キーホルダー仕事で地方の駅に寄った際、ご当地キャラだろうか、八重歯が特徴的なツンとした表情の犬のキーホルダーを見かけた。どうにも狗丸に似ているように感じて、一つ手に取りレジへ差し出す。大した理由は無かったが、どうしても連れて帰りたくなった。
キーホルダーは鍵に付けることにした。毎日帰宅して鍵を引っ張り出す際にそいつと目が合う。特にニコリともしていないその表情がやけに可愛く思えた。
鍵を見つめていると龍が手元を覗き込んでくる。
「楽、それこの前の地方ロケの時に買ったやつだよね。何のキャラクター?」
「さあ」
「え、分からないのに買ったの?」
「まあな。可愛いだろ?」
「うん、可愛いけど」
わざわざ鍵に付けるなんて随分と大事にしてるんだね、と微笑ましく見つめられる。確かに、肌身離さず持っていようと思って鍵に付けたのだ。大事にしていることは事実だ。
そこでようやく疑問が湧く。狗丸に似ているキーホルダーを、なんでここまで大事にしてるんだ?
「狗丸は俺に似てる犬のキャラのグッズを見かけたらどうする?」
「えっ!?な、何の話……?」
「例えばの話」
狗丸が視線を上下左右にウロウロさせて困った顔をする。確かに変な質問だったなと、少しだけ反省する。
「これ見てみろ」
「何すか?これは…鍵?」
「そっちじゃない。犬のほう」
「ああ、キーホルダーの。え、何こいつ」
「可愛いだろ」
「なんか目つき悪くないすか?」
「だよな。そこが可愛い」
えー、と納得のいかない様子の狗丸。キーホルダーを狗丸の顔の横に持って行くと、ツンとした表情の犬と狗丸が同時に俺を見てきた。
「ほら、似てる」
「え、まさか俺と似てるってこと?」
「そう」
「似てない似てない!え?てかさっきこれのこと可愛いって」
「狗丸に似てるなーと思って、それで買ってきたんだよ」
「…………………………え、な、なん、すかそれ」
狗丸は真っ赤になって目を逸らす。照れてるんだと手に取るように分かる。
なるほど、と頷く。
似てるものを身に付けたくなるくらい、俺は狗丸のことを特別に想っているってことだ。
「似てるものだけじゃなくて、本人も近くに置いておきたいんだけど、ダメか?」
「いや、それってどういう」
「好きだ。俺の恋人になってほしい」
「いきなりド直球で来るなよ!!」
何度かの押し問答の後、ヘロヘロになりながら頷いてくれた狗丸の額にキスをして抱き締めた。
*
「うーん」
「どうしたんだよ八乙女」
「いや、キーホルダーがさ」
「ああ、俺に似てるっていう例のやつ?」
「そう」
“例のやつ”を狗丸に見せる。随分と長いこと鍵に付けていたため、ところどころ塗装が剥げたり薄汚れていたりと年季が入ってしまっていた。
「もう一つ予備で買っとけばよかった」
「そこまで気に入ってたのか」
「狗丸のこと好きだって気付けたキッカケだからな、ずっと使い続けたいんだよ」
ふーん、と素っ気ない返事をする狗丸は、どことなく不満気な表情をしている。
何か気に障ったかと問おうとすると、狗丸が先に口を開いた。
「別にいいだろ」
「なにが」
「キーホルダーは別に、どうなっても。俺が居るんだし」
そう言ってフンッとそっぽを向く。照れ隠しだとすぐに分かった。肩を抱き寄せると素直に寄りかかってくれる。
「はは、そうだな」
「笑うなよ」
「許せよ、嬉しくて笑ってるんだから」
いつか、キーホルダーを買ったその駅に二人で遊びに行こう。
そんな約束をして、手元の鍵を見る。無愛想な犬と目が合って、その可愛さにも負けてまた笑った。