その男の周囲だけ、空気がどうも淀んでいる気がする。
カラフルな子供服売り場の前で、フードを深くかぶった黒いローブの長身の男が、真顔でプリチーな商品を吟味している。
それ自体は何も問題はないはずなのだが、周囲のカップルや子連れの母親らは、その不気味な男を気味悪がって距離をとっていた。
男はその冷たい目線を特に気にせず、可愛らしい犬猫のプリチーな服やグッズを手にとって眺めている。コップに描かれた、下手くそなユル可愛い犬猫のイラストを真顔で凝視しており、その鋭い眼に射抜かれ続けているユルい犬猫がだんだん可哀想に見えてくる。
オージュ・ウォゲは、これまでの人生の中でいわゆる『可愛いもの』というものに、さほど興味がなかった。むしろ、真逆のものである『怖いもの』の方を好んで見たり、選んだり、買ったりしてきた。
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