せめての要求 二人の顔が並んでぐっと近付いて、思わず後ろ手を付いた。
顔が赤い。どちらも。潤んだ目。四つ、並んでいる。顔を近付けられるとその熱が皮膚の上にしっとりと伝わってくるようだった。
「参ったな……」
無意識につぶやいてしまった。こんなつもりじゃなかった、なんて言い訳は良くないけど……だってこれじゃ自分が、我慢できそうにない。
「頭とか顔とか、いーから口にしろ」
「円城寺さん、口開けてくれ」
う、と追い詰められて呻きが漏れる。二人の少し開いた唇が、かわいい……。でもそこばかり見ているのがバレるのもよろしくない。だいたいそこ以外だって全部かわいい。目が泳ぐ。
「……したら我慢できなくなるぞ」
「ンでオレ様が我慢しなきゃなんねーんだよ」
「俺は、我慢できる。時間ねぇっつうのなら、せめてキスだけ……ダメか?」
「いや、自分が……我慢できるかどうか。キスだけで止められる自信がない」
明日は仕事が早いから。今日はもう遅いし。そもそも二人とも、それなりに疲れてるんじゃないか。早く寝たほうがいい。
ねだる二人をさっきからそうやって宥めていたのにも色々理由があって、額や頬にキスをしながら寝落ちするのを待っていた。が、逆効果。何より自分の自制心が一番心もとない。それを正直に口にすると、二人が目を光らせて生唾を飲んだ。
そんなふうに無邪気に期待されるのが、何よりもグッと来る……のかもしれない、自分は。それでいて二人ともとんでもなく色っぽいし。
……自分がそうさせたのか。いけない気持ちがむらむらと湧いてくる。
「わかった。……本当に、キスだけな」
で、結局こうなる。……わかったも何も、一人で勝手に当初の決心が折れただけ、なんだが。
「円城寺さん」
「わかればいーんだよ」
二人揃ってパッと顔を綻ばせる。自分から見れば二人は年相応にあどけない。特にこんなふうに目を輝かせているときは。
二人の目に反射しているのは、築年数の嵩んだ自分のアパートの年季の入った照明の光、そして二人とも期待しているのが自分とのキス……このシチュエーションで欲望を取ってしまう自分によくよく呆れないでもないけれど。
タケルと漣のことがかわいくて仕方がないんだ。
自分の返事を聞いてすぐに、もっと、とばかりに顔を近づけた二人の頬にそれぞれ手のひらを当てる。やっぱり、興奮して赤くなったそこはぽかぽかと熱い。それにわずかに滲んだ汗と、さっき布団に入る前に塗った保湿クリームのせいか、手に吸い付くような柔らかい感触だった。
「せっかくだから三人でしよう。ほら、舌を出して」
「せっかくって何だよ」
漣は眉をひそめてそんなことを言ったけど、言い終わってからそのピンク色の舌をぺろりと出して見せた。
タケルは素直に小さな口から小さな舌をツンと出して、待っている。
それから二人でもっと自分の方へと顔を近づけてきて……そうするとタケルと漣も、お互いに頬を寄せ合うことになるわけで。やっぱり、かわいい……。どこまで我慢できるだろうか。