微睡 ――いつも夢は変わらない。
ずっと、ずっと同じ夢を見ている。どっちが現実にあったことなのか分からなくなるくらい、同じ夢。
前に住んでた家。戸を開ければ誰もいない。分かっていた。分かっていたのに見ないふりをしていた。いつか、普通の家族と同じようになる日が来るんじゃないかって期待もした。でも駄目だった。
親が仕事で忙しいから、なんて嘘も何回目か忘れるくらいに言って、大して話したこともない同級生や先生に卒業式の写真を撮ってもらった。後で見返した顔はやっぱり笑えてなかった。
分かってる。分かってたんだよ。本当は。
テーブルに置かれた現金と、使い回されてる書き置きのメモ用紙。覚えているのは、後ろ姿か、こっそり真夜中に起きて見てしまった化粧をする横顔。それと、掴もうとして振り払われた手の強さ。
お母さん、と呼んでもうっとおしいと言いたげな表情が嫌で、いつの間にか呼ばなくなっていた。
並んでいる化粧品に新しいものが増えていたり、それがふとした弾みで耳に挟むようなものだったり。数少ない言葉を交わす間際に、着飾っていることに気付いたり。
そんなことがあれば、いくら私でも分かってしまう。
この人の視界に、私は入っていない。
言葉は必要最低限に。それでも邪魔だと言われるのでまだ削って。もう喋らないでと言われたからそうした。
このことは普通なら喜ばしいことなんだろうな、と考えて、自分なりに努力して。
そうしたら溜息を吐かれて。それで、と言わんばかりの表情をされて。その後に残る、まだ話すことでもあるの?という嫌そうな表情に、無いとしか言えなくて。――最後には、報告すらさせてもらえなかった。
残ったものは何もない。最初から夢だったみたいに、色んなものが無くなった部屋を見て、それでも取り落とすまいと大学の卒業証書は胸に抱えて。
そこで、目を覚ます。スマホの時計は、無情にも現実だと教えてくれた。
少しだけ泣きそうになっても、そんな感情は慣れていたから泣くこともしなかった。
自分が道を外れなかったのは、目標を作り続けていたからというのもあるかもしれない。大学は好きなところを選んだけれど、高校はあえて厳しいところを選んでいたし、次は企業で自分を縛った。理由を作り続けて、だから大丈夫なんて欺瞞を言い続けて。
でも、理由があっても目標が無くなってしまった。
どうしよう、と途方に暮れる自分も居たけれど、自分はもう社会人なので。会社に勤める人間なので。もしかしたら、の可能性に少しだけ掛けていたりもした。何時か王子様が、なんてロマンス的なものじゃなくて、こういう生活を続けてたら勝手に壊れるんじゃないかな、なんていうマイナスのものだけど。
でも、もう少しだけ頑張ってみようかなと思わせたことが一つある。
入社して大体三ヶ月目の頃。高月、というところから推薦が来た。たったそれだけ。働き続ける理由ができた。動いて動いて動き続けて、そしたら何時か楽になれるかもしれない。討伐自体には危険がないけれど、災害の危険性はある。なら、それでいい。
要するに、私は運命を探していた。多分一番近い言葉は、私を殺してくれるものなんだと思う。
意外にも討伐は性に合っていて、プールサイドで屈むようにこちらを覗き込む、「うおちゃん先輩ってベタみたいなところありますよね」なんて艶やかな黒髪をした後輩の言葉を思い出した。まあその後輩には高月でまさかの再会をしてしまったけど。あと、意外と母校の卒業生が多いことに驚いて、彼女の心労が少しだけ偲ばれた。
それで――後は、惑って逃げて中略、それから少しだけ期待するようなことがあって。
まあ、駄目だったけど。