寝言？　余計なことをすると起きてしまうだろう、とは思ったものの。朝だし、そろそろ起きてもいい時間ではある。それなら何を悩んでいるのかと言うと、この気持ちの良さそうな寝顔をこのまま眺め続けるかどうか、だ。
　自分の胸の上にずっしり乗せられた二人分の頭の重みは、暖かくてちょうどいい心地よさだ。自分の呼吸に合わせてうつ伏せになったそれぞれの頬がむに、とへこみつつ頭全体が上下する。そのくらいじゃ起きないらしい。かわいいな。
　と、思っているとやはり自分は堪え性がないので……もう手が出て、二人の後頭部を撫でていた。
　タケルの髪は寝癖で大きくはねている。そのせいもあって、いつもより手触りがふわふわだ。漣の長い髪はくるくるとうねっている。寝癖で絡まってはいないだろうかと指を通してやると全く不要な心配で、銀色のそれは指の間をするするとほどけていった。
「かわいいなぁ」
　思わず声が出る。そのまま何度も頭を撫でる。しかし二人とも、起きなかった。
　そりゃそうか。この程度で起きてくれるなら、いつもの朝ももう少しゆっくりできる。……だけど自分は、賑やかな朝も好きだ。今日も二人が起きたら、きっといつもの通り賑やかになる。
「ん」
　先に起きたのは漣か？　と思いきや、いびきだったのか一声唸った後もまだ目は開いていない。代わりにそれに驚いたのかタケルがぷるぷると身じろぎをした。それからぼんやりと開いた目が、こっちを見上げる。
「……えん」
　じょうじさん、と自分の名前を呼んでくれたのだろうが、最後までは聞き取れなかった。まだ半分は眠っているようで、舌っ足らずだ。もにょもにょと動いた唇が胸に当たってくすぐったかった。
「かわいいな」
「ん」
　なんだかわかっていなそうだけど、とりあえずタケルは相槌を打っている。そんなところもやっぱりかわいくて、寝癖の頭をもっと撫でた。
「るせ」
「お。漣もかわいいな」
「」
　漣がまたいびきのような唸り声を出している。だけどふるふると頭を振って額を自分の胸に擦り付けている力が妙に強いから、そろそろ目が覚めてきているな。唸り声は不機嫌そうだったが、頭を撫でる手は振り払われないので、それは悪くはないらしい。
　漣の頭が暴れているせいでタケルの頭もくらくら揺れている。それでタケルも目が覚めてきたたらしくまばたきを繰り返している。
「オマエ……朝から……」
「あはは。二人とも、朝からかわいいな」
　そんな二人を撫でる手がさっきから止まらないでいる。今日はこのままそろって起きてくれそうだ。
「……らーめん屋、さっきからそればっか言ってンなァ」
「寝ぼけてるんじゃないか。円城寺さん、昨日までハードスケジュールだったから……」
「自分はいま見たままのことを言っているだけだぞ」