かわいそうなふたり もう金を稼ぐ必要なんてなかった。
乾赤音の死から、九井一はすっかり金稼ぎの目的を失っていた。それでも仕事は舞い込んできて、惰性でこなしていれば、金は溜まっていく。こんなに金を貯めたところで、なんに使えばいいんだ。金を稼ぐために手段は選ばなかった。もう後戻りはできない。その覚悟はしていた。だが目的を見失っていた。
その日はたまたま実家に荷物を取りに戻っていた。親は何も言わない。息子がしていることに気づいていながら、何も言わない。この数年ずっとそうだ。親子の縁は切れたも同然だった。
部屋にあった本や雑貨を鞄に詰め込んで、家を出たところで、玄関先にうずくまっている人物に気づいた。
「イヌピー」
「あ、ココ」
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