二人ですること 今日のコイツは見るからに機嫌がいい。一体何があったんだ? ……どうせ、些細なことだろう。昼に食った円城寺さんの弁当が、ウマかったからとか。いや、円城寺さんの弁当は大抵ウマいけど、今日は俺とコイツの好きなおかずがたくさん入っていた。
そういうのだけで、あんだけ上機嫌になる単純なヤツ……は普段よりも文句は少な目、騒がしさは上で、円城寺さんの買い物にも付き合って荷物持ちをさせられ、円城寺さんのアパートに着いてからも食材や日用品の収納の手伝いのためにそう広くないアパート内をあちこち行き来していた。円城寺さんの後ろにくつついて。まるで飼い主の背後をちょこちょこと着いて回る犬みたいだ……と見てて思った。
「タケル、漣。午後からずっと家のこと手伝ってくれてありがとうな」
「そんな改まって礼を言われるようなことじゃない。家のことっつったって、俺とコイツの分もかなりあるだろ」
「おいらーめん屋、褒め方が足りねーぞ」
「オマエな……あんだけ沢山お菓子も買ってもらっておいて」
「あんぐらいはトーゼンだ。もっとだ! らーめん屋! もっと感謝しろ!」
コイツは偉そうに要求しているが、もちろん今も上機嫌で満面の笑みだ。
円城寺さんも慣れたもので、まとわりついてくるコイツを笑顔でいなしながら、買ってきたお菓子をいつものように台所の一番上の棚の中にしまい込んだ。……多いな。三人分だから。
何を思ったか、ソイツがそれをジッと見上げている。腹減ったっつー顔でもなく、なんとも言えない顔……で、それから急になにか思いついた様子でまた円城寺さんの方にズカズカと近づいた。
「らーめん屋の好きなやつ、やってやる」
「ん?」
部屋に戻って座布団に座りかけてた円城寺さんが不思議そうに顔を上げる。
何をするつもりだ……と俺だけでなく円城寺さんも思ったはずだが、ソイツの視線が何故かこっちに向いている。
「チビ」
……俺を呼んでいる。何考えてんだ? 円城寺さんの好きな、やつ?
「……ん、ああ」
ふんぞり返ってそこに仁王立ちしてるソイツの隣に立つ。まだ何もしてねぇのに、既に全部のイタズラが上手くいったみてえな顔をしてる。……コイツのこういう顔、なんつーか……悪くは、ない。
「オマエが言い出したんだから少しは屈めよ……ほら」
俺が少し背伸びしなきゃならねーのが、癪に障るってほどガキじゃねーけど。
ソイツの顔を掴んで下を向かせてキスをした。円城寺さんの目線。コイツの柔らかい唇。……そういうのを色々感じる前に、コイツが驚いて大げさにビクッとして離れた。
というわけでキスをしたのは一瞬だ。触れただけ。
でも円城寺さんは……多分喜んでくれただろう。
「ちげぇ!」
コイツは顔真っ赤にして叫んでるけど。
なんで言い出したヤツがこんなに恥ずかしがってんだ。
「違うのか? じゃあ何なんだ」
「こ、これじゃなくてェ……らーめん屋のォ……」
言いながら円城寺さんの方を見て、目が合ったらしくまた更にガーッと顔を赤くして口ごもった。
円城寺さんのって、そこまで聞いて、やっとコイツがやろうとしてたことが少しわかった。コイツが照れて言えないこと、だ。……とはいえ。
「オマエの考えてることなんかわかるわけねーだろ。円城寺さんの好きなことって、色々あるし……」
「ア!? ……なら、らーめん屋ァ! なんでもかんでも喜ぶんじゃねェ!」
「えっ? 自分が悪いのか!? いや、なんでも喜ぶわけじゃないぞ。今のは、その……すごく、よかった」
咳払いしつつ俺とコイツから目をそらす円城寺さん。さっきまでガン見してたのは俺もコイツも当然気付いてる。それに拳で口元を隠してるけど、表情はちっとも隠せていない。
「ニヤニヤしやがって……」
「円城寺さん、鼻の下伸びてる。……もう一回、やるか?」
「……ン」
コイツの顔、まだ真っ赤だ。拗ねたように口を尖らせている。でも……相変わらず機嫌はいいらしい。泳いでた目が、こっちをジッと見る。
それから、ちょっと屈んで顔を近づけてきた。……そんなに屈むほどほ差はねーと思うが……。