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    Ang𓄿𓈖𓎼

    @ice_yokose

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    ※CP色は限りなく薄いギャグです(マブダチ寄り)
    🏹:本編ルートから現代に逸れのアーチャーとして現界、赤坂霊地、基本FREEDOM、慶安をちょっと引き摺ってる
    鄭:本編ルートで記憶ありの転生、あんま引き摺ってない、赤坂でマンモス企業のCEOやってる、バツイチ独身27歳(185cm)

    雑に読める現代召喚鄭弓「アーチャー……一通り手続きはしておいた、これを首から下げていればとりあえず怪しまれることはない」
    「ああ、すまんな」
     手渡された四角く固い紙片に紐が結び付けられたような代物──あいでぃかあど、と言うらしいそれを周瑜は興味津々に眺める。
     何の因果か三国の時代よりも1900年後──もはや気の遠くなるほど未来の日の本、それも赤坂の霊地へと召喚された逸れのアーチャーこと周瑜は、輪に輪をかけて因果なことに妙ちきりんな形の巨城の前で猫にじゃれつかれている所をかつて自身の喚び人であった男に保護、よく言えば招致されていた。男の名は定明テイメイ。明代最後の将軍、鄭成功の生まれ変わりであり、この妙ちきりんな巨城の城主──もといスタイリッシュなビルディングのオーナーである。港区にはスタイリッシュなビルが多い。
     また定明と言う微妙に当たらずとも遠からずな名は偽名ではなく歴とした本名であり、生まれこそ台湾であるものの幼少時より日本で暮らし、国籍も移してある。おかげで幼少の頃からあだ名はサダアキと言う宿命にあった。
     周瑜は前世よりの慣いで明儼と呼ぶべきか、それとも当世に倣ってサダアキと呼ぶべきかと問うたが秒で『明儼で頼む』と返されていた。
    「数奇とは言え、おまえとまたこうして巡り会えたのは僥倖であった。此度の現界は儀に直接関わりのない逸れである故、私は赤坂の地を離れるわけにはいかん。かつての面影も遠いこの地でどう留まるべきかと途方に暮れていた」
    「いや……途方に暮れていた割にめちゃくちゃ猫と遊んでいた気もするが……俺がたまたまここのオーナーで警備員へ咄嗟に『親戚の子です!!!』でゴリ押せたから良かったようなものの……江戸の町と違って今はおまえぐらい年の子は簡単に補導されるんだぞ」
    「ふむ……? 〝しょっぴいてバンヤにつきだされる〟という奴か? 案ずるな、そうなれば霊体化で何処となり逃げおおせる」
    「……令和の港区に怪談話が出来る前で良かったよ……」
     こめかみを抑えながら苦笑する明儼に、周瑜は足元の猫を抱き上げて顔を覗き込む。如何せん手離す間もなく俵担ぎで城の中へ連れられてしまったため、猫も同伴していたのだった。
    「猫にはあいでぃかあどとやらは不要か?」
    「ああ……うん……いらんいらん……」
    「そうか。成り行きで連れて来てしまったのでな。おまえの手間が増えなくて良かった」
     なーおん、と同調したように鳴く猫と交互に眺められて、明儼がふっと笑う。当代の彼は体格こそ変わらぬものの以前よりも身の丈は更に高く、美丈夫に磨きが掛かっていたが、そういう顔をしているとかつての面影そのもので周瑜も憧憬が胸に去来し微笑んだ。
    「……別に手間という程じゃないさ。それよりも服と靴の方が問題だな……コスプレで通すのも心苦しいし……うーん……ちょっと待っててくれ」
     胸元から黒い板のようなものを取り出した明儼が、室の奥の方へと下がっていく。あれが当世の霊装のようなものなのだろうかと興味を擽られた周瑜は、待っていろとは言われたものの矢張り気になって猫を抱き上げたままこっそり同じ方角へ向かう。衝立の向こう側で板を耳元に当てて、明儼は独り言を喋っているらしかった。
    「……俺だ。女が服を汚してしまってな……すまんが適当に一着頼む。靴もついでに。……ああ。それでいい。請求は俺宛てにしてくれ」
     やはり霊装のようだ。かつて周瑜が目にした大陸の通信霊装は赤い半月型のものだったが、当世では更に持ち運びに適した簡易的な造りになっているらしい。
    「明儼は当世でも魔術の素養があるのか?」
    「っうお、びっくりした。これか? 違う違う。これは……あ〜携帯端末と言ってな。魔力ではなく別の機構で動いている通信器だ。魔力がなくとも誰でも使える。現代の人間は文や書簡ではなくみんなこいつでやり取りをするんだ」
    「ほう……?」
     想定以上の返答に周瑜の目が輝く。考えてもみればただでさえ真新しいものが多かった慶安の時代よりも、ここは更に数百年も時に隔てがある。慶安の地では周瑜の生きた時代と変わらぬものと新しき物が混在しているような印象であった。だが、令和と言うらしい当世に至っては最早別世界と表して過言ではない。変わらぬものと言えば木々の景観と今腕に抱いている猫の愛らしさくらいで、覚えのあるものを探す方が困難であった。
