抱っこ 人差し指を差し出すと、小さな手のひらで全力で握られる。湿っていてあたたかな、そして少しでも力を加えれば壊れてしまいそうなその行為を数度繰り返し、俺はくすりと笑みをこぼした。おでこにおでこをつけ、鼻に鼻をつけ、愛してる、と鼓動を送る。届いているかはわからないけれど、腕の中の命がこくりこくりと眠りに誘われだし、胸の辺りがほかほかとしてきた。赤ん坊の体温って本当にあたたかい。とん、とん、と背中を叩きながら、身体をゆらゆら振り、入眠を促す。しばらくすると深い呼吸が聞こえてきた。よかった、無事に眠れたようだ。ほ、と一息ついたところで、ガチャリとドアノブが静かに回った。
赤ん坊が生まれてから一番驚いたことは、アイツが乱暴な仕草をしなくなったことだった。相変わらずガサツではあるけれど、ドアを大きな音を立てて開け放ち、足で蹴飛ばして閉める、そういったことを控えている。彼なりに赤ん坊の生活を守っているのがわかった。今日だって、玄関が開く音はわからなかった。
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