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    yukashita_0

    @yukashita_0

    らくがき劣情出血薄暗

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    yukashita_0

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    龍7外伝の💐さんが💐さんになるまでの想像です。
    憶測の要素で他の人の名前が出てきたり、顔に手術を受ける描写があります。

    first contact 打ちっぱなしのコンクリートの天井を蛍光灯の灯りが無骨に照らしている。浮上したばかりの意識でぼんやりと記憶を辿ろうとするが、力が入らず輪郭のぼやけたような身体と同じように頭も上手く働かなかった。蛍光灯の灯りが痛い程眩しくもう一度目を瞑ると、心拍をモニターする機器の音が聞こえるのに気付いた。ここは病院なのだろうか。それにしては他に音が少なすぎる気がするし、ほんの少し見えただけの景色も病院然とはしていなかったように思う。疑問がひとつふたつと湧いて出たが、それでももう一度目を開ける気にもならず、彼はそのまま再度意識を手放した。

     この部屋には窓が無く、まるで地下牢のような重い空気が立ち込めている。ほんの少し動かせる首を左に傾けると、鏡と手洗い場のみがぽつんと壁に付いていた。地下牢のようというか、本来はそれに該当する場所なのかもしれない。

     初めて目を覚ましてから少し経った頃、重い扉を開く音と共に男が二人この部屋に入ってきた。先導するように歩いてきた一人は黒いスーツを着込んでいて、その後ろの一人は法事で見る坊主そのもののようだった。縁起が悪いとまでは言わないが、異様な組み合わせと自身の置かれた状況の不明さにぼんやりとしていた意識が急速に冴えていく。ここは何処で、自分は何故こんな状況にあるのか。無言で近寄ってくる彼等に尋ねようとした所で顔に何かが幾重にも巻き付いて口を開けない事に気付く。それが包帯であると理解する前に、坊主がこちらを覗き込むようにしてこう言った。

    「やあ、見えていますかな。森永悠君」


     私は大道寺という寺で住職をしている者ですと男は名乗ったが、それが何を示しているか分からないほど森永は裏社会での歴が短い訳ではなかった。口を開けないのでその男をじっと見詰めることでしか意思表示は出来なかったが、住職はそれを相槌と見做したようだった。ズキズキと痛む頭と全身に意識をとられながら、自分がどのような経緯でここに居るのか事細かに説明される。そしてそれは、森永の思い出せる最後の記憶とほとんど差異なく合致していた。
     あなたには、名前と過去の全てを消して頂きます。そして新しい名でもう一度生を受け、大道寺一派の力になって欲しい。住職は自分にそのように告げた。選択の余地は無いかのように思われたが、彼等はそれを選ぶか否かをこちらに委ねるつもりでいるようだった。あくまでこれは自らの意思で選択すること。それが組織に属するということであると、これからの人生でも色濃く残るであろう過去の記憶に思いを馳せながら彼は確かに頷いた。


     しばらくすると日中は意識を保てるようになり、それから上半身を起こせるようになった。ベッドの上で書類に目を通す日々の中で自分の新しい名前がほんの少し馴染んできた頃、彼は自分の足で立つことが出来るようになっていた。時折医者のような人間に交換はされていたが、それでも全て取り払われることの無かった顔の包帯を今日からは自分で手入れする手筈になっている。ぽつんと壁に突き出た洗面台と、一枚の鏡。手にしていた書類をサイドテーブルに置いてベッドから足を降ろす。誤って転倒しないようにゆっくりと立ち上がり、ついに鏡の前に立った。瞬きをしたり首を傾けると映る姿も同じ動きをする。当たり前のことの筈なのに新鮮に不思議な気分になる。まるで本当に生まれて初めて鏡というものを見たかのような。

     ほとんど痛む箇所もなく、包帯もガーゼも意外な程簡単に全て取り払えた。そして、鏡にはなんとも不思議そうな顔をした、患者衣姿の知らない男が一人映っていた。
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