしたまま俯く。
    「虎於くん大丈夫?」
    「目にゴミが」
    「えっ、本当?ちょっと見せて?」
    見せて、の意味がよく分からずに俯いたままでいると、龍之介がわざわざ俺の顔を覗き込める位置まで移動してくる気配がする。
    薄目を開けると同じ痛みが走り、慌ててもう一度閉じる。自然と涙が出てきて、ふいに痛みが消えた。あ、ゴミ、取れたかも。
    もう大丈夫だ、と伝えようと口を開くタイミングで、左頬に温かい感触がした。龍之介の手だと分かり身体が固まる。
    「虎於くん、まだ痛い?」
    「………うん」
    「見てあげるから、こっち向いて?」
    目元を親指でなぞられる。溜まっていた涙が溢れた。もう大丈夫なのに嘘をついた。ここからどうすればいいのか分からない。
    耳が熱い気がする。赤くなっていたらどうしよう。恥ずかしい。でも離れてほしくない。
    「虎於くん」
    声がさらに近くから聞こえた気がした。自分の息が龍之介にかからないように呼吸を抑える。もうだめだ、どうしようもない。
    恐る恐る目を開けると、揺らぐ視界の中に美しい瞳が見えた。心配そうな顔の龍之介を、俺はどんな顔で見ているんだろう。
    目が合ったまま互いに何も言わない。龍之介の表情が、心配とは違う色に変わっていく。呆れ?それとも、もっと違う感情?
    たまらない気持ちになる。もう痛くないから大丈夫だと伝えれば元の距離に戻って終わりだ。それなのに、どうしても、言えない。
    「ごめん、なさい」
    どうにか絞り出した言葉が、これだ。
    龍之介が切なげに眉を顰める。さすがにもう、痛くないってバレている。
    両頬を両手で挟まれた。距離は離れないまま。痛みではない理由でまた涙が出そうで、必死に唇を噛み締める。
    「2分後に再開でーす!スタンバイお願いしまーす!」
    ふいに遠くから声がして、二人してハッと目を見開く。スタッフの声だ。ああ、ロケの途中だった。今が休憩中だったことを完全に失念していた。
    龍之介があっけなく離れていく。
    「行こうか、虎於くん」
    「あ、うん」
    強引に目元を拭い、先に歩き出していた龍之介の背を追う。
    もう一度強い風が吹いた。
    龍之介が足を止めてこちらを振り向く。俺の身を案じてくれていると分かり、胸の奥がギュッと痛んだ。

    風で飛ばされそうな小柄な誰かを羨んでいたさっきの俺、よく聞いてくれ。
    心配されるほうが、何百倍も心臓に悪いよ。




    (涙目の虎於くんが、どれだけ距離を縮めても拒まないから、キスしちゃおうかと思ったよ)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works