「お砂糖を一匙」「やだなぁ」
分霊が辿り着くにはまだ遠そうな高所で、少女が体躯に不似合いな漆黒に彩られた猟銃を携えながら小さな声で呟いた。
髪に結ばれたものと揃いというように銃身に結ばれたリボンが、ひらりと夜闇に踊る。
なんとなくだけど。本当になんとなくだけど、という些細ではあるけれど嫌な予感がしていたから。多分これが動物相手なら、そんなことはないんだけど。普段は滅多に狙わない猪もなんか今ならいけそう。
朱花にとって、夜の闇は怖くない。暗い場所には慣れているし、明かりがない街並みはとても落ち着く。人の光に邪魔されない星空を呑気に眺めていたくなるのに、目の前の巨躯がそれを許してくれないし、建物が燃える匂いも不快だった。
放置しても良くないし、こうやって戦うのも危ない気がするという感覚にんー、と若干鳴き声にも似た音と共に首を傾げながら独りごちる。
「パパ、だいじょうぶかな。……だいじょうぶかな、パパなら。うん」
そんなことを言いながら、どこを狙うかを考えて。固そうな外側、疑似餌みたいな触手。
――だったら多分、あの赤い目しかないんだろうなぁ。実はちょっとあの目嫌い。同じ色なのにね。
場所を決めたら腹ばいになる。地面に体を預けて、力を抜いて。ぺた、と地べたに触れる素肌にコンクリートの冷たさと、ちょっと刺さってる砂利が気にはなるけど、今はまだ無視できる。
「――うん、ちゃんと通る」
照準を合わせてからトリガーを引いた後、スコープ越しに狙った場所にちゃんと当たったこと、その場所が弱いことを確認した後、別の目玉に狙いを変えてもう一度銃弾を叩き込む。
夜闇の中できらきらと光る赤い目が、分霊をじっと見据えていた。