そう言えた「かわいいな」
　って耳元で囁かれて、思わず身体が小さく震えた。さっきまでの気持ちいいのが身体から抜けきってないせいだ。それで、円城寺さんの低い声で囁かれると全部思い出しちまって、身体中がゾクゾクする。頭ん中はフワフワする。
　そういうの、円城寺さんはわかってやってんだろう。俺の顔を見下ろして目を細めて笑って、背中に回した腕に少し力を込めて抱き寄せて、また同じこと言った。
「かわいいな」
　って。
　俺の額にくすぐったいキスをしながら、言った。さっきと、同じだ。また身体が反応しちまう。頭の方は、もっと。でも円城寺さんはきっとこれは俺だけに言ったわけじゃない。コイツにもだ。さっきのも、その前も、いつだって。円城寺さんの太い腕のもう片方には、アイツが抱きしめられている。
「らーめん屋、さっきからそればっか……」
　すぐ隣に居るってのに、コイツの唸る声がくぐもって聞こえる。コイツはさっきからの――でも今に始まったことでもねぇけど――円城寺さんの「かわいい」の連続攻撃によっぽど照れているのか、円城寺さんの胸元にグリグリと顔を押し付けて唸っている。
　だけどその唸り声も寝ぼけたような、蕩けたような、そんな声で、やっぱ俺と同じなんだと思う。
「嫌か？」
　そんなわけねぇのに円城寺さんは優しい声でそう聞いてきた。
　円城寺さんに顔を覗き込まれて、俺は首を振って答える。コイツはまた顔を円城寺さんの胸に押し当ててじっと固まったかと思うと、
「……もっと言え」
　素直なことを言う。
　コイツは、素直だ。思ったこと全部口にしてる。
　円城寺さんはそういうコイツの頭を撫でながら、今度は、
「いい子だ」
　って言った。視線はこっちを向いてて、コイツだけにじゃなくて、俺にも、言った。俺は、なにも言ってねぇけど……。言えばよかった。
「タケル、漣」
　かわいい、といい子、の間に円城寺さんは俺とコイツの名前を呼ぶ。さっきからそればっかりだ。コイツの言う通りで、もっと……と思う。気持ちいいし、あったかい。
　俺も、素直なこと言えるだろうか。言おうか。俺の、思ってること。言葉にするために、少し考えた。円城寺さん、ありがとう。嬉しい。ああ、これだ。口下手な俺でも言えそうだ。