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    lunatic_tigris

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    神掬び後、鏡が丸一日寝てた時に見た夢&オロチさんと鏡(カガミ)

    ##機密隊高月

    微睡む記憶 ふと目を離せば空気に解けて消えてしまうんじゃないか、と思わせるような作りものめいた少女が、ベンチに腰掛けている。服の袖から伸びている、ほっそりとした、華奢な磁器で作られたような肉の薄い腕の中に抱えた赤いランドセルが、妙にそこだけ現実的で。
     少年の隣に腰かけている少女は、滅多に自分のことは話さない。名前すらも、その口からは語られたことはない。ほんの僅かな時間を共有していながら、未だに互いの名前も知らないまま。
     彼女が聞いてくる事柄は、まるで通り過ぎていくそよ風のようなものが多い。何がしたいのか、ただ無言で傍にいることもある。
     確実なのは、どこまでも透明な視線の中に、臆した色は覗いたことは一度もないということだけ。――目にしたことがある、数少ない彩りは、白と黒の双子をその目に映して、その小さな指がふくふくとした手に握りしめられた時に映されていた。言葉は少なくても、どことなく、穏やかな春の日溜まりを思わせる温かさを滲ませて。
     初夏の日差しは、その色を濃くしつつある木の葉を伝って影の中へ滴って、ふわりと吹く風に流されつつも互いの肌へ光を落としていく。
     無言が続く。けれど、その沈黙は、決して気まずいものではなかった。ただそこに在ることを、許容し続けているような感覚すらあった。
     唐突に、公園で遊んでいた子供達と時計の針を硝子玉のような目で見比べて、少女は空虚に呟く。名残惜しいのか、そうではないのか、その声からの推察はできないけれど。
    「――もう、かえらなきゃ」
     ランドセルを抱えたままベンチから立ち上がれば、流れる水のように長く伸ばされた水色の髪が風に揺れて、さらさらと纏っていた雰囲気と絡まり合う。
     躑躅つつじ色が遊色する宝石細工のような水色と翠色の色違いの瞳は、どこまでも真っ直ぐで、何もかもを見透かしているようで。
    「……またね、おにいさん」
     そして約束とも言い難い、そんな言葉だけを残していく。
     確約なんてできないのに。それでも確かにあったことなのだと、楔を打ち込んでいくように。

         *

     ――そんな彼女・・は、今、目を閉じて病院のベッドに横たわっている。丸一日経った今でも、鏡は目を覚ましていない。
     微かな呼吸に合わせて上下する胸元だけが、まだその中で灯がともっていることの唯一の証明のようで。触れれば確かに温かいのに、オロチが呼びかけても、何時ものようにいらえは返って来ない。
    「――鏡」
     だくだくと自分で切り裂いた前腕から溢れ出していた赤い血の色が、病室の白に重なる。
     ハッカイが治した前腕の傷も、それ以外の傷も綺麗に存在していないのに。蒼白だった顔色も、今では仄かな血色が戻っているのに。このまま目が覚めないんじゃないかとすら思う度、触れている指先が、微かに震える。
     ――失うことが、恐ろしい。
     煤の黒と、他の傷に滲む赤に汚れた顔で呟かれた、後は頼む、という言葉が緩やかにのしかかる。
    「鏡」
     ――そっと、指先が動いた。
    「――オロ、チ」
     微かで掠れた声に瞬く間もなく、緩慢に起こされた左腕がするりと絡みついて引き寄せられる。もう片方の腕が、頭を抱き締めるように胸元へと預けた。
    「……ここに、いる」
     布越しの温もり、薄い胸の向こうで、静かで強く心臓が脈打つ音が聞こえる。
     右手はそのまま、髪を梳くように頭を撫でていた。
     ここにいる。少なくとも、今この時は。そう言うように。大丈夫だと言いたげに。
     視線だけを動かせば、夜明けの微かな明かりの中でもよく見える、春の日溜まりを思わせる温かさが、微かに開かれていたその色には確かに滲んでいて。――遠い日に見た、懐かしの。
    「……悪い、もう少し――寝かせ――」
     ――カガミの視界に映った、色違いの目。虹色と、青。そこに、今まで見ていた夢が重なったような気がしたけれど――すぐに、その意識は眠りに引き込まれていった。
     程なくして、静かな寝息が聞こえる。先程よりも、心なしかしっかりとしたその音が。
     暁光が覗き始める中、オロチも一旦目を閉じる。――そこにあるものを、確かめるように。
     
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