上原のバース性はαだった。
αの中でも珍しく、その体質は特殊でΩのヒートに影響を受けずらかった。
上原はΩが大の苦手だった。
甘すぎる香りを纏いながら自分の周りを囲い、媚を売る姿が嫌いだ。
だからこそ、Ωに対して上原は威圧的な態度を現してきた。
水篠旬はΩである。
バース性はハンターの階級にも比例しており、ランクはE級。周りからバカにされる毎日で、頻繁に襲われる事が多い。そしてなにより一番厄介なのが、Ωという体質はモンスターにも効くらしく、フェロモンに反応してそのへんのαを無視して旬目掛けて襲う。最悪のパーティと組めば囮にされる事は当たり前になっていた。
そうして最近、二重ダンジョンに巻き込まれた後、自分だけレベルアップ出来るようになり、今ではS級並みまで上がってきた。
ただ、大々的に公式に表示された時はあまりいい反応は無かったが…。
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「水篠さんの事を悪く言う奴らは全部僕がやっつけておきますんで!安心してください!!」
「いいよ、大体は予想してたから」
「今のうちに叩いて置かないと、水篠さんの隙を狙って何かしてくる可能性もあるじゃないですか! あ、水篠さんがやられるわけないとは思いますけど!」
「分かった分かった、好きにしてくれ」
カリカリとチョーカーの上から項をかきながら、画面に映し出されている多数の批判コメントが目に入る。S級だとしてもやはりΩだというだけで見下す奴らは一定数存在する。ハンター協会も旬の肩を持ってくれているが、世間の目は厳しかった。
「諸菱君、少し出掛けてくる」
「あっ、ダメですよ水篠さんッ!今日からヒートの日ですよね?薬も飲まずに外に出たら自殺行為ですって!」
「なぎ倒せばいいだけだろ」
「βの僕ですら水篠さんのフェロモンにメロメロになるんですからダメですって!!」
「やめろ、変な言い方するな」
「せめて薬飲んでくださいッーー!」
渡された薬をとりあえず受け取り、言われた通りに飲めば、うんうんと納得した顔で頷いた。
S級になる前はヒートが起きてもあんまりダウンすることなく動ける旬は、段々ヒートが強くなっていた。今回こそヒートは軽いだろうと、軽はずみな気持ちで外に出たのがいけなかった。
見たことある姿に目を追う。若干甘い香りが目立つが頭がおかしくなるほどのフェロモンの量ではなった。
(もう関わることもないだろ)
目が合うだけでもストレスだと、そのまま男とは真反対へ進んでいると、突然周りの声がざわついた。
上原が後ろへ振り向くと、旬が鼻と口を片手で押さえながら膝を地面についていた。
助けたくは無かった、いけ好かない所が気に入らなかった。そのまま何処かへ行こうとしたが、フェロモンに当てられたαたちが旬の周りを囲んでおり、力が上手く出ないのか反抗すら出来ていない。
そんな状況を見て更に苛立った上原は大声を出してα達を退かした。
「おい、退け」
周りがその声に驚いたのも束の間、旬だけ周りを囲んでいたαたちはそそくさと離れていった。
今まで嗅いできた中で一番甘く、影響を受けない体質の上原はどんどん頭の中がぐるぐると回りはじめていた。
振り向いた旬の目は若干潤んでおり、声も今までに聞いた事もないくらい甘いものだった。
「上原…?」
「っ……来い!」
上腕を引っ張り、無理やりにその場から離れさせる。
上原はαである。
旬のフェロモンに異常に反応し、理性が揺れていた。