小屋に灯りがともる。
鍵のない扉を叩くものはいない。人間は、という意味で。
落ち着く自作の椅子に腰掛けて珈琲でもと立ち上がると眼前に黒い影がある。
すっと指を差し込むと黒い影に亀裂が入り、現れた赤い瞳が笑う。
「お竜さん、こんばんは。」
声を掛けると笑っていた瞳がすうと直って黒々とした瞳孔が僕を見つめている。
大きな影は身を震わせて女の声で
「ああ、こんばんはだ。」
と返した。
自由に飛んでいる君を見ていると、僕はどうして人なのかと思う。
僕もきみと空を駆けてみたい。
僕もきみと同じになりたい。
撫でるでもなく此方を見つめていた瞳がうすく、うすく細められた。
鳶は首を傾げるだけだった。