学食のテラスで膝を画架代わりにクロッキーにスケッチしていれば、そばに立つひとけに顔を上げる。こっちをじっと見る一人の男は強張った顔で、大小有る学食のトレーの大きいほうを持ち、しかしその上にはカットリンゴの椀一つきりを乗せただけで、よく分からない男だなと思った。
「なあ。一緒に食っても良いか?」
そんな男に相席を所望された。
「お友達いないんですか?」
男越しに見える連なった席に集まって座る数人の視線を男の代わりに見返してやれば、さっと逸らされる。
「いないと言えば、共にいてくれるなら。」
男の眼差しに意識が戻る。
顎をしゃくって着席を促してやれば、嬉しそうに向かい合わせになった。
絵の続きもそぞろに男を窺えば、カットリンゴの一つに刺さった爪楊枝を持つも、何を緊張しているのか何度も抜けてリンゴを椀に戻している。
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