     幸い今は逸れの身である。以前は陣営として行動の制約が課されたため、文化の変容について学ぶ機会というものが少なく、戦の基礎である地の利を生かすことも出来なかったと言う後悔もある。何より本来周瑜はどちらかと言えば知識欲と好奇心が旺盛な性質であり、それが此度は儀の本筋と関係ない立ち場と来ているものだから、思う存分学ぶ機会がある。些かは童心に帰るのも無理のないことだった。
    「まあ……でも共に暮らすのならおまえにも端末は必要か。あとでおまえの分も用意しておこう」
    「……良いのか?」
    「ああ。俺の名義で用意しておくから大した手間じゃないさ」
    「そうだが、そうではなく。共に住んでも良いのか?」
     あいでぃかあどと言う拠点を与えられただけでも周瑜にとっては天の助けと言うものだ。仮にバンヤにホドーされても、サーヴァントの身であれば文字通り何とでもなろう。最期まで忠節を尽くせず主人に多大な被害を与えて退去した身の上、明儼かれが変わらぬ友誼を抱いてくれているだけで充分であった。
    「こんな運命的再会をしておいて、共に暮らさない手があるか?」
     大仰に手を広げてそう破顔する男は、周瑜のかつて愛した鄭成功そのものの仕草だった。
    「……恩に着る。いや──違うな。私もおまえと共に暮らしたい。おまえと一緒がいい、明儼」
     真正直に想いを伝えると、大きな体躯が即座に抱き付いて来て、猫ごと周瑜を抱き上げた。
    「決まりだな! 帰ったら再会の杯を交わすとしよう、アーチャー!」
    「……公瑾で良い。二人の時はそれで良い」
     両手が塞がったまま、額をこつんと眼前のそれに軽くぶつける。大きな口の口角が上がり、目が細められる。公瑾、と確かめるように呼ばれた。
    「んなぅ」
     そんな所で、二人の間に挟まれた猫が窮屈そうに抗議の声を上げたので周瑜の体は元通り床へと下ろされた。そのまま一人掛けの牀のような大層な椅子を勧められて腰掛ける。尻が沈むので、驚いて何度か立ち上がったり座ったりを繰り返した。天子にでもなったような心地になるが、これも恐らくは当世では普遍的な家具なのだろう。
    「……服が届いたら着替えてもらって、俺の車で帰るが──途中で動物病院に寄らないとな」
    「動物びょういん?」
    「ああ。野良猫だろう? こっちだと飼う前に色々検査をしたり薬をもらわないといけないんだ」
     ぱちぱちと思いがけず周瑜は丸く見開いた目を瞬かせると──抱きかかえた猫を一度見、明儼の顔をもう一度見た。
    「……飼うのか?」
    「なんだ、飼わんのか? 俺は飼いたいなあ。止むに止まれぬ事情で転がり込んできた小さな命……そう言う素朴な出会いが現代人にとっては夢の一つでもあるんだよ」
     後半の言い分はよく分からなかったが、明儼らしい科白であることは間違いなく、周瑜も深く頷いた。この男を相手に心を取り繕う必要などない事をとうに知っている。
    「うん……そうだな、仮初の身ではあるが……私も世話をしたい。良いだろうか」
    「どうせ寂しい一人やもめだ。同居人が二人も増えるとなれば、これほど嬉しいことはないさ」
    「……だそうだぞ。良かったな、猫よ」
     顎の下を撫でて同意を求めると、小さな体は大きなあくびを一つかいて腕の中で眠りこけ始めた。いかにも猫らしい、気ままな事である。
    「……同居二人かもなあ……」
    「何か言ったか」
    「い、いや、何でも……そうだ公瑾、名前だ、猫の名前を決めてやらねばだぞ」
     されるがままで寝ている猫の桃色の肉球をふにふにと触っていた周瑜は、その二文字に視線を宙に向ける。
    「名前か……ふむ」
    「病院に行くのなら必要だろうしな。姓は俺のを使うとして、もとは公瑾が拾ったのだから公瑾がつけるといい」
     さて、命名の誉を賜ってしまったからにはどう名付けるべきか。いかに逸れと言えど今後を考えれば、真名に直結するものは避けるべきである。然りとて未だ当世の文化をよく知らぬ以上は相応しい名前もおいそれとは浮かんで来ない。類推がし辛く、かつ明儼にも己にも当世の人々にも馴染む名前。自身の愛馬にも名付けたことのない周瑜は一頻り考え──やがては明儼の顔をチラリと上目遣いで眺めると、口角を上げた。
    「では……『アユ』ではどうだ」
    あゆ……? 魚か……?」
     訝しげに首を傾げる明儼を見て、たまらずふふっと笑声を漏らす。
    「いや? が『周瑜』なのだから、小さい方は『阿瑜瑜ちゃん』が似合うだろう?」
    「し、しっかり聞こえとるんじゃないか〜! 聞き流してくれ〜!」
    「ははは」
    「うなぅ」
     大きい瑜と小さい瑜はこんな調子で無事に衣食住を約束されたのだった。

    [了]
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